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ポストゲームショー(田口壮) 遠くない? カブスの呪縛が解ける日

長年苦しめられてきた"呪い"をついに解くか、と注目されたカブスが、ナショナルリーグ優勝決定シリーズで力尽きました。1908年以来となるワールドシリーズ制覇の夢はまた先送りとなりましたが、知将ジョー・マドン監督のもと、呪縛から解放される日は遠くない、と思わせる戦いぶりでした。

ヤギを連れたファンの入場断り…

知将マドン監督(左)はチームをまとめ、地区優勝決定シリーズを勝ち上がった=共同

知将マドン監督(左)はチームをまとめ、地区優勝決定シリーズを勝ち上がった=共同

カブスはナ・リーグ中地区3位ながら、ワイルドカードゲームに滑り込み、カージナルスとの地区優勝決定シリーズを勝ち上がりました。しかし、元オリックス監督のテリー・コリンズさん率いるメッツとのリーグ優勝決定シリーズは0勝4敗。勢いを止められてしまいました。

それでも、あのマドン監督なら何かを起こすのではないか、という期待を呼び起こし、来季につながるシーズンとなったのは確かです。

「呪い」の由来はこうです。

45年、ワールドシリーズに進出したカブスはタイガースに3勝4敗で敗退しました。2勝1敗で迎えた地元、シカゴ・リグレーフィールドでの第4戦から連敗、何とかタイに持ち込んだものの最終戦で敗れました。

この試合でヤギを連れたファンの入場を断ったことが、ケチのつき始めでした。それまではずっとヤギ連れで入場を認められてきたそうで、突然、門前払いされたこのファンは怒り「もうここでワールドシリーズが行われることはないだろう」と不吉な予言をして立ち去った、といいます。以来、カブスは呪われ、たたられ続けているというわけです。

1871年に創設された大リーグ最古の球団の一つで、1907年、08年とワールドシリーズを連覇した伝統球団が、この年以来"世界一"どころか、ワールドシリーズにも進出できていないのは確かです。

ポストシーズンでも味方のファンがファウルボールに手を出したプレーがもとで敗退するといった、何かにたたられているとしか思えないようなシーンもありました。

かつてはチームがばらばらだった

カブスに1シーズン(2009年)在籍して、私が感じたのはチームがばらばらだということでした。勝ちたいという気持ちはみんな持っていました。けれども、それが一つの方向にまとまっていかないのです。

チーム内にいくつかグループができていました。人間の集団ですから、どのチームにも必ず派閥のようなものができます。ただし、強いチームはいざグラウンドに出たら、チームのためにやるべきことをやり、結束します。カブスの場合は試合になってもばらばらでした。のろいやたたりといったおとぎ話ではなく、負けるには負けるだけの理由が現実にあったのです。

このチームが変わり始めたのはセオ・エプスタインさんが編成担当職に就いてからです。レッドソックスで、当時メジャー史上最年少のゼネラルマネジャーとして名をはせ、04年、86年ぶりにレッドソックスにワールドシリーズ優勝の栄誉をもたらした人です。

リーグ優勝決定シリーズでは、コリンズ監督(左から2人目)率いるメッツがカブスの勢いを止めた=共同

リーグ優勝決定シリーズでは、コリンズ監督(左から2人目)率いるメッツがカブスの勢いを止めた=共同

生え抜き選手育てながらチーム強化

このやり手がほれこんで、今季、監督に招いたのがマドンさんでした。

生え抜き選手を育てながら、チームを強くしていくという手腕がレイズ(元デビルレイズ)で輝きました。

06年から14年までの9年間でアメリカンリーグ東地区優勝2回、ポストシーズン進出4回、ワールドシリーズ進出1回という戦績です。

ヤンキースやレッドソックスという、伝統も財力もある球団が属するメジャー最激戦区で、新興の弱小球団だったレイズが毎年のように優勝争いをするまでになったことに、人々は目を見張ったものです。

メジャーではもう当たり前になった「三遊間がら空き」などの極端なシフトを始めたマドンさんのすごいのは、常識にとらわれない、ということでしょう。遊撃手のいる場所、三塁手のいる場所というように「定位置」が決まっていますが、果たしてそのセオリーは正しいのか? こんなふうに、常識を疑うところから、豊かな発想がわいてくるのですね。

地区優勝決定シリーズではスクイズを連続で決めるなど、相手の心理を読み切った作戦も光っていました。

選手をリラックスさせる目的だったのでしょうか。プレーオフ進出争いまっただなかの9月、マドンさんは移動動物園を球場に呼んできました。フラミンゴやジャガーの子供とふれあい、選手も家族も心がずいぶんなごんだようでした。これも「マドン・マジック」の一端です。

ルーキー4人を中心にチームに求心力

近ごろは生え抜きの選手を多く擁したチームが、ポストシーズンに進出するという傾向が顕著です。メッツもそうなのですが、カブスもまた生え抜きの選手がどんどん育ち、躍進を支えました。

リーグ優勝決定シリーズ第4戦のメンバーには三塁手のクリス・ブライアント選手(23)ら、ルーキー4人が名を連ねていました。彼らを中心に求心力が生まれ、スタンドのファンも「俺たちのカブス」という気持ちを一層高めて声援を送りました。

カブスもヤンキースなどと同様に、FAの大物選手獲得で強化しようとした時期がありましたが、やはり、チーム作りとしてはこちらの方が王道ということでしょう。

エプスタインさんらは、中長期的なチームの強化計画を立てていて、マドン監督を招いた今年を5年計画の1年目と位置づけていました。

"初年度"の戦績、予想以上の成果

"初年度"に地区優勝という成績は関係者にとっても予想以上の成果だったと思います。

メッツのマーフィーはポストシーズン新記録となる6試合連続本塁打をマークした=共同

メッツのマーフィーはポストシーズン新記録となる6試合連続本塁打をマークした=共同

ただ、このままチームがすんなりと"世界一"への道を駆け上がっていくかどうかは、もう少し時間をかけてみる必要があるでしょう。

マドン監督はレイズ時代の08年、球団創設11年目にして初めてシーズンで勝ち越し、ワールドシリーズに駒を進めました。岩村明憲選手がいましたから、ご記憶の方も多いでしょう。このシリーズは私のいたフィリーズが勝ちました。マドン監督はまだ"世界一"にはなっていないのです。

若い選手をのびのびと育てて、個々の地力を伸ばしていくということにかけて、マドン監督の手腕は疑いようもありません。ただ、優勝争いの常連となり、ワールドシリーズを制覇するということになると、チームとしてもう一段の進歩が必要です。

リーグ優勝決定シリーズの敗退が決まった第4戦では右翼前に落ち、二塁をうかがえる打球だったにもかかわらず、打者走者が一塁で止まってしまうというミスがありました。

カブスの野球にはまだまだ粗いところがあります。長丁場のシーズンは個々の能力の総和で決まってくるという面があります。しかし、ポストシーズンの短期決戦を勝ちきるには走攻守にわたり、もっと意識を高め、誰かがミスしても誰かが確実にフォローするといった、本当の意味での「チーム」を築かねばなりません。全員が一つの方向を向くことが大切です。

少しずつ結束力が出てきたカブスとはいえ、この点ではやっとスタート地点に立ったにすぎません。チームにとっても、マドン監督にとっても、まだ大きなハードルが残っているわけです。

ヤギの呪い伝説に新たな1ページ

カブスを4連敗に追い込んだのはメッツのダニエル・マーフィー選手でした。この4戦での連発を含め、リーグ優勝決定までの時点で、ポストシーズン6試合連続本塁打の新記録を作りました。

地元ではこの「マーフィー」という名の話題で持ちきりだったようです。なぜなら、それは70年前にリグレーフィールドへの入場を断られたヤギの名前だったからです。

少しできすぎの感もありますが、ヤギの呪い伝説に新たな1ページが加わったわけです。しかしその分、呪いの"破りがい"も増しました。マドン監督とカブスが残るハードルをクリアし、呪いを解く日がくるのでしょうか。

(野球評論家)

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