本田道 選手の育て方(下) トップは哲学伝道師
サッカー日本代表の本田圭佑は経営者の顔も持つ。今は小学生向けのスクールからトップチームまでの実質的なオーナー。選手との兼業とはいえ遊びではない。「世界で一番競技人口が多いスポーツですから。成果を出せばある意味、世界中を巻き込んでいることになる。使命感はすごく感じていますけどね」

本田が所属事務所などを通じて6月に経営権を取得したオーストリア3部のSVホルン。人口6千人の小さな町クラブの経営にも本田は時間を費やす。全試合の映像をチェック。J2札幌から獲得した榊翔太には助言を送る。パスが出てこなくても継続して動き続けた方がいい。全体練習の後に走り、体幹を鍛えろ……。「自分が悩んでいたことを的確に言ってくれる」と榊は感謝する。
サポーターがドラムを使った応援を始め、クラブとの話し合いの場を月1度設けたことも本田の提案だ。週に1度、強化担当者と電話会議。関係者から集めた補強候補の選手の情報も伝える。
千葉・幕張に12月に開設する自社グラウンドでは、テニスやゴルフも楽しめるようにする。「企業理念としてはサッカーを通じて人々に夢や希望を与えたい、それを継続し続けたいというのがあるんですけど、サッカーだけっていう考えでもないんですよね。他のスポーツでも地域の貢献につながればという思いも多少はあるんです」
業態を広げるオーナー本田の目に、所属するACミランはどう映るのか。
「なぜ悪いかを分かっていないような気がします。気づかずにさまよっているんで選手としてやっていて難しさは続いています。過去の栄光を捨て切れていないのか、昔と同じやり方でいけると思っているのか。どちらにしてもフィロソフィーが感じられないというか。一体感みたいなのが薄い感じはしますよね」
哲学は本田が経営で最も重視するものだ。「それがないと動物園になっちゃいますんでね。会社が歩んでいく方向をしっかり社員全員に伝えることこそトップの役目だと思いますけどね」
「言うのは簡単ですけど自分のやりたいことを現場に落とし込むのは簡単ではない。それが危機感としてあるので、こういうふうに継続して発信しないと。一回言っただけで分かってくれるほど人と人はつながっているわけではないんでね」
経営的な視線は日本代表にも注がれる。「ラグビーの代表に外国人は何人いるんでしたっけ?」。今回のワールドカップのメンバー31人中、海外出身は10人。そのうちサッカーでも代表になれる国籍取得者は5人だ。サッカーでは2003年に帰化した田中マルクス闘莉王(名古屋)以来、海外出身者はいない。
「それをサッカーもしますか」と本田は言う。「した方がいい」ではなく、「しますか」と。
本田は自らの経営を通じて国籍の壁を越えようとしているようにも映る。ホルンのオーナーになったのも、日本人だけでなくアジアの選手の欧州挑戦の機会を増やす狙いがある。海外の力を日本代表に取り込む有効性を確信したとき、経営者・本田が自ら動き出しても驚きではない。
(谷口誠)
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