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異例の「誤審」発表が問うラグビーの将来像

W杯、豪州対スコットランド戦の勝敗分けた笛

ラグビーワールドカップ(W杯)イングランド大会の準々決勝、オーストラリア対スコットランド戦で、豪州の逆転ペナルティーゴール(PG)につながったレフェリーの判定について、国際統括団体ワールドラグビー(WR)が「誤審だった」と発表したことが波紋を広げている。本来はレフェリーを守る立場の主催団体が誤審を公式に認めるのは極めて異例。ビデオ判定の対象の拡大を求める声もあり、準決勝以降の試合にも少なからず影響を与えそうだ。

「誤審」後のPGで豪州が逆転勝利

豪州とスコットランドの試合は18日(現地時間)に実施。問題のシーンはスコットランドが34-32で豪州をリードする後半38分に起きた。スコットランドの選手がノックオン(ボールを前に落とす反則)したボールを前にいた味方の選手がプレーしたと判断し、主審のクレイグ・ジュベール氏(南アフリカ協会)は「ノックオン・オフサイド」というペナルティーをとった。豪州はPGを狙い、35-34と逆転。そのまま試合は終了した。

ペナルティーの直後から観客席がざわめき始める。会場に映し出されたスローモーションの映像では、ペナルティーを科されたスコットランドの選手がボールをプレーする前に豪州の選手がボールに触っているようにも見える。もし触っていればオフサイドは解消し、豪州ボールのスクラムでの再開となる。スコットランドのSH、レイドロー主将はテレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)によるビデオ判定をジュベール氏に求めた。ただ規定では、ビデオ判定はトライにいたるプレーや危険なプレーに限られている。レイドロー主将の要求は認められなかった。

元代表選手らもジュベール氏を批判

スコットランドにとって勝利が手からこぼれ落ちたショックは計り知れない。すでに試合が終わっていた準々決勝3試合では南ア、ニュージーランド、アルゼンチンが勝ち進んでいる。南半球の国だけの準決勝を避けるには、スコットランドが最後の「砦(とりで)」という期待もあったのだろう。ネット上などではジュベール氏への批判が噴出。元スコットランド代表のギャビン・ヘイスティング氏はテレビ解説で「主審に会ったら、本当に腹が立ったと伝えたい」などと公言した。

ジュベール氏が試合が終わってすぐにフィールドを立ち去った振る舞いにも批判が及んだ。元イングランド代表のマット・ドーソン氏はツイッターに「恥さらしのジュベール氏はもう2度と試合をさばくべきではない。あの判定を下した後、よくもピッチから走り去れるものだ」と投稿している。

慌てたWRは試合翌日の19日(同)、ジュベール氏の判定を「誤審だった」と発表。ビデオ判定を認めなかった判断は支持しつつも、最初のノックオンを適用し、豪州ボールのスクラムで再開すべきだったと結論づけた。ジュベール氏の試合後の振る舞いについてはWRのブレット・ゴスパー最高経営責任者が「彼自身の判断」との見解を示した。

WRの対応に疑問の声も

今度はジュベール氏への同情論とともにWRの対応について批判が上がる。豪州のヘッドコーチ、マイケル・チェイカ氏は「WRの対応がひどすぎる。こんなことは今までなかった。ジュベール氏には同情する」とコメント。元イングランド代表のウィル・グリーンウッド氏も「判定はスコットランドにはつらい結果になったとはいえ、ジュベール氏への中傷や侮辱はラグビー精神を損なう」と苦言を呈した。ジュベール氏は国際試合の経験が豊富で、前回の11年大会の決勝戦、NZ対フランスをさばいた実力者でもあるのだ。

関東ラグビーフットボール協会の公認レフェリーの資格を持っている筆者は、問題のシーンをビデオで何度もチェックした。一連の流れではジュベール氏と同様、ノックオン・オフサイドにしか見えない。スローモーション、それもコマ送りしないと豪州の選手がボールに触れているとは分からないレベルだ。主催者側がこれを「誤審」とするのは正直、酷だと思う。ジュベール氏ははしごを外されたようなものだろう。これではレフェリーが自信を持って判定を下すのをためらったり、そもそもレフェリーを目指そうという人がいなくなったりするのでは、との危惧すら抱いてしまう。

ビデオ判定の対象、拡大求める動き

そして早速、ビデオ判定の対象を拡大すべきだという声も出てきた。ジュベール氏と同じ南ア協会所属で、元トップレフェリーのジョナサン・カプラン氏は、すでにテニスやバレーボール、アメリカンフットボール、野球のメジャーリーグなどで採用され、微妙な判定に対しビデオ判定を要求する「チャレンジ制」の導入を提案。「現代のラグビーはあまりに速く、複雑になりすぎている」との見解を示している。実際、南ア国内では「2人主審制」などを試行している。

1995年にラグビーがプロ化されて以降、プロ選手にとっては勝敗が生活を大きく左右するようになった。「レフェリーが絶対的存在」というラグビー独特の文化、美徳はアマチュア時代へのセンチメンタリズムとなりつつある。国内外を問わず、フィールド上では選手がレフェリーの判定にいちいち口を挟むようになり、レフェリーは様々な角度から撮影される映像のチェックにさらされる。微妙な判定にはチーム関係者から映像を録画したDVDとともに説明を求める文書が送られてくる。WRの今回の対応でレフェリーの地位はまた、変わるのだろうか。

(電子編集部 松井哲)

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