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ランチを制するものは仕事を制す

「最近、健康的な昼食がとれていない」「気がつくと昼を抜いている」――。入社7カ月が過ぎた新人探偵(24)の周囲からはそんな嘆きが聞こえる。腹が減っては戦はできぬ。働く若手のランチ事情をのぞいてみた。

社食は無料、きっかり1時間

料理家2人が持ち回りで献立を担当するはてなの社員食堂(東京都渋谷区)

「いろいろな社食を食べ歩きましたが、キングオブ社食と言えば専門の食事スタッフのいる『はてな』です」。ある事情通の証言を頼りに東京・表参道駅から徒歩5分。根津美術館の隣という閑静な場所にある情報サイト運営のはてなを訪ねた。

午後1時、食堂のある3階の廊下に社員の列ができた。ランチの時間だ。楽しそうな笑い声が響きわたり、湯気が出る料理が運ばれてきた。修学旅行を思い出す大きな炊飯器で炊かれた真っ白なご飯に、味噌汁、豆や野菜がバランスよく調理されたおかず。

「ランチも、それ以外の軽食も全て無料です。財布を家に忘れたとしても何も困りませんね」。人事・総務部長の松田光憲さんはこう説明する。無料とは随分太っ腹だ。

東京本店の従業員数は約40名。自前で給食設備を持ったり、外部の社食会社を入れるほどの規模ではない。近隣のマンションの一室を使い、契約している料理家2人が持ち回りで給食を担当している。どちらかというと、「まかない」という言葉が似合う。2007年の夏、京都の本社でこの「まかないランチ」の制度は始まった。当初、女性スタッフが「皆で食べよう」と家でカレーを作ってきたのがきっかけだという。

お腹をすかせた探偵も、さっそく頂くことに。広報担当者の加藤有理さんは「特にエンジニアの人は、人によっては食事を忘れて作業に没頭したり、インスタント食品が続いたり。健康管理の一面も兼ね備えています。何しろ、手作りですから」と話す。

取材に熱中していたが、気づくと午後2時。食堂から社員が消え、先ほどのにぎやかさが嘘のよう。

広報の加藤さんが、わが意を得たり、という表情で説明した。「昼の時間は午後1時から1時間と決まっています。12時59分までランチの心配をせず、仕事のことを考えていられます。一斉に休んで、仕事に戻れるのも効率的です」。総務部長の松田さんも、「近所のコンビニや店までは往復で10分程度かかるので、1日2回コンビニに行くとしたら計20分のロスにもなりますし」。

おいしい食事の裏には、実に戦略的な思惑があったことを知り、思わず箸が止まった。

ランチ難民のサバイバルな2時間

健康機器メーカー、タニタ(東京・板橋)の健康志向な社食が話題になったのは記憶に新しいが、その後も社食に工夫を凝らしたり、無料にしたりする企業が増えている。だがその恩恵に浴するのは一握り。大半の会社員は昼休みのチャイムと同時に混雑するエレベーターを降りてオフィス街に繰り出す。グルメサイト「食べログ」が今年6月に発表した調査によると、ビジネスパーソンの外食ランチ予算は700~1000円が半数以上。また、かける時間は「30分以内」が34.8%で最多で、男性だけだと43.6%にものぼる。

一日35食をさばくという弁当移動販売の外国人(東京都港区)

実態はどうなのか。街に出てみることにした。向かったのは東京の官庁街・霞が関のお膝元で、中小オフィスのひしめく虎ノ門~神谷町かいわいだ。午前11時半、移動販売の外国人女性が押す手押し車が「お弁当500円」という紙をはりつけ、突如姿を現した。さっそく話を聞くと、「今仕事中」と警戒しながらも、「最近はあまり売れ行きが良くないのよ。ちょっと前は1日で50~60個は売れたけれど、最近は35個くらい。肉とかガッツリ系も多いから、客筋は若い人が多いよ」と教えてくれた。

正午、オフィスから出てくる人の数はピークに達する。飲食店に向かうIT業界の女性2人組は、「外食だと1000円はいくから、コンビニ弁当も週に何回かはまぜたりして、ランチの平均利用金額は800円くらいですね。とにかく高いから、月末に合算するのが憂鬱」と話す。

コンビニエンスストアから出てきたばかりの女性は右手にサンドイッチが入った袋を提げている。「忙しくて、なかなか外にも出られないし、出費のことも考えて結構コンビニですね。社食はないし、ランチの出費は結構痛手です」(金融業界、25歳)

ビルの谷間で食事をとる人たち(東京都港区)

ビルの谷間のベンチでは、年齢層もバラバラな男女が座っていた。皆、一心不乱に携帯をいじりながら、スープや弁当を食べている。いわゆる「孤食」というやつだろうか。IT業界で働くという25歳の男性は、「基本、ランチは500円で済ませますね。会社の前に何台かリヤカーがくるので、その中から弁当を買っています。店には行かないですね」。

有楽町駅近くのベンチで、お弁当箱をひっそりと開ける男性。トマトに野菜、ふりかけご飯に至るまで作り込まれている。愛妻弁当か。「奥さんじゃなくて、母親の手作りですよ。高校生の妹がいるので、ついでに作ってくれるんです。ほぼ毎日営業で外回りだから、合間の時間を見つけて食べています。ランチ代金は、やっぱり結構な出費なので、僕は恵まれています」。著名航空会社に勤める24歳は爽やかに答えた。

ランチ版「富山の置き薬」

理想と現実のギャップは深いようだ。だがそんな「ランチ格差」をビジネスチャンスと狙う企業も現れた。ベンチャーのおかん(東京・渋谷)だ。

総菜提供サービス「オフィスおかん」は企業の共有スペースに専用の冷蔵庫を設置し、定期的に商品を補充する。いわば「富山の薬売り」のようなサービスだ。昨年3月にサービスをスタートさせ、現在では200社を超える企業を顧客に抱える。アイデアは、社長の沢木恵太さんが、新卒で月間400時間を超える激務のコンサルティング企業に入社したことがきっかけで生まれた。

オフィスに設置された「オフィスおかん」の冷蔵庫。賞味期限は1カ月と長め(東京都渋谷区)

「当時、仕事が激務で、食事をとる時間がありませんでした。主食はオフィスにあったグリコのお菓子。お菓子以外にも気軽に健康的な食事をとれたらな、と思ったんです」

オフィスの移転プロデュースを行うヒトカラメディア(東京・渋谷)は今年の2月から「オフィスおかん」を導入した。月に約3万円で冷蔵庫が会社に有償で貸し出され、そこに真空パックがほどこされた総菜が定期的に補充される。取締役の田久保博樹さんは「容器を移してから温めるなど、少し手間はかかるが、安いしおいしい。社員も満足している」と語った。

無添加だが、賞味期限は1か月と長い。業務スペースの横にある冷蔵庫を開けると、「福井県の里芋」など健康的な総菜が詰め込まれていた。「鶏肉やハンバーグなどのガッツリ系が人気ですね。私はコンビニで買ったカレーに載せて食べています」と田久保さん。価格は平均して100円と安価で、働くママが自宅に買って帰る例も増えている。

面白いのは、「オフィスおかん」のホームページに設置された「おねだり」ボタンだ。自分の会社がランチに気をつかってくれない。そんなときは、このボタンで「通報」すればいい。簡単なフォーマットに会社名や導入したい理由などを記入すると、おかんの担当者が会社に営業に行ってくれる仕組みだ。「働く環境を整え、優秀な人材を獲得するため、など福利厚生を使用して何かしらの目的につなげている企業が多いですね」と沢木さんは語る。

取材を終えて

社食、外食、コンビニ、孤食に置き総菜……。一口にランチといっても実に様々だ。これから飛び込むコンクリートジャングルでどう生き抜くか、いまから考えておきたい。

(雨宮百子、鈴木洋介、中山美里)

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読者からのコメント
30歳代女性
職場にウォーターサーバすら置かない企業はつぶれるべき。その上社食はずぶずぶに癒着して何の努力もせず高くてまずいご飯しか提供しない子会社が運営していたりするのだから本当に迷惑。僻地すぎて周りにたいした店もなく、コンビニの添加物だらけのものを食べるはめになる。劣悪な職場環境。

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