本田道 選手の育て方(上) 成長の扉、挫折が開く
サッカー日本代表の本田圭佑は来年4月、千葉県幕張に高校生世代のチーム「SOLTILO(ソルティーロ) FC」を設立する。これで小学生向けのスクールから、オーストリア3部のSVホルンまで、各年代のチームの実質的なオーナーとなった。どんな哲学で選手を育てようとしているのか。
サッカー選手が若年層のうちに育むべき力について本田はこう話す。「もし唯一、挙げるなら心技体における心の部分。物事がうまくいかなかった時に心が折れない強さは必要なポイントですよね。失敗を経験している選手の方が、ポテンシャルとしては強いわけですよ」

本田自身、「技」「体」がもともと突出していたわけではない。G大阪のジュニアユースからユースへの昇格はかなわず、星稜高(石川県)を経てプロ入りを果たした。挫折を成長の糧に変える「心」の力でここまで来たと言っていい。
同時に「指導で伝えるのは一番難しいポイントかもしれない」とも話す。必要なのは「失敗を繰り返すことなんじゃないか」。それを許せる指導者は、洋の東西を問わずなかなかいないようだ。
「日本と海外、どちらの指導でもあるのは『失敗してもいい』と言っても(実際に)失敗したら(下のチームに)降格だったりという評価基準が色々あるんですよ。それやったら言うなって話ですよね。失敗しても全然問題ない。ただ、特に若い年代はどうして失敗したのかを考えさせたい」
ソルティーロの指導者とテレビ電話をしたり、練習の映像を見たりして指導の細部まで関与するという本田が、心の磨き方の一例に挙げるのが「二極化トレーニング」とも命名できそうなもの。
「パス練習をするとします。まず慎重さを重視した、スローペースの練習をする。ここではわりとミスに厳しく指示を出す。練習の後半ではミスをしてもいいけど、かなり高度なスピードを求める。シュートにしてもボールポゼッションの練習にしても、二極化とかをうまく使うことで、どうしたらミスが出にくいか選手も分かってくる」
「速さ」という負荷を掛けるとミスは増える。多くのミスを体験することで選手は自分の改善点が分かる。正確性を追求する練習を合わせてやることで、その改善点を克服できるということだろう。
CSKAモスクワにいた頃、弱点を克服すべく考案した方法だという。「(自分は)もともとスピードが出ない選手なんで、もうちょっとスピードをつけたいとか日々考えていた。足が速ければこういう練習メニューは出なかったでしょう。ミスなく安全にプレーするのが基本スタイルなんで」。プレーの「速さ」を身につけるため、ミスに多少目をつぶって練習中のテンポを上げたことで成長の道が開けた。
本田が育成に乗り出した背景には一種の"後悔"もあるようだ。「ここまで来るのに自分で練習メニューを決めてきた。かなり遅かったのもたくさんある。子供の頃から(今のような練習を)やっていたらとんでもない選手になったと思う。子供たちは早い段階から必要なものを最高のレベルで身につけた方がいい」。自分を超える選手を生み出すため、その経験を還元しようとしている。
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