2019年5月25日(土)

駆け引きの技磨き世界陸上「銅」 競歩・谷井孝行(上)

2015/10/24 6:30
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銅メダルを首にかけた谷井孝行(自衛隊)はその重量以上の重みを感じた。8月の陸上世界選手権(北京)男子50キロ競歩で3時間42分55秒で3位に入り、五輪と世界選手権を通じて日本競歩初のメダルを獲得。先人たちが積み上げてきた努力の果てに「やっとその時が来たのかな」。

レースは開始から程なくしてマテイ・トート(スロバキア)が集団から抜け出て、先頭に立った。さほど速くないペースだったから谷井はついていくことはできたが、自重する。

自己ベストはトートが3時間34分38秒で、自身は3時間40分19秒。ここで追いかけて消耗し、後半に振り落とされれば、メダル獲得の夢も露と消えかねない。一対一の勝負を挑むことには「厳しいものを感じた」。その後、トートはトイレに駆け込むハプニングがありながらも独走優勝を果たしたから、ついていかなくて正解だったのだろう。

受け身から脱却、ペース操る側に

2位グループの争いも、それはそれで激しかった。5キロごとのペースはゆったりとしていても、急激なペース変化が幾度もあった。ライバルを振り落とすために誰かが急加速し、効果がないとみると直ちにペースを落とす。両足が地面から離れる「ロス・オブ・コンタクト」と、接地した足が地面と垂直になる前に膝が曲がる「ベント・ニー」の違反に注意しながら、ペース変化の連続に耐える体と心を持つ者だけがメダル獲得の有資格者となる。

ペースの上げ下げを主導したのは、2位になるロンドン五輪銀メダルのジャレド・タレント(オーストラリア)と、5位になる2013年世界選手権覇者のロバート・ヘファーナン(アイルランド)、そして谷井の3人だったという。

自らペースを操る側に回ったことは「以前はなかった」とコーチの小坂忠広。昨秋のアジア大会(韓国・仁川)の優勝後に駆け引きの練習を積み、外国勢のペース変化についていくだけの受け身の姿勢から脱却。たくましさを増していた。

五輪でも武器になるレースパターン

谷井は快挙の一因に荒井広宙(ひろおき)の存在を挙げる。自衛隊体育学校で鍛える2人は練習をともにすることもしばしばで「一緒に歩いているときのリズムを体が覚えている」と谷井。終盤で4番手に後退した谷井は、後ろから追い付いた荒井と歩くうちに普段のリズムと落ち着きを取り戻した。へばったヘファーナンを2人でとらえ、荒井は4位入賞を果たした。

50キロは同じ自衛隊体育学校の山崎勇喜もいて、20キロは世界記録保持者の鈴木雄介に高橋英輝(ともに富士通)と、こちらも有力選手が居並ぶ。荒井と2人で海外の強豪と渡り合った今大会のレースパターンは、五輪でも「日本の武器になる」と谷井は自信を見せる。

今回のメダル獲得でリオデジャネイロ五輪代表に内定。世界選手権ではトートとの勝負を避けたが、五輪は何事にも挑める自分で臨みたい。その先に五輪初メダルの偉業が待っている。

(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊10月19日掲載〕

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