/

[FT]メルケル首相、難民急増でかつてない苦境に(社説)

Financial Times

ドイツのメルケル首相は、ユーロ危機対応や失地回復主義であるロシアとの欧米の外交での中心人物であり、欧州で最も有力なリーダーとして長く評価されてきた。しかし、ドイツを席巻して首相の運命をも左右しかねない難民問題が深刻になり、同氏は次第に追い詰められているように見える。

メルケル氏は9月4日に欧州の亡命規則の適用を一時的に停止し、欧州に足止めされる数千人の難民がオーストリア経由でドイツに入国するのを受け入れるという、首相に就任してからの10年間で最も劇的な決断を下した。同氏の行動はこの時、長らく妥協と合意の精神に導かれてきたリーダーによる大胆な行為と評価された。ナチス政権の過去が付きまとう同国にとって、迫害から逃れてきた、特にシリアからの移民をメルケル氏が受け入れたことは道徳的なリーダーシップの表れだ。

移民数、年内に80万人にも

しかし、同氏が下した決断がドイツ社会にもたらした影響は、今やあまりにも明白だ。9月だけで約20万人の移民がドイツに入国し、その数は年内に80万人に達すると見込まれる。2015年の総数はミュンヘンの人口に相当する150万人になるとの推計もある。移民の流入は住宅問題に苦心する地方自治体を圧迫し、国の医療や教育の制度へのしわ寄せを懸念する声が広まった。

同時に、ドイツの世論は苦悩を深めている。ある調査では、国民の約51%が移民の流入を不安視している。9月と比べて13ポイントの増加だ。メルケル氏の評価も、11年のユーロ危機以降で最低の水準まで落ち込んでいる。同氏が率いるキリスト教民主同盟(CDU)からも今週、同氏の手法が「国の破滅的状況」を招いていると非難する声が上がった。

メルケル氏は「我々にはできる」というスローガンを掲げている。英国のキャメロン政権など、他国が難民に対して利己的な姿勢を取る中で、自身の主義を諦めないというメルケル氏の決意は称賛に値する。しかし、この崇高な道徳的姿勢が機能するのは中東やアフリカからの移民の流れをなんらかの方法で制御する政策がある場合だけであり、そうした政策はいまだ見えてこない。

メルケル氏は今週、亡命申請が認められなかった人々を国外退去させやすくする法案を可決する措置を講じ、国民の懸念を和らげた。ドイツはそうした移民の33%を送還しているが、これは欧州連合(EU)内で最も低い水準だ。15日に同氏が示したように、「我々は十分にはほど遠いと認めなければならない」。

しかし、欧州レベルで十分な決意がなければ難民の流れは制御できない。そして、この点でEUの取り組みは不十分だ。EUの国境管理機関である欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)は今月初め、難民の受け入れ手続きを支援するために775人の追加人員を派遣するよう加盟国に求めた。これまでに手配できたのは48人だけだ。難民キャンプの状態を改善するためにシリア対策の基金として5億ユーロの国家資本を拠出する約束も交わされたが、これまでに集まったのは800万ユーロだけだ。

トルコと合意できるか試練に

移民の流入規制についてEUがトルコと合意できるかどうかという試練も迫っている。合意に至るには、EUは、難民に働く権利を与えるようトルコを説得しなければならない。これはトルコ国民が査証免除で域内を移動するのを認めることを意味するが、多くの加盟国はこれを受け入れないだろう。

迫害から逃れる人々にドイツへの扉を開くというメルケル氏の決断は尊敬に値する。次は、難民の流入は制御されているとドイツ国民に納得させる必要がある。同氏がこの難民急増の危機のかじを取れることと、EU加盟国からその支援を得られることを願わずにはいられない。

(2015年10月16日 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン