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マラソン連戦で悟った、大会までの過程を楽しもう

編集委員 吉田誠一

フルマラソンを走ったあとに自分の体のどこがどのくらいダメージを受けているのかはよくわからない。どこの筋繊維がどれだけ痛むのだろう。内臓の問題は血液検査を受ければわかることがあるはずだが、家で手軽にそんなことはできない。それはともかく、大事な心の部分がどれだけ疲弊しているのかがわかりにくい。

9月27日にベルリンマラソンを3時間27分3秒で終えた私には2週間後にいわて北上マラソンが待っていた。さて、自分はどんな心身で大会を迎えることになるのだろうか。

いわて北上マラソンのコースの沿道は紅葉が始まっていた

イケイケだった昔の自分が懐かしい

ベルリンはいいランニングフォームで、無理のないペースで楽に走れたので、直後に感じた主観的な疲労度はきわめて軽かった。翌日の長い帰国の途も苦にならなかった。

とはいえ、レースの3日後に走り始めてみると、腿(もも)の裏側や臀部(でんぶ)の奥のほうに張りがあるのがわかった。脚のバネが落ちている。この脚の状態が本番までにどの程度、回復するのだろう。内臓はどんな具合なのだろう。

以前も書いたが、中2週間でのフルマラソンの連戦は経験がないわけではなかった。2013年10月に北上→大阪、12年4月にはかすみがうら(茨城)→デュッセルドルフ(ドイツ)と連戦。ともに記録は2戦目のほうが悪かった。

直前に、衝動的に出場を決めたデュッセルドルフは精神的に非常にきつかったのを覚えている。やめときゃ、よかった。衝動買いは控えたほうがいい。

しかし、12年2月の別府大分→東京では2戦連続で自己新を記録した。東京の3時間16分2秒が現在の自己ベストとして残っている。このシーズンほど夏場に走り込んだことがないので、その蓄積がものをいったのかもしれない。

古くは07年秋にベルリン、ネス湖(スコットランド)と2週連続のフルマラソンに挑み、続けて自己ベストを出した。2戦目を非常に慎重に走ったのが奏功し、1戦目のタイムを3分も上回った。コースが短かったのだろうか?

もちろん、いまはそんな快挙を期待していない。あれから8つも年齢を重ね、53歳になっているのだから。あのころは若かったとあらためて思う。

大会に出るようになり、まだ5年目だったので精神が擦り切れていなかったのかもしれない。ランナーにしてアドベンチャーだった。イケイケだった自分が懐かしい。

「集中しろ」自分に強く言い聞かせ

いまはイケイケではない。それなのになぜ、中2週間で連戦? サッカー記者なので(私がランニングコラムだけで食べていると勘違いしている方がたまにいる)週末は基本的に取材がある。大会出場のために休暇を取りやすい期間は限られる。いろいろ考えると年内は北上しかなさそうだということになった。

振り返ってみると「連戦でも何とかなるんじゃない?」という軽い考えでエントリーに至ったような気がする。ネットエントリーというのは困ったもので、軽はずみでボタンを押しがちだ。ネットショッピングも同じなのではないか。

ベルリンから帰国後は「ここで集中力を切り、ダラダラになってはいけない」と自分に言い聞かせ続けた。そうなってしまうと、非常につらいレースになるのがわかっていた。集中し、ある程度緊張し、闘志を抱いていないとマラソンは走り通せない。ふにゃふにゃになったら、その時点で終戦。

「集中しろ」と強く言い聞かせていたのは、北上のコースがタフであると承知していたからでもある。初出場した2年前、小刻みなアップダウンがこたえ、腹痛にも見舞われ、後半に大失速した。

そもそも私は上りに弱いので、今回も北上のコースにちょっとした恐れを抱いていた。だから何としても、もう一度、集中力を高めなくてはいけないと思った。

ベルリンの疲労もできる限り、抜いておかなくてはならない。かといって脚力は落とせない。大会までの2週間は最長でも10キロ前後までしかこなさなかった。ただし、2度だけレースペースに近い速度で3キロほど走り、心肺に刺激を入れた。

数ある起伏を乗り越えて

スタート前から雨、天気予報が憎い

大会前日、ネットで天気予報をのぞくと「10月11日の北上は午前中、雨」とあるではないか。「それはないでしょ」と思い、予報をいくつもチェックした。この時点では「曇り」としているものも多かった。

北上の隣町の花巻出身である宮沢賢治に思いが至る。「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」ですね。「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」ですね。私はツイッターで「ワタシモナレルカナ」と力なくつぶやいた。しぼみつつある心を必死になって膨らませようとする私の気持ちは伝わっただろうか。

11日、北上総合運動公園陸上競技場からのスタートは午前8時半。そのタイミングを見はからったように8時頃から雨がぱらつき始めた。こういうふうに的中する天気予報は嫌いだ。雨を降らせた天をではなく、天気予報を恨む。

しかし、風がないのが幸い。「風ニモマケズ」の句は不要。気温は13度らしいから、雨を除けば、マラソンには絶好のコンディションかもしれない。確かに序盤から体はよく動いた。

最初の5キロは24分4秒。5~10キロと10~15キロは順に23分39秒、23分37秒。設定タイムよりやや速い。コースが厳しく、連戦であるにもかかわらず、目標を最低でも3時間25分としていた。無謀だろうか。体の具合がよくわからなかったので、目標を立てにくかった。

なるべく水たまりを避けたが、10キロいかないうちにシューズに水がしみ、足裏に摩擦が生じ始めたのが気になった。マメができやすくなる。肩がこり始めたのも雨のせいかもしれない。

ゴールするころは雨がやんでいた

目標後退、最後は「歩かず完走」へ

ベルリンの疲労がじわじわと表出してきたのは15キロあたり。まだレースは3分の2も残っているというのに。先行きに不安を感じていた17キロで靴ひもがほどけるアクシデント。ここで立ち止まったことが致命傷になり、急激に体が重くなり、著しく戦意が落ちた。

当然、15~20キロは24分59秒にペースダウン。30~35キロで挽回したベルリンにならい、ここで奮起し、20~25キロを24分42秒まで少し戻したが、その後は失速を止められなかった。5キロごとのタイムは25分55秒、26分43秒、27分43秒。1キロ平均で10秒ずつ落ちている。

スタート時間が早いため、5時に起床した。朝食の量をやや控えめにしたのが悪かったのか、レース半ばで空腹を感じた。3つのエネルギージェルで補給したが、後手に回った感がある。

中間点を通過したころ、雨はやんだ。そのあたりで、肩を若干上げるようにして胸を張り、腰を高く引き上げ、歩幅を少し狭めたら楽になった。

しかし、快適な走りは長くは続かなかった。ペースが落ちると変な力が入り、フォームが崩れた。頑張っているつもりなのにタイムは伸びない。

ベルリンと比較すると、「股関節を回し、フォームを修正しなさい」という自分への働きかけが弱かった。そこに気づいたのはゴールしてからだ。後半は細かなところまで脳が働かなくなっていた。神経が細やかでなくなった時点で終戦。それが、ふにゃふにゃになるという状態なのだろう。

19キロすぎに上り坂があり、28キロからの小さな上りのあと、36キロから上り基調になる。その途上で目標を「3時間25分」から「ベルリンを上回る3時間27分切り」、さらに「3時間半」と下方修正し、最後は「決して歩かず完走する」とした。

競技場入りしたらゴールまで500メートル

次戦は来年2月、新鮮な気持ちに

その目標だけには達したが、記録は3時間32分51秒。雨に負けたわけではない。やはりベルリンから抱えていた疲労に負けたのだと思う。「疲れが残っている」と感じてしまったことが失速のきっかけになり、その情報が重りになった。

3時間28分40秒だった2年前の北上を下回ったのは悔しい。しかし、めげてはいない。ベルリンと北上のタイムを平均したら、ちょうど3時間半ではないか。いまの自分にすれば、悪くはない。

ただ、もう連戦はやめようと思う。年とともに疲労からの回復が遅くなっているのは明らかだ。そろそろ大人になりましょ。毎回、様々な点でそう反省しているような気がするが、まあいい。

レースから2日を空けて、また走り始めた。フルマラソンは来年2月の愛媛マラソンまで走らない。そこまでじっくり体をつくり直す時間があるのだと考えると、信じられないくらいさわやかな気持ちになった。胸にフレッシュな空気がいっぱい入ったような感覚を覚えた。

6月に秋のフルマラソンに向け本格的なトレーニングを開始するときの気持ちと同じものだろう。新たなページをめくると、そこには広い空白がある。さあ、また新しいことに挑みましょう。そんな感じ。なぜか希望に満ちてくるなあ。気のせいですか?

ゼッケンには名前が入っている

2週間とはいわず、1、2カ月の間隔でフルマラソンを走る場合でも、こういう新鮮な気持ちにはならない。実際、調整に時間を取られ、長期的な視野に立った継続的な強化はできない。

レースの数絞り、大河小説のごとく

レースをたくさん楽しみたいという思いが常にあるが、そこに至るプロセスをもっと味わうべきなのではないかという気がしてきた。マラソンの楽しみは本番に至る長いプロセスとレースそのものをセットにしたものだろう。

あれこれ考え、トレーニングを組み合わせ、創意工夫して体をつくり、心を強固にしていく作業こそが面白いのではないか。じっくり自分をビルドアップしていく過程をもっと楽しむには、フルマラソンの数をぐっと絞ったほうがいい。

本番までの過程をたっぷり堪能するのが大人。短期連載を立て続けに楽しむのではなく、大河小説を時間をかけて楽しむ。これからはなるべく、そういうふうにしようかと思う。

ようやく、そこに気づいた。54歳を前にして、大事なことに気づかせてくれた雨の北上マラソン、ありがとう。でもねえ、そうなると年に2本? 我慢できるだろうか。まだ自信がない。

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