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本番に弱い自分にさよなら 走る前のリラックス法

ランニングインストラクター 斉藤太郎

走りやすい気候になってきました。いろいろとレースに出場されている方も、ここから本当に狙ってきた大きな目標となるレースへの調整期に入ることでしょう。そんな中で、本番に弱い、いつもどおりの力を発揮できない、きっかけをつかみそこねてしまう、そんな方は少なくありません。そこで、今回は予定レースまで、リラックスして過ごすためのコツをアドバイスさせていただきます。

レースから離れて頭を空っぽにする時間をつくることが大切

本番までの心理的なリラックス

「計画通りに進めたい」「絶好調で当日を迎え、力を百パーセント出し切りたい」。調整期にはそんな気持ちが強くなってきます。中でもまじめな人、きちょうめんな人は、ちょっとした生活のイレギュラーでストレスを抱え、不安定になってしまいます。あらかじめ定規で引いた線から少しもそれたくない、そんなタイプです。計画はあまり具体的に固めてしまわないこと。おおむね軌道をまもりながら、生活を柔軟に切り替えていきましょう。半分くらいは頭の中で描いていき、あとはスタートしてから柔軟に対処していく。そんな感覚が好ましいのではないでしょうか。

余談ですが、サロマ湖100キロウルトラマラソンを過去10年連続で完走された年配の女性ランナーがいらして、その秘訣を尋ねたところ、まず一番に出てきたのは「家族の理解」ということでした。レースまでの残り1カ月とか2週間あたりは、誰しもが大切なレースに向けて没頭させてもらいたい期間です。そこで、わがままな生活をさせてもらえるように、職場や家庭内で日ごろからのバランス感、要領の良さみたいなものが大切になってくるのではないでしょうか。

「あれをしたら疲れる、これはダメ……」など、必要以上に束縛してしまうような人がいます。いつも以上に疲れに神経をとがらせてしまったりします。マラソン練習をしてきたら、多少のことでは疲れたりしません。食生活もいつもどおり。ずぶとく過ごしたいところです。

「不安で不安で練習の距離を落とせない」。そんな方も、よくありません。トレーニングの成果を発揮するには、疲労を抜き、戦えるコンディションに仕上げねばなりません。少なめの練習、ペースを落とした練習も、立派なトレーニングなのです。罪悪感を感じる必要はありません。腹をくくって練習量を落としましょう。どうしても練習量を落とせない人のメニューをねっていた時、パソコンで計画表に「これ以上走らない」と入力しようとしたら「これ以上は知らない」と変換されたことがありました。それでもいいなと思ったくらいです。

レースのことばかりを考えて過ごす(言い方を変えると、頭からレースのことが離れない)というのはあまり良いことではありません。本番前に脳が疲弊してしまい、それに伴って背中の筋肉が硬直するなどの悪循環に陥ります。頭を空っぽにする時間を意図的につくる。そんなコントロールをしてみてください。アスリートが試合前にする習慣に「洗車」「掃除」「マンガを読む」「音楽を聴く」というものがあると聞いたことがあります。これらは適度な緊張感を携えて当日を迎えるための、リラックスする時間なのでしょう。成功する人が自然に取り入れている手法なのだと思います。

仕事中

日常の大半を座って過ごされている方へ。パソコンのスクリーンを凝視するあまり、視野が狭くなって猫背の状態が続いていませんか? そういった姿勢は、体の前側の筋肉は萎縮しっぱなし、小さく縮こまっています。反対の背中側は伸ばされっぱなしになります。必然的に呼吸は浅くなります。このほかにも、寒くなると「寒い」という前かがみの姿勢を取ることが多くなる季節です。そんな悪い姿勢に気づいたら、一旦、スクリーンから目を離してください。周りを見渡すように視野を広くとります。姿勢をリセットするような動作を入れましょう。同じ姿勢が続くと、血行が滞ります。十分な酸素が必要な部位に供給されなくなります。ですので、1~2時間に1回の間隔で取り入れてみると、爽やかな気持ちになり、心身ともにリラックスできるはずです。

リラックス法として、次の2つのエクササイズをご紹介します。

ゆっくりと深呼吸を行い、体に十分な酸素を取り込む

(1)懸垂

正しい姿勢で座ります。鉄棒の懸垂の動きを、鉄棒なしで行います。

棒をつかむ意識で両腕を挙上し、耳よりも後ろの位置で懸垂の動きを行います。挙上時に息を吸い、下げるときに吐く。深い呼吸でゆっくり5~10回行います。

(2)深呼吸

同じく正しい姿勢で座り、両腕を脱力します。肩甲骨を寄せて胸を開くようにして息を吸います。反対の動きで胸を閉じるように息を吐きます。肋骨が風船のように膨らんではしぼむようなイメージで5~10回行います。

スタート前(整列中)

レース当日。スタート地点には号砲の30分程度前から整列するというルールが一般的です。それまでにゆとりを持ってウオームアップやトイレを済ませておきます。そのあとは走る格好で整列となりますが、ここで十数分間じっと棒立ちの状態では、体が一気に冷えてしまいます。せっかくの準備が台無しです。密集した周りのランナーたちに気を配りながらも、小さく足踏みをするなど、筋肉の伸縮を続けることが大切です。棒立ちは、筋肉の動きが止まった状況ですので硬直してしまうのです。これでは、築いてきたものが引き出せません。それからウエアの工夫である程度寒さをしのげます。例えば、透明カッパや超薄ジャケットなどを着用することで保温効果が得られます。

整列しながらも他人に迷惑をかけずにできるリラックス・エクササイズを紹介します。

両肩セパレートは片方の腕をひねりながら上げ、もう一方の腕はひねりながら下げる

(1)つま先立ち(ふくらはぎポンプ作用)

正しい姿勢で立ちます。両足は肩幅の広さに開きます。つま先で体を真っすぐ上に持ち上げて、下ろします。体重を乗せるのは親指と人さし指の間(鼻緒がかかる部分)に定めるのが良いでしょう。ふくらはぎの筋肉は心臓から遠く離れているので、血液が滞って冷えやすい部分といえます。その筋肉をポンプのように「縮める、緩める」を繰り返すことで血行が促進され、体が暖まってきます。10~20回行います。

(2)首筋と肩周りのリラックス

真っすぐ立ったまま首筋をギューッと縮めて肩を持ち上げます。次に全ての力をオフにして脱力。肩と腕が下にダラーっと落ちます。「1、2」と数える間に縮めて「3、4」で脱力。これを5回行います。

(3)両肩セパレート

片腕を内旋(内側にひねる)させながら挙上し、反対の腕を内旋させながら下げます。左右の肩甲骨が縦に割けるような形になります。上体と肩周りをリラックスさせることができます。左右で各10秒間続けます。

このような手法で、号砲の時をリラックスして迎えてください。

<クールダウン>人類の進化の果てに……
 子供の運動会を観戦しました。保護者種目はムカデ競走でした。何年か前には普通に走って競うリレーが実施されたのですが、転倒者が続出。それ以降、保護者リレーは実施されていません。
 今でもリレーを実施されている学校や幼稚園があると思いますが、あえて全力で走らせない形にするようバランスが取られている気がします。色々な人に輝けるチャンスをという理由ももちろんあるのでしょうが、大きな理由としては、「日ごろ運動をしていない方が、急に全力で走っては危ない」ということなのだと思います。
 人類は平和で便利な方向へ発展していると信じています。同時に、世界記録が更新され続けるように人類はたくましく進化し続けると信じています。ただ、こんな川柳を目にしたことがあります。「人類の 進化の果てが スマホ歩き」。大昔は狩りに出て獲物を取ることで暮らしていた。そこから進化した果てが、「全力で走っては危険です」というのはどうもさみしいものですね。
 後日、報道で見ましたが、ムカデ競走の事故もかなりの件数に上っているようです。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)など。

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