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SEC書簡で判明 今も息づくジョブズ流「禅」経営

VentureBeat

米アップルが自らのビジネスについて公の場で語るときには、高尚だが漠然とした以下のような概念を唱えることが多い。

「顧客を重視せよ。最もありふれたものではなく、最も良いものを作ろう。」

アップル創業時代のスティーブ・ジョブズ氏

こうした内容は時代に合うため、今では多くの人が口にする。だが、これがアップルを世界で最も価値ある企業に押し上げた理想だ。他の人も同様のことを言うかもしれないが、日々実践していることでアップルは他の大半の企業にはまねできない成功を収めている。

依然としてCEO一極体制

具体的に、どうやって成し遂げたのか。

米証券取引委員会(SEC)との最近の書簡でのやりとりが、さらなる手掛かりとなる。書簡をやりとりするきっかけは、アップルが2014年の決算発表方法を変更する方針を明らかにしたことに対してSECが問い合わせをしたことだ。小売店での業績を区別せず、代わりに地域ごとの業績に振り分けることにしたことなどが変更の内容だ。

こうしたSECによる問い合わせは、特に企業が会計処理や発表方法を変更する際には日常茶飯事だ。何らかの点をSECが明らかにしたいだけということもある。

今回のアップルのように、企業が有価証券報告書で何らかの説明をしたり、細部を変更したりするのが典型的だ。そして、SECが納得し、追加措置を講じないこともよくある。問題が終結すると、書簡は公表される。

誤解のないように言っておくが、今回の一件は捜査ではなく、会計上の不正が告発されたわけでもない。職務をまっとうする規制当局との間のお決まりのお役所的なやりとりにすぎない。

このため、やりとりされている言葉遣いは無味乾燥で、決まり文句のような類いが多い。だが、アップルの説明から、興味深いいくつかの断片が明らかにされている。

全ての損益計算書の表向きの目的の一つは、投資家に「その企業に対する経営陣の見方」を示すことにある。

その見方に基づけば、アップルはなお一極集中体制の企業だ。SECは「最高執行意思決定者(CODM)」全員のリストを提出するように求めた。これは普通なら、iPhone部門や大中華圏、あるいは定額音楽配信「アップルミュージック」の責任者らになる。支出や予算の編成、製品、戦略などに広範な権限を持つ面々を指す。

だが、CODMはティム・クック最高経営責任者(CEO)一人しかいないというのが、アップルの回答だった。

 アップルはSECに宛てた書簡で「事業戦略の開発や研究開発、法人マーケティング機能は製品を切れ目なく連携し、事業戦略を首尾一貫して遂行するために一元化されている」と説明。「当社はこのように機能別に組織されているため、個人や機能別のグループが初期の開発から最終的な顧客への販売までライフサイクル全体を通じてある製品に全責任を負うことはない」としている。

東京ビッグサイトで講演するアップルのジョブズCEO(当時)

これは自らの仕事が単独の製品の成否に完全に左右されるiPad担当やiPhone担当、アップルTV担当といった人はいないという意味だ。アップルはこうしたことを優秀な人材や経営資源、CEOからの注目を得るために競い合う個々の製品や部門ではなく、全体の一部とみなしている。

個人ではなく会社全体が重要

代わりに、アップルは社員の責任や管理の範囲を「機能に基づいて」定めている。つまり、社員はもっと大きな存在の一部で、何を作っていても、同社の製品とサービス全体に利益をもたらすことが目標だ。

アップルはこの理念に基づき、CEO(SECの専門用語ではCODM)が判断を下す手法を取り入れている。

アップルは「CEOは経営陣のサポートと機能ごとの専門知識を頼りにするが、業績を達成するのに必要だとみなす行動の判断や決定には最終責任を持つ」と表明。「研究開発活動に経営資源を割り当てるプロセスでは、相互利用可能な統合された製品の開発を通じてアップルのエコシステム(生態系)を拡充するという総合事業戦略にプロジェクトが寄与するかどうかをCODMは主に重視する」とした。

この文化を強調、奨励し、誰もがお互いを応援するため、報酬は単独の製品やサービスの成否には基づいていない。

アップルは「ハードウエアのエンジニアリング、基本ソフト(OS)やアプリの開発、オペレーション、販売・マーケティング、一般管理など機能ごとのリーダーの報酬は、会社全体の純売上高や営業利益に基づいて支払われる」と述べた。「製品の収益力でグル―プや個人の報酬が決まったり支払われたりすることはなく、製品ごとの財務諸表も作成していない」ことを明らかにした。

これではSECが尋ねた質問の一部にしか答えていないため、SECは再度書簡を送った。アップルの返信には同社の業務についての見識がもう少し示されている。

例えば、SECとしてはCEOが製品の世代(iPhone5やiPhone6など)ごとの実績をモニターしているのかどうかを知りたがっていた。だが、アップルは当然ながら、支出や経営資源、開発について判断する際にこうした基準を活用していないと答えた。

アップルはここでも、自らを「アップル・プラットフォーム」という単体とみなしている。こうした機器やサービスは全て、総合的な体験の一部にすぎないのだ。

アップルは「顧客との関係や、顧客の体験と当社の製品・サービスとの関係を非常に重視している」と主張。「当社の目標は切れ目なく連携する(プラットフォーム)革新的な製品を顧客に届けることであり、これらの製品が切れ目なく機能するよう、引き続きエコシステムにサービスを追加していく」との考えを示した。

 アップルは書簡で、同社の経営体制にはいくつかの利点があるとも主張した。

●CEOは社内全体に素早く「普及させる」統一的なビジョンを維持できる。
●全ての製品で「切れ目のない相互運用性」を強調できる。アップルは機器同士の連携機能「ハンドオフ」やデータ保存サービス「iCloud(アイクラウド)」「iOS」などのサービスを例に挙げた。
●社内全体でアイデアや情報を共有しやすくなる。

ジョブズ氏はアップルのCEOとして復帰した後に大きく経営方針を変えた

アップルは「部門別ではなく機能別になった当社の組織は、特に規模を考慮すれば当社の最も独特な側面の一つだといえる」と主張。「(売上高や従業員数、海外展開の範囲、時価総額などどんな基準でも)当社と同様の規模を持つ組織は本来、別々の事業部門を通じて運営し、各部門が自らの業績に責任を負う」と指摘した。

アップルが指しているのは米ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。GEは多くの事業部門に分かれており、多くの点でほとんど別の会社として評価、経営されている。これは各部門の経営者の能力を判断するには素晴らしい体制かもしれない。だが、協力よりも対立や競争を促す面もあるだろう(アップルはそうは言っていないが、暗に示唆しているように思える)。

アップルでは、CEOは製品全体で顧客の総数が増え、顧客が利用する製品やサービスの数を増加させることの方に強い関心を抱いている。特定の製品の日々の売り上げについてはあまり気にしていない。

復帰後に転換

アップルはこの報告書で、この体制は故スティーブ・ジョブズ前CEOの遺産だと述べている。

これはジョブズ氏が社員を互いに競わせるのを得意とした最初のトップ時代とは大きく異なる。ジョブズ氏はマックを開発する際、社員や経営資源を他の製品部門と直接奪い合った。それは対立的で、破壊的な手法だった。

今ではアップルは一種の「禅」のような協力的手法を獲得したようだ。各社員の成功は、他のみんなの成功に基づいている。発言は活発になり、議論が白熱することも多いだろう。

それでもなお、アップルの経営手法や体制は全て、同社が究極的には一つのチームで、成否を共にしているというメッセージを強調している。ジョブズ氏の進化を理解することに関心があり、同氏がなぜ2度目のトップ時代には1度目をはるかに上回る成功を収めたのかを知りたいのなら、この書簡は一読の価値がある。

By Chris O'Brien

(最新テクノロジーを扱う米国のオンライン・メディア「ベンチャー・ビート」から転載)

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