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[FT]デルがEMC買収、「裏口IPO」で再上場へ

Financial Times

2013年以降、マイケル・デル氏はウォール街のアクティビスト(物言う株主)やフィナンシャル(金融)エンジニアのやり方にほとんど敬意を表していない。自らの名前を冠したパソコンメーカーにMBO(経営陣が参加する買収)を行って株式を非公開化した年だ。

長期的には企業価値を高めるかもしれないが、その間は利益を押し下げる事業建て直しの取り組みを公開市場の投資家たちは支持したがらないと、同氏は述べている。

しかし、ストレージ(外部記憶装置)大手EMCを637億ドル(約7兆6200億円)で買収するという提案がもし成功すれば、デル氏はハイテク業界史上最も大胆な部類に入る金融エンジニアリングを見事にやってのけたことになる。デル氏はこれで、多額の債務と、少なくとも上場企業3社の経営権を手にすることになる。

型破りな「裏口IPO」

そして一つ、意外な展開がある。デル氏は業界史上最大の買収案件を成功させるために、この計画に詳しい人物が「裏口IPO(新規株式公開)」と呼ぶ手法を通じて自分の会社全体を再上場することを提案しているのだ。

EMCの事業の巨大さ、そして「フェデレーション(連合)」と称されるグループ企業とのつながりの緩やかさゆえに、デル氏はそんな型破りなフィナンシャルエンジニアリングの手法を検討せざるを得なくなったが、そうでなければ得られなかったようなチャンスも手にした。

EMC買収には470億ドルの現金が必要になり、デル氏は400億ドルを超える借入枠を銀行に設定している。また、この買収の条件に詳しいある人物によれば、デル氏はプライベートエクイティファンドのシルバーレイク・パートナーズやシンガポールの投資会社テマセク(いずれも2年前のデルのMBOを後押しした)とともに、今回の買収支援のために合計で約40億ドルの出資を行う。買収後のデル氏の出資比率は約70%で、現在のデルでのそれと変わらないという。

独立系の株式アナリスト、パトリック・ムーアヘッド氏によれば、大企業が自前のデータセンターで稼働させるシステムの販売というEMCの成熟したストレージ事業から生み出される現金は、向こう3~5年間の債務返済に貢献するのに十分な規模になるという。

デルは、EMCの買収が完了する前に多額のジャンク債を発行して100億~150億ドルの銀行債務を借り換える準備をする。その後もジャンク債を発行しながら銀行融資を返済していく見込みだ。

デル氏は多額の借入金の扱いがうまい。パソコンメーカーのデルを250億ドルで買収する際に借りた資金のうち44億ドルは返済済みで、これを受けて格付け機関はデルグループの格付けを2段階引き上げている。今回の買収に詳しいある人物によれば、成熟したストレージ事業とほかの事業を混ぜ合わせることで「数十億」ドル単位の利益が得られるとデル氏は考えている。

しかし、EMCとデルは12日、買収による利益の4分の3は、EMCの機器を小企業や政府・医療機関といったデルの顧客に販売することによる売上高の増加から生じ、コスト削減やさらなる人員削減による利益は4分の1にすぎないと説明するのに苦労していた。

とはいえ、ウォール街の機嫌を損ねないようにするために、デル氏は狡猾な手段をさらに繰り出さざるを得なくなった。デルのMBOの際は、カール・アイカーン氏をはじめとする投資家との戦いが長く続いた。デル氏は自分の会社を不当に安い値段で買っている――というのがアイカーン氏の主張だった。

VMウエア株に連動

そのような事態の再現を防ぐため、そしてEMCに2人の取締役を送り込んでいるヘッジファンドのエリオット・マネジメントとの争いを避けるため、デルは買収の魅力を高めるインセンティブとしてVMウエア株の価値に連動する新株をEMCの株主に提供する。VMウエアはデータセンターソフトウエア会社で、EMCがその株式の78%を保有している。

EMCのジョー・トゥッチ最高経営責任者(CEO)によれば、これはEMCの買収価格を1株当たり32ドル超、つまり、今世紀初めのハイテクバブル以来、同社が実現していない株価水準に引き上げるための措置だ。

買収提案には12日、エリオットも支持を表明した。同社は1株当たり27ドルを下回る価格でEMC株を取得しており、事業が今年スランプに陥ってからは含み損が生じる可能性があった。

新たに発行されるVMウエアのトラッキングストック(連動株)は、デルを取り巻く数々の上場案件の一部にすぎない。デルはすでに自社のセキュリティー事業部門のIPOを計画しており、EMCのクラウドソフト部門であるピボタルを上場させる同社の計画を継続すると話している。

VMウエア株の約22%は公開市場で売買されており、同社は独自の取締役会を持ち、財務情報を単独で公表している。だが、新しいトラッキングストックには工夫がある。新たなVMウエア株――12日の株価に基づくと、160億ドル相当の価値がある――は、デル氏自身の持ち株会社によって発行され、株式はVMウエア事業の業績と連動するのだ。

計画に通じたある人物によると、EMCが所有するVMウエア株のおよそ65%(VMウエア事業の価値全体の51%を占める持ち株)が、新株の裏付けに利用されるという。その結果、デルは上場持ち株会社として再浮上し、傘下事業の一部だけに連動する単一株式によって利益を代表される形になるのだ。

上記の消息筋によると、デルの主要業務は引き続き非上場子会社に所有されることになるという。ただ、統合されたグループ全体が詳細な財務情報をどれほど公開しなければならないかは不透明だ。

デル氏は12日、公開市場の外で非常に大きなIT(情報技術)企業を構築する自身の計画を後押しする今回の買収を発表した際、ウォール街に対して以前ほど対立的な発言をしなかった。「上場企業であること、あるいは非上場企業であることに何も問題はないが、我々は非上場でいるだけの経営資源を持っている」。デル氏はこう語り、非上場でいる方がずっと柔軟性が高いと付け加えた。

デル氏が計画している新しいハイブリッド型の企業構造を考えると、彼はウォール街に完全に背を向けるわけではなさそうだ。

By Richard Waters in San Francisco

(2015年10月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(翻訳協力 JBpress)

(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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