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英リバプール、ロジャース監督解任の舞台裏

フットボールライター 森昌利

10月4日、リバプール(イングランド・プレミアリーグ)のロジャース監督が解任された。午後1時半のキックオフだったエバートンとのダービーマッチを1-1で終えた同日の夕方6時、クラブの公式サイトが突如、解任を発表した。

解任の理由はもちろん、明らかな不振にある。一昨季は最後までマンチェスター・シティーと激しい優勝争いをして、最終的には勝ち点2差のリーグ2位となり、欧州チャンピオンズリーグ(CL)の出場権を手にしたが、昨季は一転して6位。5季ぶりに出場した欧州CLも1次リーグ敗退。結局、3シーズンで無冠に終わった。

主軸を次々失い、補強選手は期待外れ

昨季終了時点で解任報道も出たが、何とか続投した。崖っぷちに追い込まれて迎えた今季は2連勝で幕を開けたが、最近の公式戦9試合で1勝6分け2敗と下降線をたどり、ついにクラブ側が解任の決断をした。

しかし、この3年間を評価するうえで、考慮しなければならない点がある。在任中にチームの主軸を次々と失ったのは気の毒だった。一昨季33試合で31ゴールを決めたウルグアイ代表FWスアレスがバルセロナに移籍したのに続き、長年クラブを支えた元イングランド代表主将のMFジェラードが昨季限りで退団し、米MLSのLAギャラクシーに移籍。次世代のスター候補だったイングランド代表FWスターリングも4900万ポンド(約92億円)という破格の移籍金でマンチェスターCに引き抜かれた。

その一方で、ロジャース監督が在任中の3年間に総額2億9200万ポンドという巨費を投じて、31人の選手を獲得していた。しかし、スアレスの穴を埋めるどころか、昨夏に獲得したバロテリをはじめ、ほとんどの選手が期待はずれに終わっている。

ロジャース体制下で補強し、現在もチームに残っている選手の中で合格点に達したといえるのは、インテル・ミラノから850万ポンドで獲得したブラジル代表MFコウチーニョと、チェルシーから1200万ポンドで取ったイングランド代表FWスタリッジの2人だけというのが一般的な評価である。この補強の失敗がロジャース監督の解任につながった。

電光石火、有無を言わせぬ解任劇

それにしても、なぜこの時期に解任したのか。国際Aマッチウイークが挟まり、次のリーグ戦まで2週間空いたのが決め手だろう。

そういう中で、解任はまさに電光石火で行われた。翌5日、英メディアが一斉に伝えた解任のプロセスを読むと、その手際はまさに迅速で、有無を言わせぬものがある。

ロジャース監督はエバートン戦後のテレビインタビューで「(解任の)心配はない」と話していたが、自宅に戻るとリバプールのオーナー会社「フェンウェイ・スポーツ・グループ」(FSG)のマイク・ゴードン会長が電話で解任を告げたという。その直後にリバプールのチーフ・エグゼクティブのイアン・エイル氏がロジャース監督の自宅を訪れ、正式に解任を勧告した。

電撃解任の渦中、突如として英メディアのスポットライトを浴びたのが、リバプールの「トランスファー・コミッティ」(移籍委員会)なる組織だった。

発端はリバプールのOBであるキャラガー氏の発言だった。リバプールの生え抜きで、2005年の欧州CL優勝をジェラードとともに支えた元イングランド代表DFがアーセナル―マンチェスター・ユナイテッド戦のテレビ中継の解説をしている最中にロジャース解任の第一報が飛び込んできた。

すると元リバプールの人気選手は顔を上気させ、赤鬼のような形相になった。英国内でも分かりにくいと評判のリバプール弁を丸出しにして、「現オーナーがリバプールを引き継いでから様々な決断が下されたが、残念ながら何一つ機能していない。トランスファー・コミッティはその最たるものだ」と、まさに口角泡を飛ばしてまくしたてた。

「解任は移籍委による政治的陰謀」

キャラガー氏は現在のリバプールの補強の舞台裏で「政治的な駆け引きが行われている」と主張した。「彼らはあらゆる決定に影響力を持っているが、一般には彼らの名前さえ知られていない。誰が何をしているのかさっぱり分からない。だから責任の所在もはっきりしない」。委員会の存在を明かしたキャラガー氏の発言は「ロジャース監督の解任はこの委員会の政治的な陰謀だ」という印象さえ世間に与えた。

もちろん、生中継の最中に飛び込んできた古巣の大ニュースだけに、感情が高ぶったのだろう。しかし、明快な解説でスカイスポーツの顔になった理論派がここまで言うのだから、ただごとではないのだろうと視聴者は感じた。

このキャラガー氏の発言を契機に、各メディアが次々にこの委員会を記事にした。英国放送協会(BBC)電子版が解任翌日、委員会のメンバーを特定した。

この記事によると、委員会のメンバーはロジャース監督を含めて6人。まずはオーナー会社FSG会長で、オーナーのジョン・ヘンリー氏に次ぐ株主であるゴードン氏。ロジャース監督に解任の電話をした人物だ。リバプールの米国人幹部の中では最も欧州のサッカー事情に詳しいという。

そして、実質的なリバプールの経営者で、ロジャース監督の自宅で正式に解任勧告したエイル氏。生まれながらのリバプールファンで、移籍に関する権限、特に予算面での権限がかなり大きい。ちなみに今季のMFロベルト・フィルミーノ獲得は彼の主導で行われたと伝えられている。

3人目からはスカウト陣となる。マイケル・エドワーズ氏は元ポーツマス、トットナムのデータアナリスト。移籍市場を分析し、獲得可能な選手を査定する。だから当然、補強に関して大きな発言力を持つ。肩書は「ディレクター・オブ・テクニカル・パフォーマンス」。サッカー選手の技術を見極める目利きである。

さらに2人のスカウトがこの委員会に名を連ねる。補強の最終的な決定は、この5人にロジャース監督を加えた6人で下していたようだ。

解任1週間前に何かしらの衝突か

実はロジャース監督は、解任8日前の9月26日のアストンビラ戦後の記者会見で「クラブ内には私に監督を続けてもらいたくないグループがある」と発言していた。すでにこの時点で、ロジャース監督と「あるグループ」、すなわち委員会のメンバーとの間に何かしらの衝突が起こっていたのは明らかだ。

キャラガー氏は「スカウト側は『監督がポジションの適性を無視した選手起用をする』とオーナーに注進し、一方の監督は『私は全権監督ではない。スカウトが連れてきた選手たちは単純に力が足りない』と反撃して、政治的な衝突が発生した」と語っていることから、補強失敗の責任の所在が焦点となったことが容易に推測できる。

ただし、補強に関して合議制で意思決定をするクラブはリバプールだけではない。というより、現在のプレミアリーグでは、監督が移籍の全権を握るという形の方が希少だろう。チェルシーやマンチェスターCにもこうした組織がある。

現在、プレミアリーグのトップクラブで全権を握っているのはアーセナルのベンゲル監督くらいだ。マンチェスターUのファンハール監督にはかなりの発言力があるだろうが、それでもかつてのファーガソン監督が握っていた絶対的な権力には至っていない印象だ。

こうした状況で、英高級紙デイリー・テレグラフ電子版は「そもそもリバプールが移籍に関して委員会制を取り入れたのは、FSGが1990年以来優勝から遠ざかっている原因の一つに、歴代全権監督が犯したおびただしい補強の失敗があると分析したからだ」と指摘する。

就任オッズ通り、新監督にクロップ氏

この記事は、FSGが12年のシーズン終了と同時にダルグリッシュ監督を契約解消という形で解任した後、フットボール・ディレクターとしてファンハール氏を招へいし、補強の権限をこのオランダ人の名将に一任する構想だったと明かしている。

ところが、ダルグリッシュ監督の後を継いだロジャース監督が、補強に関して発言権がなくなることを嫌がり、就任条件としてフットボール・ディレクターの招へいを拒んだ。移籍委員会という合議制のシステムは、こうした12年のロジャース招へいの過程で生じた妥協の産物だった。

一連の現地報道を読み込んでいくと、解任直後にキャラガー氏が訴えた舞台裏での政治的な駆け引きはもちろん、チームが不振に陥ったからこそ生じたものだとわかる。

3億ポンド近くの資金を投入し、3シーズン無冠。しかも欧州CLの出場権も逃がしたのだから、クラブ内で責任追及が始まるのは避けられなかった。

しかし、こういう状況下では、合議制はまさに両刃の剣となる危険性がある。監督を除く幹部たちが責任逃れのために団結し、ロジャース監督にその責任の一切をかぶせて追放した。今回の電撃解任の真相はそんなところだろう。

クラブは8日午後9時、元ドルトムント監督のユルゲン・クロップ氏の監督就任を発表した。それにしても、ロジャース監督解任直後に英ブックメーカーが、次期監督の就任オッズでクロップ氏に1.57倍を付けたのは異常だった。翌日には1.1倍まで下がり、7日午前中には1.02倍。このオッズの経過を見ていると、ひょっとしたらかなり早い時期からクロップ氏招へいの作業が始まっていて、目ざといブックメーカーがどこからか情報を仕入れていたのではないかと勘ぐってしまう。

リバプールの経営陣、すなわちロジャース降ろしを企てた委員会のメンバーが9月末前後の段階でクロップ氏に接触し、かなりの手応えをつかんだがゆえ、完璧な解任劇を描き、演じたのだろうか。

委員会と監督の間に健全な関係必要

英大衆紙サンは7日付紙面で、8日にはクロップ氏との交渉がまとまると報じていた。サッカーのスクープ報道には定評があり、ロジャース解任を同日朝に「エバートン戦の結果いかんにかかわらず解任」と見出しを打ったタブロイド紙がそう伝えたのも、早々とクロップ氏就任が確定していたという符号に思える。

それはともかく、今回のロジャース解任で浮上した委員会の動向は今後もメディアの注目を集めるに違いない。約3億ポンドという巨額の移籍金を費やし獲得した31選手のほとんどが役に立たなかったことが響いて、ロジャース監督が解任された。解任は委員会の面々が保身のために政治力を行使した結果という説がかなり有力である。

9日付の英メディアによると、クロップ新監督は3年契約で、年俸は700万ポンドだという。リバプールの地元紙エコーが実施したアンケートでは、圧倒的といえる60%以上の支持を集めたドイツ人の闘将の就任だ。しかし、この名門が復活するかどうかは、委員会のメンバーと新監督との間に健全な関係が構築されるかどうかにかかっている。

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