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車いすバスケット、ルールと戦術を解説

10日からアジア・オセアニア選手権

男子代表は11大会連続のパラリンピック出場を目指している

来年のリオデジャネイロ・パラリンピック出場権をかけた、車いすバスケットボールのアジア・オセアニア選手権が10日から17日まで、千葉ポートアリーナ(千葉市)で開かれる。男女の同時開催で、男子日本代表は11大会連続の、前回ロンドン・パラリンピック出場を逃した女子日本代表は2大会ぶりの出場を目指す。観戦の一助となるべく、車いすバスケのルールと戦術をまとめてみた。

大半のルールは健常者のバスケと同じだから、バスケに親しみがある人ならわかりやすいだろう。試合は1ピリオド(クオーターとも言う)10分の4ピリオド制、コートの大きさは通常のバスケと同じで、スリーポイントライン、フリースローラインの位置も全く同じ。ゴールのリングの高さも3.05メートルと一緒だ。だからこそ、車いすに座ってジャンプができない状態で、健常者と同じ高さのリングにシュートを入れる難しさを想像してもらいたい。

車いすバスケットボール選手のクラス分け
持ち点障害の程度選手の体の主な動き
1.0
または
1.5
重い腹筋、背筋が機能せず、座位での体のバランスをとることができない
2.0
または
2.5
やや重い腹筋、背筋がある程度機能しており、前傾の姿勢がとれる
3.0
または
3.5
やや軽い下肢にわずかな筋力があり、深い前傾姿勢から早く上体を起こすことができる
4.0
または
4.5
軽い両手を上げて、片方向に(4.5は両方向に)車いすを大きく傾けることができる

ひとつ大きな違いは、車いすバスケにはダブルドリブルがない点だ。ドリブルをしてボールを持って車いすをこぎ、またドリブルすることが何度でも可能。ボールをもって車いすをこぐのは連続2回までで、3回以上こぐとトラベリングになる。

障害の重い選手も必ずコートに

プレーする選手は下肢になんらかの障害を持つ。生まれつき脊椎の病気で足が動かないとか、交通事故で片足を切断したとか、人によってその態様は様々だ。それゆえ、車いすバスケでは、クラス分けをしてその人の障害に応じた持ち点を決めている。1番重いのは1.0で、0.5点刻みであがっていき、1番軽いのは4.5だ。2点台以下の選手をロー・ポインター、3点台以上をハイ・ポインターと呼ぶ。

例えば1.0の選手は、腹筋、背筋といった体幹が効かず、座ったまま体のバランスをとることが難しい。生まれつきの障害を持つ選手に多い。一方、4.0以上の選手は体幹が効いて、両手をあげて車いすを傾けるバランスをとることも可能。事故で片足を失ったような場合、ほかの機能が正常ならば、このクラスになるだろう。

そして、コートに立つ5人の選手の持ち点の合計を14点以内にしないといけない、というのが重要なルールだ。つまり、障害の軽い選手だけでチームを編成することが不可能。選手交代をする時も、入れ替えた後の合計が14点以下にならないとダメ。必ず障害の重い選手を入れねばならないわけで、これが健常者のバスケとは違った面白さを生む。軽快なプレーをするハイ・ポインターではなく、試合の命運を決めるのはロー・ポインターの働き次第ということがあるのだ。障害が重い人を排除しないよう、誰でもスポーツが楽しめるルールといえる。

ちなみに車いすの規格も決まっている(図1参照)。シートの高さは持ち点3.0以下は最高63センチ、同3.5以上は同58センチだ。前輪(キャスター)、後輪(大輪)、そして転倒防止用のリア・キャスターと3カ所に車輪がついていることが多いが、後輪の大きさは直径69センチ以内。こうした規格の中で、選手は自分の体の状態にあい、プレースタイルにフィットする車いすを自由に特注して使える。

車いすバスケでは接触プレーは頻繁に起こる

付言しておくと、エンドラインやサイドラインを踏み越えた、という判断の基準になるのは前輪と後輪。リア・キャスターは通常は床面から浮いているので関係ない。ただ、フリースローと3ポイントシュートを打つときは、前輪はフリースローライン、3ポイントラインを踏み越えても、後輪が越えなければOKだ。

接触を避ける行為を怠れば反則

車いすバスケを見ていて最も難しいのは、車いす同士の接触に伴うファウルの判定だろう。健常者バスケのように、体をねじって目の前でマークされている相手をかわすことはできないし、車いすは急には止まれないから、接触が頻繁に起こりうる。その場合、攻撃(OF)側、守備(DF)側、どちらのファウルになるのか。

原則は、OFの前進を止めようとDFが先回りして正当な「ポジション」を占めて止まった場合、そこにOFがぶつかったらOFのファウルというもの。逆にDFの先回りが不十分で、正当な「ポジション」を占めていないところでOFがあたったらDFのファウルと判定される。正当な「ポジション」とは、OFが方向転換できるような時間と距離が確保されている位置、ということだ。それならば接触を回避する義務がOFにあるので、あたればOFファウル。そうではなく、OFの車いすの前に急に割り込んであたったら、回避する時間も距離もないので、これはDFファウルとなる。

OFがシュートを打つ体勢に入ると両手を上げて車いすを操作できない状態になるが、その場合でもDFが正当な「ポジション」に入っていれば、シュートを打った後に車いすを止められずにDFに接触するとOFのファウルになる。車いすバスケにおいては、車いすを止める、接触を避けるという行為を、パスやシュートなどよりも優先させるという原則があるので、それを怠ると反則になるのだ。

もう一つよくあるプレーが、速攻でゴール前にOF、DFが殺到する時の先陣争い。これは、争っている相手の車いすの先頭部分より、自分の車いすの後輪の車軸部分が前に出ている時は、前を横切って先んずることができ、そこへ相手車いすが接触したら、相手のファウルになる。

続いて戦術について触れたい。車いすに座るという平等なハンディを負うとはいえ、欧米の選手は背が高く、腕も長いので、日本選手が高さで競うのは大変だ。そこで今回の男子日本代表は、スピードを軸にして"平面で戦う"術を使う。及川晋平ヘッドコーチ(HC)が中心に据えるのが「バックピック」という戦い方(図2参照)。

選手編成、6パターンを用意

これは守備から攻撃に転ずる時の作戦だ。例えばチームカタカナのシュートがはずれ、チームアルファベットの選手Cがリバウンドを奪取したとする(1)。すると、アルファベットの選手AとBは、近くにいるカタカナの選手アに素早く近づき、2人の車いすで進路をブロックする(2)。選手アはエンドラインやサイドラインを踏み越える違反を犯さない限り、この鳥のかご状態から脱出できなくなる。健常者のバスケと違い、車いすではうなぎのようにぬるりと脇道を抜けられないからだ。

その間にアルファベットの選手たちはカタカナの陣内に殺到。攻撃態勢が整ったところで選手AとBが急いで攻めに参加すると、選手アの帰陣は遅れるので、相手陣内で一時的に5対4の数的優位をつくって攻撃できる(3)。選手Aの車いす操作のスピードが選手アを上回るなら、前後に素早く動いてサイドラインやエンドラインを背にした相手を1人でとじ込めることも可能になる(4)。

男子日本代表では、スピードに優れた豊島英(26)がこの戦術を担い、相手のハイ・ポインターをも抑えにかかる。そしてエースの藤本怜央(32)と香西宏昭(27)がどれだけシュートを決められるか。「ユニット」と呼ぶ選手編成を6パターン局面に応じて用意しており、1ピリオド16得点以上、15失点以内で、64対60で勝つバスケを目指す。

女子のキーマンは49歳上村

女子日本代表も平面で戦うバスケは同じ。だが、ロー・ポインターの中心選手でミドルシュートも打てる萩野真世(22)が、6~7月に行われたU25世界選手権後に持ち点が1.0から1.5へ変更。これでユニットの再編成をせざるを得なくなった。それまでエースの網本麻里(26)が40分ほぼ出ずっぱりのことが多かったが、点数が上がった萩野を生かして14点以内に収めるため、網本をはずす編成ができあがった。これを含め、基本のユニットは3つを使い分ける方針だ。

そうした中、橘香織HCがキーマンと指名したのが、ベテランの上村知佳(49)。178センチの長身は、今回対戦する中国、オーストラリアの選手と比べても見劣りしない。「上村をどこで投入するか、どういう展開に持って行ってくれるか、期待している」と橘HC。

健常者のバスケでは、このほど中国で開催されたアジア選手権で、女子日本代表が優勝してリオデジャネイロ五輪出場権を獲得し、男子日本代表も4位に入って世界最終予選への出場を確定させた。車いすバスケも、その勢いをかりて後に続きたい。

(摂待卓)

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