2019年6月27日(木)

利益率3割 日本企業が失ったアップル大もうけのカギ
北山一真 プリベクト代表取締役

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2015/10/21 6:30
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設計で重要なポイントは、ここからだ。製造業は、前述の通り「固定費回収モデル」であり、もうけが生まれる源泉は固定費だけである。そう考えると、設計者は固定費をマネジメントしなければならない。

固定費マネジメントとは、設備/治具/技術を変えないようにすることで、固定費の増加を防ぐ取り組みである。ところが、多くの設計者は実際には変動費ばかりを見ている。製品の価値を高めるには、性能を高めたり新技術を採用したりする必要があるので、変動費に意識が向かうこと自体は仕方ない。

問題は、その過程で固定費にも注意を払っているかどうかである。どうすれば設備改修が不要になるか、新しい治具を造らずに済むか、あるいは現場の作業が増えないかといったことを常に意識する必要がある。製品価値向上と固定費抑制の両立こそが設計に求められている。

■「垂直統合はもうからない」のウソ

設計者が固定費マネジメントを実践することの重要性を確認した上で、Appleの話に戻ろう。

2007年、iPhoneのApple、「Wii」の任天堂、液晶テレビの米Vizioが高業績で話題になっていた。いずれも、自社工場を持たないファブレスメーカーだ。これによって、「ファブレスはもうかる。日本の電機メーカーは工場を持つ垂直統合だからもうからない」という認識が広がった。それを受けて、自社工場を手放した企業も多く目にした。

垂直統合はもうからない。工場を持つともうからない――。果たして本当だろうか。いや、ウソである。垂直統合だからこそもうかる。工場を持つからもうかるのだ。

実際には、Appleは電機メーカーの中で最も垂直統合が進んでいる。販売店は自前のApple Storeを持ち、OS(基本ソフト)も独自開発、そして故Steve Jobs氏自らがパッケージングの特許を8件も発明している。「iTunes」のような配信サービスも運営している。

一方の日本メーカーといえば、販売は家電量販店任せ、OSは米Googleの「Android(アンドロイド)」や米Microsoftの「Windows」を使用し、サービス領域にもそれほど力を入れていない。明らかな差がある。

「そんなことを言っても、Appleは自社工場を持っていないではないか」という反論が来そうだ。確かに、同社が工場を保有していないのは事実である。

しかし、最もお金が掛かる切削加工機やレーザー加工機についてはAppleが自ら投資し、製造委託先の台湾Hon Hai Precision Industry(鴻海)などに貸与しているのだ。つまり、Appleは工場自体を持っていないかもしれないが、もうけを生み出す固定費の部分に投資し、リスクを負っているのである。そして、変動費の部分だけを外注しているわけだ。

設備に投資しているなら、その固定費は使い倒さなければならない。Appleはこの固定費マネジメントに秀でている。

■7年も変わっていない画面の幅

iPhoneは、2007年の初代から2011年の「iPhone 4S」まで画面サイズが全く変わらず3.5型で統一されてきた。そして、2012年の「iPhone 5」で初めて画面サイズが4型になった。ただし、幅の寸法は変えておらず、縦に伸ばしただけだった。画面の幅だけを見たら、7年も変更を加えていない。その他、ホームボタンのサイズや音量ボタンの位置なども同じままである。

もちろん、そうした設計になっているのは、使い勝手や携帯性などによるところが大きいだろう。だが、高額な加工機に投資しているからこそ、設備/治具/技術をできるだけ変えずに済むような制約を設け、その中で付加価値を高めるための設計をしていることが分かる。これこそが、Appleが莫大な利益をたたき出している秘訣である。

■4年間で55機種も設計

一方、ある日本のメーカー(以下、X社)を見てみよう。下の図は、X社が2011年以降に発売したスマートフォンの画面サイズのリストである。

スマートフォンの画面サイズ比較

スマートフォンの画面サイズ比較

これによれば、X社は2011~2014年の4年間で、何と55機種、19種類の画面サイズを設計している。そのうち半数を超える10種類の画面サイズが1機種にしか使われていない状況だった。

本当に、これほど多様な画面サイズが必要だったのか、たった4年間で55機種も開発し筐体のサイズもバラバラである必要があったのか――。これでは、固定費マネジメントができるはずはなく、もうかる製品にはならないだろう。画面サイズの種類が際限なく増えたことについて、X社の技術者にも言い分はあると思う。しかし、固定費マネジメントの重要性に異存はないはずだ。

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