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[FT]モディ印首相のデジタル構想の勘違い

インドのモディ首相が掲げる、インドでIT(情報技術)化を推進しようとする「デジタル・インディア」構想は、広報という観点からすれば、ずばぬけている。自国でも2万人を超える群衆を集められる国家指導者は少ない。まして海外ではなおさらだ。そうしたなか、モディ氏は9月28日、米カリフォルニア州シリコンバレーのサンノゼにあるSAPアリーナを訪れ、1万8000人もの人々を引きつけた。

同氏は今年11月に、英ロンドンのウェンブリースタジアムで演説する予定で、当局は7万5000人の聴衆が集まると見積もっている。また同氏は2014年、ニューヨーク中心部のマディソン・スクエア・ガーデンで開催されたイベントで、ビートルズの熱狂的ファンを指す「ビートルマニア」の政治版ともいえる熱狂的聴衆を生み出し、一時中断を余儀なくされた。一方、米国を訪問していた中国の習近平国家主席は先週、ワシントンへ向かう途中で、旗を振る現地の従順な中国人の列によってなんとか体裁を整えた。

とはいえ、国家の指導者はフェイスブックでいくつ「いいね!」をもらったかで評価されるわけではない。訪米していた習氏やカトリック教会の最高指導者、ローマ法王フランシスコとは対照的に、モディ氏の訪米は主に商売を目的としている。

同氏の掲げるデジタル構想とともに、製造業育成構想「メーク・イン・インディア(インドでつくろう)」は、数百万もの雇用を生み出した中国の製造業への投資規模に対抗しようとする構想で、この点に関しては、同氏の優れた広報活動はもろ刃の剣だ。

米で成功するインド人

米国のビジネス業界で名の知れた大物がほとんどいない中国と違って、シリコンバレーやウォール街の役員室はインド人の成功物語であふれている。米マイクロソフトの最高経営責任者(CEO)サトヤ・ナデラ氏はインド生まれだ。そして8月、インド出身のスンダル・ピチャイ氏が米グーグルの次期CEOになった。ほかにも米アドビシステムズ、米マスターカード、米ペプシコなど多くの企業を率いているのもインド人だ。

先週ホワイトハウスで開かれた習氏の公式晩さん会では、企業経営陣における2国の差があからさまになった。晩さん会の招待者リストには少なくとも3人のインド人CEOが載っていた。ペプシコのインドラ・ヌーイ氏、マイクロソフトのナデラ氏、そしてマスターカードのアジェイ・バンガ氏だ。

対照的に、米S&P500種株価指数を構成する企業に中国出身のトップはいない。習氏は先週、オバマ米大統領との会談へ向かう途中のシアトルで、アップルのティム・クック氏、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏など米国の企業経営者たちから歓待を受けた。しかし、モディ氏が今週シリコンバレーのフェイスブック本社で受けたような大きな称賛を習氏が受ける姿は想像しがたい。同社のマーク・ザッカーバーグCEOとの対話集会は、同社のインド出身従業員の「モディ、モディ」と繰り返す声援で始まった。

しかし、ここにモディ氏のメーク・イン・インディア構想の限界がある。米国経済の優れた分野はインド出身者がけん引している。だが、そうした人々にインドに戻りたいそぶりはほどんど見えない。

インド系アメリカ人は米国で豊かさを手にしており、いまや中流家庭の年収は約8万8000ドルと、米国で最も豊かな民族集団となっている。方や、インドの1人当たりの経済生産は1600ドル以下だ。インド人はまた、米国の政治舞台でも影響力を持ち始めている。サウスカロライナ州知事のニッキー・ヘイリー氏はインド出身者の一人で、共和党の大統領候補でルイジアナ州知事のボビー・ジンダル氏もそうだ。また、インド人は教育の分野でも活躍している。少年少女が英単語の正しいつづりを競い合う「スペリング・ビー」の全米大会では、過去9回連続でインド系の子供が勝利を収めている。

米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によると、アジア系アメリカ人は2065年までに米国の移民のなかで最大グループとなり、ヒスパニックを追い抜くという。その中でも増え続けるのはインド人だ。

インドの官僚制度に苦しむ海外企業

では、モディ氏は米国でのインド人の成功を自国インドで利用できるのだろうか。というよりその順序は逆かもしれない。インド生まれの経営者が率いる企業は、潜在的問題をはらむインドの官僚制度をことのほか嫌がっている。

米国と中国の年次会談に匹敵する、米国とインドの戦略的・商業的会談が先週行われ、米国の投資家はインドに対して悲しいほどにおなじみの不満を並べたてた。

外国企業は、インドでの事業の承認を得るために、依然としてカフカ的な迷宮で出口を探して進まなければならない。だが出口を抜け出たところで、気まぐれな遡及課税を前に、弱い立場に置かれる。拡大するインド事業に多額の資金を投じてきたアマゾンは、すでにニューデリーで係争に巻き込まれている。同社のそうした苦労は、インドで事業を展開するためのよい広告にはなり得ない。

モディ氏の米国訪問の極め付きは、ザッカーバーグ氏が熱狂的なインド好きだという意外な告白だった。同氏は、フェイスブックの創業間もなく事業を売却しようと考えた時期に、アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ氏から同氏が数十年も瞑想(めいそう)をしていたインドのヒンズー教寺院に行くよう助言を受けたという話を明かした。ザッカーバーグ氏は1カ月に及んだインド滞在から、生まれ変わったような感覚で帰国したという。

モディ氏は喜んで「フェイスブックが国だったとしたら、世界3位の国、そして最も接続のいい国になっていただろう」と語った。

確かにそうかもしれない。しかし、国家というものは、ソーシャルメディア企業よりももう少し複雑だ。インドは好かれる、もしくは愛されるだけでは十分ではない。中国が集めた規模の投資を引き寄せるには、見返りを生み出さなければならない。

By Edward Luce

(2015年10月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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