/

ナミビア、W杯で示した「世界ランク最低国」の意地

ラグビー日本代表がワールドカップ(W杯)を舞台に歴史的な試合を演じたのは、今大会の南アフリカ戦での金星だけではない。もう一つ記録に残る勝負がある。1995年南アフリカ大会、ニュージーランド戦での17-145という惨敗。今なお大会の史上最多失点だ。

今大会、その記録が20年ぶりに塗り替えられるかもという観測を生んだ試合があった。9月24日、ロンドンの五輪スタジアムで行われたニュージーランド―ナミビア戦。ニュージーランドは世界ランキング1位で優勝候補の最右翼。ナミビアは参加国中最低のランク20位だ。

試合開始から力比べで簡単に負けず

国の序列以上に大量点での決着を危惧させるものがあった。ニュージーランドが擁する高速ランナーが力を最も発揮するのが、1次リーグでの格下相手の試合。特に、控え組の選手が多く先発した場合、主力定着へのアピールのため、無慈悲なまでにトライを重ねる。95年の日本戦がその典型で、マーク・エリスの6トライを筆頭に21本というトライの嵐だった。

ナミビア戦もマコウ主将や司令塔のSOカーターの代わりに、センターのウィリアムズら世界屈指の攻撃力を持つ選手が先発で出場した。

対するナミビアは過去出場4大会で15戦全敗。70~80点奪われる試合も珍しくない。2003年大会ではエディー・ジョーンズ現日本代表ヘッドコーチが率いる開催国オーストラリアと対戦、0-142と「新記録」に紙一重の大敗を喫した。

最も点を取れるチームと、最も失う可能性があるチームの対戦。キックオフで、ナミビアがいきなり驚かせた。ニュージーランドが組んだモールの中に、バーガー主将とロックのウアニビの2人が割って入る。ボールに絡んで持ち上げ、相手の前進を止める。モールは停滞し、自軍ボールでのスクラムを獲得。パワー比べで簡単に負けないという意地を示した。

開始6分にカウンターからニュージーランドが初トライ。4分後には2本目を決めたものの、その後は得点のペースが落ちた。原因は、ナミビアの守備と密集戦での抵抗にあった。

密集戦で圧力、PGでこつこつ得点

ナミビアは出足鋭く前に出て、タックルを放つ。世界最高峰のハンドリングスキルを有するニュージーランドに珍しく落球が相次ぐ。相手がボールをキープして密集になったときは、バーガー主将とデュプレシーの両フランカーを中心にボールに絡む。試合終盤まで相手の攻撃をスピードアップさせなかった。

「ニュージーランドに速い攻撃をさせるとトライを取られるので、密集戦にフォーカスした。球出しを遅らせることができた」とデュプレシー。ニュージーランドのウイング、ミルナースカッダーは「密集で圧力を掛けられ、攻撃のテンポが遅くなり、試合が難しくなった」。試合のポイントについての両軍主力の感想は一致した。

これほど歯応えがあるとはニュージーランドには想定外だっただろう。世界最多キャップ保持者、マコウ主将の後継者と目されるゲーム主将のケインですらこう話した。「こんなにプレーが(継続できずに)止まって、どうすべきか分からなかった」

地力を生かして10分に1度ほどのペースでトライを奪いながらも、ニュージーランドにはやや焦りもある。その隙を突いてナミビアが小刻みに得点を重ねる。デュプレシーらが密集で相手ボールに絡み、倒れた選手がボールを離さない「ノット・リリース・ザ・ボール」の反則を3つ獲得。約50メートルの難しい距離もあったが、SOコッツェが高い弾道のキックでPGを全て決めた。

敵陣に入ったときにチャンスを逃さず、質の高いキッカーがこつこつと得点を決める。スコットランド戦で敗れた日本は、相手の徹底した分析の前にやや力攻めに走り、効果的に得点できなかった。この日のナミビアは格下が善戦するためのゲームプランを遂行できた。

大半がアマ選手、プレー環境は厳しく

前半のスコアは6-34。もはや記録更新はないと証明した後の後半11分、試合のハイライトが訪れた。ナミビアがゴール前左のラインアウトから右への連続攻撃で密集をつくる。さらに右を攻めると見せておいて、ボールが出る瞬間に左側に2人が移動。空いたスペースに素早くボールを運び、1トライを返した。準備していた連係プレーだろうが、ニュージーランド相手にきれいに成功させるのは簡単なことではない。

終盤にナミビアが一時退場者を出したのに、最終スコアは14-58にとどまった。当初の予想を覆す大健闘。「肉弾戦で渡り合うことができた」とバーガー主将が胸を張れば、デービス監督も「選手が見せてくれた心や魂、誇り、努力はお金で買えない」と笑う。自分たちの不出来に終始不機嫌だったニュージーランドのハンセン監督も、相手の健闘を大いにたたえた。「彼らは素晴らしい対戦相手で、持っている全ての力を出してくれた」

ナミビアは全チーム中、一、二を争う厳しい環境でプレーを続けている。選手のほとんどは朝から夕方まで仕事をしているアマチュア。今大会に備え、早朝5時からスクラム練習をしてきたという。

逆境の中でチームをまとめてきた、バーガー主将の存在も大きかっただろう。チームの中で唯一、名門クラブのサラセンズ(イングランド)に所属する。これが3度目のW杯で、4年前は大会の優秀選手5人の中に入った。何度か折れただろう痕跡を残すやや曲がった鼻骨が、これまでの勇猛な戦歴を物語る。

9月18日にロンドンのトゥイッケナム競技場で行われた開幕セレモニー。出場20カ国の元スター選手が1人ずつピッチ上に登場し、観客に紹介される場面があった。引退した選手に唯一交じっていた現役選手がバーガー。大会組織委員会が「生ける伝説」として公式に認めたことになる。

トンガ戦ではチーム最多の3トライ

改めて、W杯の舞台で145点も取られるというのは尋常ではないと示した試合でもある。当時の日本はチームとしての準備が足りず、戦う気持ちに欠ける選手もいた。大敗が予想される試合で格好悪い姿を世間にさらしたくないと、一部選手は出場を断ったともいわれる。フランカー梶原宏之が地道なサポートプレーから返した2トライはファンにとって救いだったが、記録的な惨敗は日本のラグビー人気低迷の大きな原因になった。

「ニュージーランドと戦うときにプライドを持てないなら、すぐに試合をやめた方がいい」と話すバーガー主将が率いるナミビア。20年前の日本のような結末になるかも、という見方は失礼な話だった。むしろ似ていたのは5日前の南ア戦での勇敢な日本。選手自身も意識していたという。「"雑魚"といわれているチームが年々力を付けていることを日本が証明してくれた。日本のような勇気を持って戦うことが大事」。主将と同じく過去2大会にも出場、苦杯をなめてきたデュプレシーは話す。

ナミビアは29日、トンガと1次リーグ2戦目を戦った。中4日という厳しい日程ながら、21-35と再び健闘。1試合3トライはチーム史上、大会最多となった。そのうち2本を決めたバーガー主将は「トライはW杯初勝利と交換したい」と話す。

次は10月7日にジョージア(グルジア)と対戦。休養も1週間と十分取れる。「チームではいつも勝つんだ勝つんだと話している。これからも勝つことについて話し続けないといけない」。2戦連続の善戦でもまだ何もつかんではいないのだと、チームの気の緩みを警戒する主将のもとで、今大会2度目の歴史的な瞬間は訪れるか。

(谷口誠)

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン