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予想一転「攻撃側有利」 レフェリングの傾向を分析

ラグビーW杯 1次リーグ、半分を終える

ラグビーのワールドカップ(W杯)イングランド大会は10月1日(日本時間)までに、出場全20チームが1次リーグの半分に当たる2試合を終えた。今大会のこれまでのレフェリング(レフェリーの判定)をみると、大会前は「守備側有利」が世界の潮流だったが、W杯が始まってからは「攻撃側有利」へと変化しているのがうかがえる。今大会のレフェリングの傾向を分析してみた。

「この大会はノット・ロール・アウェーの反則が多い。今日の両チームもそうで、プレーするのに苦しんだ」。9月27日(日本時間)、ウェールズに25-28で破れた開催国イングランドのランカスター監督はレフェリーの笛の傾向への不満を公言した。「ノット・ロール・アウェー」(テレビ放送の字幕では「ノット・ムーブ・アウェー」と表示されることもある)はタックルをした選手がその場からすぐに離れずに、攻撃側の球出しを邪魔する、または遅らせる反則だ。日本代表の首脳陣からも「大会前までは守備側有利だったのに。予想外の展開だ」との声が漏れる。

タックル後の「義務行為」を厳格に判定

「特にタックルをした選手の『義務行為』に加え、相手側のボールを奪おうとする選手が『自立』しているかどうかを厳格に見ている」。日本のあるトップレフェリーはW杯のレフェリングの傾向を分析する。タックルをした選手は必ず一度、相手を離さなければならず、その義務行為を怠ったままボールに働きかけることはできない。相手ボールを奪おうとする選手は、他の選手に寄りかかったり地面に手をついたりせず、自分の両足でしっかりと自立していなければならない。

いずれもブレイクダウン(タックル後のボールの争奪戦)では重要なプレーで、だからこそ反則ぎりぎりの行為が頻繁に起こる局面なのだが、大会前の国際試合などではこうしたぎりぎりのプレーを、レフェリーがいわゆる「流す」傾向にあった。その結果、攻撃側のボールを守備側が奪う「ターンオーバー」という現象が頻繁に見られた。一方、今大会ではターンオーバーよりも、攻撃側がフェーズを重ねる、つまり攻撃を継続するシーンが目立つようになっている。

ルール改正の背景に守備の技術の発達

そもそも「守備側有利」という表現は適当でないのかもしれない。「守備の技術が発達した」と評価するほうが妥当だろう。というのも、ラグビーのルールは常に攻撃側が有利になるよう改正されてきた経緯がある。例えばラインアウトで味方の選手を持ち上げる「リフティング」という行為は以前は禁じられていた。これが認められるようになり、ラインアウトで投げ入れる側のボール獲得率は飛躍的に高まった。スクラムにおいて守備側(攻撃側も)のバックスの選手がスクラム最後尾から5メートル離れるよう義務付けられたのも、攻撃側によりスペースを与えるためだ。ブレイクダウンでも同様に攻撃側が有利になるようルールが改正されてきた。

攻撃側有利にルールを改正する背景には、「格闘技の要素を残しつつ、よりボールゲームとしての魅力を高める」という国際統括団体ワールドラグビーなどラグビー界の狙いがある。「見ていて楽しいスポーツ」、つまりボールがよく動き、トライがたくさん生まれるエンターテインメント性を追求しているのだ。

W杯を含め国内外のリーグのレギュレーション(規定)で「トライを4つ以上取れば、勝ち点にボーナスポイントを加算」としているのも、トライを取りにいくラグビーを促している表れだ。個々の大学の定期戦が発展した関東大学対抗戦などはこのレギュレーションを採用していない。それぞれの大学同士の勝ち負けを重視しているためだが、現在では例外といえよう。

ルールを攻撃側を有利にしても、守備側の技術も発達……。ラグビーのルール改正はこの「いたちごっこ」の連続でもある。

主審がトライ宣告→ビデオ判定で覆る

また、今大会で改めて目立つのがテレビジョン・マッチオフィシャル(TMO)によるビデオ判定だ。ゴール前のモールからのトライなど、密集戦でお互いの選手が折り重なるなどして、ボールがインゴールでグラウンディングされたかどうか分からない場合にビデオ判定を用いるのは分かる。一方、キックパスでのオフサイドや、バックス展開でのスローフォワード(ボールを前に投げる反則)の有無といったオープンプレーについてもビデオ判定にかけるのは疑問が残る。判定ミスが許されないのは理解できるが、アシスタントレフェリー(AR)含めポジショニングなどに問題がなかったかどうか、検証すべきだろう。

主審が一度下した判定がビデオ判定で覆るという「珍事」もあった。フランス対イタリアの前半9分。フランスのウイングの選手が右隅のインゴールに飛び込んだ。主審のクレイグ・ジュベール氏はその前のプレーでスローフォーワードがなかったかどうかTMOにビデオ判定を要望。スローフォワードは確認されなかったため、ジュベール氏はトライを宣告した。そしてフランスの選手がトライ後のコンバージョンを狙おうとした瞬間、場内がざわめく。会場に流れた映像ではフランスのウイングの選手が最後の最後でノックオン(ボールを前に落とす反則)しているように見える。再度ビデオ判定を求めるジュベール氏。結果、ノックオンと判定され、ノートライとなった。

いったん認められたトライがビデオ判定で取り消されるのは、開幕戦のイングランド対フィジーでも起きている。日本の別のトップレフェリーは「主審が一度、認定したトライを自ら取り消すことができるのか。疑問だ」と首をひねる。

レフェリングの傾向、日本に有利?

話を元に戻すが、攻撃側有利のレフェリングは日本代表にどのように影響しているのだろうか。今のところは有利に働いているようだ。「シェイプ」と呼ばれる複層的な攻撃隊形で連続攻撃を仕掛けて守備の穴を開け、前進するのが日本の生命線だからだ。ただ、ライバル国もレフェリングに対応してきている。スコットランドが日本戦でブレイクダウンに人を割いてこなかったのは、日本のバックスによる展開攻撃に備える目的もあっただろうが、ターンオーバーは狙いにくいと判断したのかもしれない。残るサモア戦と米国戦、日本代表は改めてレフェリングへの適応力が求められる。

(電子編集部 松井哲)

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