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人口病に克つ 第5部

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「消滅する」と言われた村 「ここで暮らせるのはあと10年か」 群馬・南牧村の長谷川村長

2015/11/10 2:00
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「日本で最も消滅が近い村」。民間シンクタンクにこう名指しされたのが群馬県南牧村だ。65歳以上の高齢者が村民の58%、75歳以上でも41%を占める。その一方で、若い女性は今後30年間で9割減る。若者が減り続けて高齢者の比重が高まる南牧村の姿は、日本の未来像でもある。そこにはどんな問題があるのか、解決のヒントはあるのか。長谷川最定村長に率直に聞いてみた。

長谷川最定・南牧村村長

長谷川最定・南牧村村長

――民間シンクタンクの日本創成会議が「消滅可能性自治体」の最有力候補に南牧村を挙げました。この試算をどうみますか。

「客観的な事実として受け止めている。もともと65歳以上の割合を示す高齢化率は全国一。普通に推計すればそうなる」

「ただこれほどの速度で高齢化が進むとは思ってもみなかった。平成に入った1989年の高齢化率は28%だった。それが今や58%。わずか四半世紀で2倍になった。ずっと村役場で働いてきたが、想定の2倍の速度で高齢化が進んでいる」

――人口は約2000人。村が誕生した60年前から8割減りました。

「60年前はコンニャクイモを中心に農業で栄えていた。南牧村は山間部にあり、傾斜地の畑は水はけが良い。この環境がコンニャクイモの栽培にはぴったりだった」

「ただコンニャクイモも品種改良が進んで平地でも作れるようになり、価格が暴落した。農業機械も傾斜地では使いにくく、平地栽培に対抗できなくなった。村面積の9割は山林。農業も産業も広げようがない」

――若者の流出が止まりません。

「ほとんどの人が高校や大学に進学する時代。村には小学校と中学校しかないため、必然的に村外の学校に行くことになる。首都圏の大学に進学し、そのままそちらで就職してしまうことが多い。村には仕事もない」

――村職員も村外に住んでいると聞きます。

「60人の職員のうち、20人強は村外に住んでいる。すべて村民から採用したが、結婚や子育てを機に生活が便利な自治体に移ってしまう。気持ちは分かるけど寂しい」

――急速な少子高齢化で暮らしにどんな影響が出ていますか。

「まず買い物だ。村に10軒あった商店が今や3軒。10年後にはゼロになる。そうなると、極端に言えば暮らせなくなる。10年がぎりぎりだろう。生活サービスも同じだ。例えば3000円の散髪のために1万5000円のタクシー代を払って村外に出かけることになる。これでは住み続けられない」

「災害にも耐えられない。これまでは大雪や台風が直撃しても、若い人が近所の家の様子を見回りに行ったり力仕事を引き受けたりして助け合ってきた。70歳過ぎまでは若いと思っているが、平均年齢が年に1歳ずつ上がってくるとそうはいかない」

――医療は受けられますか。

「5年前に唯一の診療所が閉鎖した。今は隣町の医師が週2回来てくれる。それ以外なら隣町の病院に行くしかない」

――医療費が増えて大変ではないですか。

「逆だ。医療費は総額でも1人あたりでも減っている。65歳以上の高齢者が減り始めているからだ。若い世代がそれ以上に減っているから高齢化率は上がっているが、高齢者の実数は減っている。村が運営する国民健康保険は5年連続の黒字で、村民が納める国保税を2割下げた。医療費が増えることはもうない」

――介護保険料も月5000円と全国平均よりも1割安いですね。

「保険料収入の不足に備える基金を一般会計予算でつくった。本当は介護保険に一般会計のお金を入れてはいけない。群馬県に問い合わせた時もだめだと言われた。だけど村がやってしまえば、罰せられることはない。少しでも暮らしやすくなるように、将来の村民の負担を抑えることが必要だ」

――村の人口を減らさないため、空き家を使った村民の受け入れに取り組んでいます。

「私が村職員をしていた10年以上前から空き家の貸し出しに取り組んでいる。最初は定年退職して田舎暮らしにあこがれる人たちが多かった。若い世代は1割くらいだったが、今は8割。農村暮らしをしてみたいという若者が増えている。ブームなんだろう」

「今年度から村の負担で古いボットン便所や雨漏りする屋根を改修したうえで貸し出す。若い世代はお金がないから、行政が一定の負担を担う」

――都会からの移住者と地元民との摩擦はありませんか。

「過去にはあった。都会の人はプライベートに踏み込まれることに抵抗がある。田舎はそもそも鍵をかけないのが当たり前。いきなり戸を開けて『最近どうだい』と声をかける。驚いた移住者が鍵をかけたり垣根をつくったりすると、『あの人は何だか雰囲気が悪いね』という話になってしまう。空き家なのに外から来た人に貸したくないと言って拒否する地主もいる。今は村になじめそうにない人はお断りしている」

(聞き手は山崎純)

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