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エディーJ 世界へトライ 金星と敗戦で見えたもの 日本、残り2戦へのカギ

南アフリカ戦で勝った後、スコットランドに敗れたラグビー日本代表。最初の大金星の勢いが、一気に消えてしまったかのようにもみえる。

しかし、もともと1次リーグ前半を終えた時点で日本が目指していたのは、スコットランドを破っての1勝1敗。勝ち星を挙げる相手は変わったが、「本来の予定通り。いい位置にいる」とプロップの稲垣啓太(パナソニック)は話す。試合の中身でも、過去のワールドカップ(W杯)にない自信をつかんでいる。

選手のとっさの判断、11人モール

「FWはフィジカルでしっかり戦えている。すごく手応えがある」とロックの真壁伸弥(サントリー)は言う。バックスの方も「体を当ててみて日本の方がフィジカル、フィットネスで上だと分かった」とフルバックの五郎丸歩(ヤマハ発動機)が話す。

南アのプロップ、ムタワリラら一部の選手の突進には、2人掛かりでも前進を許す場面はあった。しかし、これは一部の局面。日本が肉弾戦で強豪相手と同程度に渡り合えていることは、様々なプレーで証明されている。

例えば、ラインアウトでボールをキャッチした選手を中心に集団で押し込むモール。高校、大学、社会人と年代を問わず国内でよく見られるこのプレーは、日本の隠れたお家芸といえる。今回を含めた過去3大会、チームでの戦術的な重要性が低く、練習時間も短いのに、必ず得点に結びつけてきた。

南ア戦でのモールはFWの8人だけでなく、後方にいたバックス3人も駆け寄って参加。最終的に11人で押してトライを決めた。準備していたプレーではなく、選手のとっさの判断だ。日本選手の体と頭に染みついた習慣が生きたといえる。

前大会まで日本のモールがトライに直結したのは、フィジー、カナダのような同格との試合だけ。決勝トーナメントに進むレベルの相手には、数メートル押せても、ゴールラインの手前で止められることがほとんどだった。

今回の日本は優勝候補の南アと、伝統的にFWが強いスコットランドを押し切った。以前より重い相手にも通じるようになったのは、身体面の成長のたまものだ。過去3年間、普通は練習の強度を落とす試合直前まで筋力トレーニングをした成果で、各選手の筋肉量は数キロ増した。

長年の弱点、スクラムにも手応え

それでも日本選手の体格は2チームと比べるとまだ小さい。では、なぜ押せるのか。来日7年目、フランカーのマイケル・ブロードハースト(リコー)は話す。「低くなって、よりタイトに(味方同士が密着して)組めば、いい結果が出る」

対等な力同士なら重心の低い方が前に出やすい。各選手が堅く密着していれば、モールの真ん中を割られてボールを奪われるリスクは減る。いずれも日本の高校チームなら1年生でいわれることが、日本代表でも強みになっている。

体格に勝る側が押すモールは、ややもすると退屈なプレーにも見られがち。しかし、「小」がまとまって「大」を押す場合は、小兵力士が横綱を真っ向勝負で破るような驚きと爽快感がある。実際、今大会の日本の2トライに客席は大いに沸いた。

日本の長年の弱点だったスクラムも、2戦を終えて「すごく手応えがある」と真壁。スコットランド戦は審判の笛にやや苦しんだ面があるが、南ア戦は互角近くに組めた。2012年からチームに加わり、プロップが足を置く位置をセンチ単位で指摘するなど細かく指導してきたマルク・ダルマゾ・スクラムコーチも、進歩の第一の理由に「フィジカルや力が成長した」ことを挙げる。

大会前に選手が課題に挙げていたブレークダウン(密集戦)でも健闘している。「南ア戦ではボールを奪われる場面がこれまでよりかなり減った」とブロードハーストは話す。

スコットランド戦では雑な攻撃も

密集戦で重圧をあまり掛けてこなかった南アと違い、スコットランドはより労力を割いてきた。それでも「相手はブレークダウンでボール奪取を狙うことができなかった」とブロードハースト。タックルを受け選手が倒れた後、はうように前進したり、サポートの選手がより速く近づいたり……。選手同士で話し合って強化してきた成果が出ている。

密集戦での善戦の一因は、審判の笛の傾向にもあるようだ。イングランドのランカスター監督は26日、ウェールズに25-28で敗れた後の記者会見で話した。「この大会はノット・ロール・アウェーの反則が多い。今日の両チームもそうで、プレーするのに苦しんだ」

ノット・ロール・アウェーとは、タックルをした選手が攻撃側の球出しを妨げる位置に倒れたままでいたり、2人がかりでタックルに行った選手が相手をいったん離さずにボールに絡んでしまう反則。これを厳しく取ると、攻撃側には有利になる。結果として、W杯前の国際試合やクラブの大会で多かった密集戦での攻守交代が今大会に入って減っている。

スコットランド戦では、日本が目指す連続攻撃の生命線である密集戦でさほど苦労せずに球を出せたこともあり、ボールを受けた選手が前進できる場面が多かった。そのうちにトライを取れそうに見えたことが、日本の攻撃をやや雑にした面があるのだろう。

この4年間、磨いてきた「シェイプ」と呼ばれる複層的な攻撃隊形を活用して攻めるより、ランナーをやや単調に突っ込ませすぎたような。福岡堅樹(筑波大)に対する警戒のためだろう、常に前に上がってきていた相手ウイングを下げるためのキックも少なかった。「チームとして焦っている部分があった」と真壁は指摘する。

冷静さと闘志、両方備えてサモア戦へ

攻めが単調になったもう一つの理由は、南ア戦から4日後という過密日程。「選手のセレクションを間違った。中3日で戦いきれなかった選手がいる。精神面で準備をさせられなかった」とエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は試合翌日に話した。連戦は体だけでなく、頭の疲労につながったとみているようだ。

日本の次の試合は10月3日のサモア戦(ミルトンキーンズ)。スコットランド戦から中9日あり、心身の疲れはかなり取れるはず。「雰囲気は悪くないし、みんな気持ちを切り替えている」と五郎丸は話す。

サモアは26日に6-46で南アに敗れた。しかし、この日の南アはほぼベストメンバーで、肉弾戦も日本戦とはほとんど別人の激しさ。2つの南ア戦のスコアを比べても意味がない。決勝トーナメント進出のために星を落とせないサモアは、死に物狂いで向かってくるだろう。もともと個々の力ならスコットランドを上回るほどのチーム。相当激しい試合になりそうだ。

「HCが立てた戦術に向かって、一人ひとりがやっていきたい」と五郎丸。事前の作戦、準備がほぼ完璧にはまった南ア戦のような丁寧な試合運びを、改めて心がける必要性を感じているのだろう。

ただ、主将のリーチ・マイケル(東芝)は「サモア戦で一番大事なのは勝ちたい気持ちをどれだけ高められるか」と、ハートの部分を重視する。南ア戦の山田章仁(パナソニック)、松島幸太朗(サントリー)の両ウイングや、スコットランド戦の五郎丸らのタックルは、それまでその選手になかったほど激しいものだった。大一番に懸ける気持ちが大きな原動力となったのだろう。

冷静さと闘志。背反するもののように感じられるが、どちらも必要になる。目標とする8強入りに向けての大勝負。世界を驚かせた南ア戦のように、2つをそろえて臨めるか。

(谷口誠)

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