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[FT]親中への転換に大きく傾く英国

問題はこうだ。米国が最も頼れる軍事同盟国を自任する国は、西側における中国の特別な友人にもなり得るのか。英国のオズボーン財務相に聞けば、答えは明確な「イエス」だ。英政府の他の人々は米政府の人々と同様に別の見方をしている。

中国を訪問中のオズボーン氏は、ウイグル族が中国政府と対立する新疆ウイグル自治区にも足を運んだ。商取引を結ぶときは別として、オズボーン氏は絶対に論争は避ける構えを取った。オズボーン氏の狙いは、習近平国家主席の10月の訪英を前に一連の金融・投資協定に合意を整えておくことだった。

オズボーン氏は、習氏が英国南部の原子力発電所建設計画への出資に応じてくれれば、英政府は20億ポンドの資金支援を行うと約束した。また、英国を中国の核技術の試験台にすることも持ちかけた。英政府当局は、シェールオイル・ガスの普及とエネルギーの利用パターンの変化により原発新設は経済性を失ったと見なしている。しかし、オズボーン氏は聞く耳を持たない。

オズボーン氏が中国に傾倒か

オズボーン氏が英国を西側における中国の「最高のパートナー」として売り込みながら北京、上海、ウルムチ市を巡る一方で、ロンドンでは安全保障の当局者が新たな国家安全保障戦略の策定に取り組んでいた。その中心を成すのは米政府との安全保障・軍事同盟の再確認だ。

キャメロン首相は今年、国防費削減計画を米国に批判されてひどく動揺した。その首相は今、北大西洋条約機構(NATO)が目標とする国内総生産(GDP)比2%の国防予算に立ち返り、英国には今も相応の軍事力があることを示したがっている。シリア領内でのイスラム過激派勢力への空爆を巡り、議会の反対を覆そうとしているのも同じ考えからだ。

さらに偶然の巡り合わせで、防衛見直しでもサイバー攻撃への対応能力の大幅増強が筆頭に置かれる。サイバー攻撃の多くは、察しがつくように中国を発信源としている。

財務省が外交政策の方向性を決めるのは珍しい。英国最強の官庁である財務省は長年、外国人を見下す気風を示してきた。財務官僚は外国語を話せても伏せておこうとする。したがって、中国政府への接近はオズボーン氏個人の考えによる部分がかなり大きい。中国の台頭に目をくらまされていると評する向きもある。オズボーン氏は、20世紀に米国が英国を押しのけたのと同じように、21世紀中に中国が米国に取って代わると思っているようだ。また、実利主義という部分もある。国内の緊縮財政による痛みを和らげるために中国の資金を必要としているのだ。

キャメロン首相がチベットの精神的指導者ダライ・ラマ14世と会談したことで中国政府の不興を買った際にも、オズボーン氏は屈辱的な譲歩に対する外務省の抵抗を覆した。キャメロン首相はおとなしく自分の過ちを悔い改め、その後は中国の気に障らないよう努めている。

キャメロン首相の今夏の東アジア訪問では、シンガポール政府が域内の安全保障に関する何らかの発言を期待していた。しかし、中国が東シナ海と南シナ海で米国やアジアの周辺諸国と対立する中、キャメロン氏は中国を刺激することを恐れて期待に応じようとしなかった。シンガポール政府側には、ロンドンの金融街シティでアジア企業が資金調達する機会についてキャメロン氏は語りたがっていると伝えられた。

さらに最近、英国が米国とたもとを分かって中国政府主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を決めたことにも、背後にオズボーン氏が控えていた。ワシントンでは現在、米国がAIIBに対して西側のボイコットをまとめ上げようとしたことは、控えめに言ってもあさはかだったと見なす向きが多い。しかし、オズボーン氏の動機は戦略的というには足りなかった。狙いは、中国の財政相にロンドンを人民元のオフショア取引市場に選んでもらうことだった。

中国の新たな富を多くつかみ取ろうとしているのはオズボーン氏に限らない、という声もあるだろう。ドイツのメルケル首相は経済代表団を同行して訪中を繰り返し、米国も米中間のビジネス拡大に中国政府との論争が障害にならないようにしている。

必要ない従順さ

確かに、その通りだ。奇妙なのは英国政府が、健全な経済関係のためには他の全てにおいて──人権であれ、西太平洋での領有権争いであれ──従順な立場を取る必要があると決めてかかっていることだ。米国のオバマ大統領が今週の習氏との会談で、そんなとがめを感じることなどないはずだ。

中国をよく知る人たちは、いずれにせよそうした卑下、古語で言う叩頭(こうとう)によって扱いが良くなるという証拠はないと言う。むしろ逆に、中国政府は哀願するような相手を軽蔑する傾向がある。

また同じく奇妙な点として、オズボーン氏が提唱する中国政府との特別な関係は、英国の長期にわたる戦略的利益の評価とまったくつながっていない。安全保障と防衛の見直しでは、英国の繁栄と安全は何よりも規則に基づく開かれた国際システムに依拠すると指摘される。つまり、1945年から米国によって裏書きされてきた秩序だ。中国政府は、このシステムを西側による覇権の表出と見なしている。

中国に対する有益な経済的関与と英国の安全確保、そのバランスを取ることに、たやすい部分はまったくない。また、英国は常に米国に同意すべきでもない。しかし、英国の国益は、怪しげな原発新設計画に対する中国の数十億ポンドの投資を超えるものだ。

By Philip Stephens

(2015年9月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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