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大リーグ代理人・ボラス氏「強欲批判は筋が違う」

松坂大輔(現ソフトバンク)の米国移籍に際して代理人を務め、大リーグの大物選手を多く顧客に持つスコット・ボラス氏が来日した。多くの巨額契約で知られる同氏に代理人の役割や日本選手の現状などについて聞いた。

――来日の目的は。

「顧客である阪神・鳥谷敬、オリックス・中島裕之と会うのが主な目的だ。一緒に食事し、打撃やメンタルの持っていき方など野球の話をした。言語は違っても野球という共通の話題で楽しい時間を過ごせた。もちろん試合も見たし、幹部にあいさつした球団もある」

ボラス氏は「選手の希望をかなえるのが代理人の仕事」という

大リーグでやれそうな選手、何人も

――今回は札幌にも行った。大リーグ志向の強い日本ハム・大谷翔平に興味はあるか。

「才能あふれる選手なのは誰が見ても分かる。けれども私の興味はひとりではない。対戦相手のソフトバンクにも大リーグでやれそうな選手が何人かいた。私が見た試合は序盤で大差がついたが、そういう局面でこそ選手の性格は出るものだ。甲子園では阪神の藤浪晋太郎も見た。あの若さでコンスタントに150キロ以上の速球を投げるのだから、彼も才能のある選手だ」

――昨オフ、鳥谷は大リーグへの移籍を目指したが実現しなかった。

「行こうと思えば行けたが、残る道を選んだ。人気球団一筋で、カル・リプケンのような連続試合出場の記録もある彼は日本では特別な存在だ。阪神も熱心に引き留めた。だが米国に行けば何人かいるレギュラー候補のひとりで、試合に出られる保証はない。大リーグで通用する力は十分にあるが、総合的に最善の選択をしたと思う」

――日本人野手が満足できる契約をするのは難しくなっているのか。

「資金のかからない中南米の選手の存在が大きい。大リーグの球団は彼らが16~18歳のころから安く契約して育成できる。一方、日本人選手が規定の出場登録日数を満たしてフリーエージェント(FA)権を取得するには最短で9年かかる。これは大学を出た選手にはきつい。米国でも貴重な松井秀喜クラスのパワーがあれば別だが、チームのニーズによほど合わないと30代の選手に大金を出すことはない」

「日本の選手は基礎がしっかりしているうえに、毎日、大勢のファンの前でプレーする機会に恵まれている。米国を除けばこれほど充実した野球環境はなく、プロとしての経験も十分に積んでいる。日本のファンが、日本の選手を近くで見たいというのは正当な主張だ。だが米国移籍との関連でいえば、ファンに多少我慢してもらって、もう少し選手の便宜を図ることを考えてはどうだろうか。具体的にいうと、大学や社会人を経ても30歳になる前に米国に来られるような、年齢も加味したFA権取得の条件を検討してみる価値はあると思う」

野球の能力だけでなく性格も考慮

――FA権を取得する前の選手が移籍するときに使われるポスティング制度で、2013年のオフから入札額に2000万ドル(約24億円)の上限が設けられた。

「影響は選手によって違う。日本の球団にとっては収入が減るわけだから、上限額以上の価値がある一流選手であれば放出するメリットが減り、少しでも長く働いてもらおうということになる。もともと2000万ドルに届かない選手であれば、大きな影響はないだろう」

――多くの一流選手の代理人を務めてきた。どのように顧客を選んでいるのか。

「こちらからアプローチすることもあるし、向こうから話がくる場合もある。引き受けるかどうかは野球の能力だけでなく性格も考慮する。せっかく高い能力をもっていても、それを発揮できない選手も多いからだ」

――大成している選手に共通する要素はあるのか。

「ある。彼らは自分が周囲からどれほど高い期待を受けているかをよく分かっていて、自分自身にも高いスタンダードを課している。それを達成するために日々努力を続け、生半可な成功には満足しない。普通の選手なら経験しないような重圧の中で、そういうことをやり続けている」

「シーズン中の当社の仕事の7割は、選手が力を発揮するためのサポートだ。選手と密に連絡を取って状態を把握し、専門のトレーナーやカウンセラーも雇って選手がベストな状態で試合に臨めるようにアドバイスしている。選手との信頼関係を築くうえで、私自身が野球選手だったことも大きい」

日本の投手、体の成熟前に投げすぎ

――07年、アレックス・ロドリゲスとヤンキースの間で2億7500万ドルの10年契約をまとめるなど、数々の巨額契約で知られる。その手腕は「強欲」と評されることもあるが、どう受け止めているか。

「00年に30億ドルだった大リーグの収入は10年に80億ドル、今年は120億ドル程度まで拡大している。ファンは選手を見に来ているのだから、選手の取り分が増えるのは正当だ。私は大リーグ全体の成長率以上に高い年俸を要求しているわけではない。増収でも球団の取り分ばかりが増えないよう、正当なバランスを確保しようと努めているだけだ。それを『強欲』というのは、あまりに一方的な言い分ではないだろうか」

「選手と球団の契約は金銭だけの問題ではないし、私たちの仕事は選手の代わりに決断をすることでもない。起用方法、愛着のある街に住めるか、トレードの拒否権など選手によって求めるものは違う。選手の希望をかなえるのが代理人の仕事だ。金銭以外の要素で球団を選ぶのは珍しいことではない」

――代理人を務めた松坂のほか、ダルビッシュ有(レンジャーズ)、田中将大(ヤンキース)と日本を代表する投手たちが渡米後、故障に悩まされている。

「投手の体は20代の前半にできる。高校からプロ入りした彼らは体が成熟する前から投げすぎている。日本では24歳までに1000イニングぐらい投げる投手がいるが、米国では3分の1程度に抑えている。同じイニングを投げても、18歳とプロの体になっている20代半ばでは負荷が違う。さらに渡米後は日本よりも短い中4日での登板を求められる。若い頃の蓄積と新たな負荷が故障を生むのだと考えている」

「社会人を経た野茂英雄や大学卒の黒田博樹(広島)が壊れなかったのは恐らく偶然ではない。日本人だから故障するわけではない。若いうちから投げるのはいいが、回数制限など長い目でみた配慮は必要だろう」

(聞き手は吉野浩一郎)

 スコット・ボラス氏 米マイナーリーグでのプレーを経て弁護士資格を取得、1982年に代理人業を始めた。大リーグの多くのスター選手を顧客に持ち、数々の大型契約で知られる。62歳。

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