2019年1月21日(月)

[FT]VWの不正はすべての企業への警鐘

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2015/9/24付
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ビジネスの世界で最も危険な3語の決まり文句、それは「Everyone does it.(みんなやっている)」だ。

業界の規制を曲げることがどれほど慣行化していても、それで競合他社がどれほど得をしていても、そして自分もそうすることへの圧力がどれほど強くても、誘惑に屈する前にすべき単純な自問がある。世間に知れたらどうなるか。損害はどれだけ大きいか──。

ドイツのフォルクスワーゲン(VW)がディーゼルエンジン車に当局の適合試験の間だけ通常走行時よりも排ガスを低減するソフトウエアを搭載していた問題は、マルティン・ヴィンターコーン社長が辞任を余儀なくされる大禍となった。ディーゼル技術に多大な投資をしてきた欧州自動車業界全体の信頼を損なう恐れもある。しかし、自動車メーカーの後ろ暗い振る舞いは決して初めてではない。

ディーゼル車の大半は燃費性能も環境性能も公式発表を下回るという評判をかわすために、自動車メーカーは欧州の燃費試験に対し、ドアの隙間にテープを貼ったりタイヤを過度に膨らませたりする不正行為を繰り広げてきた。米国では1997年にフォードが、今回のVWと同様に不正な「無効化機能」をバンに搭載していたことが発覚した。現代・起亜自動車が試験で不正を行っていた問題で1億ドルの制裁金を昨年科された。

■拡大解釈で他社も続く

こうした行為は自動車業界に限らない。銀行から製薬に至るまで多数の業界で同じことが起きている。一部の何社かが規則を曲げ、規制を拡大解釈するようになると他社も後に続く。危うい部分があることは知りながらも、それが普通のやり方となって当局も見て見ぬふりをする。そしてある日、誰かがやりすぎてスキャンダルが湧き上がる。

「あのやり方が当たり前になっていたシステムの中で動いていたわけだが、私は違反を繰り返している人間だった」と、UBSの元トレーダーで先月、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の不正操作事件で禁錮14年の有罪判決を受けたトム・ヘイズ氏は、英国重大不正捜査局(SFO)に対して述べている。ヘイズ氏はその才にたけ、他のトレーダーたちを協力者に引き込んでいた。そして結局、当局の捜査が入った。

揺り戻しは報復を伴ってくる。当たり前のこととして黙認されていたやり方、あるいは他社に後れを取らないために容認されていたやり方が突然、不適切で違法性が疑われる行為と判断される。「みんなやっていた」は抗弁にならない。それが社会の目にさらされ、止めようとしなかった監督当局が指弾されるに及び、もう許しはなくなる。

怒りとともに社内で責任者探しが始まる一方、経営幹部は当局の調べや記者会見への処し方、「なぜそんなことをしたのか」という質問への答え方を大急ぎで仕込まれる。適切な答え方などないのだが、VW米国法人のマイケル・ホーン社長は少なくとも正確に答えていた。「我々はまったくバカなことをした」

規則を曲げても問題視されないためには、巧妙かつ慎重に事を運ぶことがカギになる。たとえ不正が当たり前になっていても、あまりに露骨になると、グレーゾーンを容認していた規制当局を警戒させてしまう。自動車業界が典型例だ。公式の燃費性能データと実際の性能との格差が大きいことは周知の事実だったが、VWは愚かにもその偽りをさらなる水準に進めてしまった。

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