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積み重ねた実力証明 日本、「番狂わせ」勝利に自信

「ラグビーの歴史で最大の番狂わせ」――。英ガーディアン紙とニュージーランド・ヘラルド紙。ラグビーの「母国」と「王国」の新聞が、ワールドカップ(W杯)で日本が南アフリカから挙げた勝利を同様の表現で報じた。

本当にそうだとしたら、ラグビー校のウェブ・エリス少年がボールを持って走り出したとされる1823年以来、192年間で最大の事件ということになる。

実力がそのまま得点に反映しやすく

ラグビーで番狂わせが少ないのには理由がある。一つは得点方法の簡易さ。5点が与えられるトライに特別な技術は必要ない。ゴールラインを越えて地面にボールを置くだけ。ほとんど誰でもできる。サッカーにおけるメッシやロナルドのような傑出した選手でなくても、チームが圧倒的に優勢なら1人で何トライでも決められる。

もう一つの理由は、無差別級格闘技の側面があること。体重が軽いチームはぶつかり合いを続けているうちに消耗し、終盤は足が動かなくなりがちだ。

ラグビーは実力がそのまま得点に反映されやすく、100点以上の大差がつく試合も珍しくはない。フェアではあるが、ある意味残酷ともいえる。だからこそ番狂わせを起こしたチームは、運だけでなく確固たる実力があるという証明になる。

日本にラッキーな面があったのは確か。移ろいやすいブライトンの天気がこの日は快晴をプレゼントしてくれた。雨が降っていたらパスの回数が多い日本には不利だったはず。主審も守備側がボールに絡むプレーを厳しめに判定、日本の連続攻撃に有利に働いた。それでも、競技の特性を考えると日本の勝利の輝きが色あせることはない。

その希少性から、ラグビーの番狂わせは他競技よりも人の心を打つ力がある。大げさでなく、世界中のラグビーファンは何十年も先までこの一戦のことを語り続けるだろう。

「酸素ボンベを積んだようだった」

日本代表を巡る環境も一変した。「(宿舎の)ホテルの周りにも人が増え、声を掛けられるようになった」とSH日和佐篤(サントリー)。20日の練習には以前のほぼ倍の報道陣が訪れた。新顔はほとんどが海外メディア。練習の公開時間は冒頭15分しかないから、その後は机に座ってパソコンをたたく日本の報道陣までテレビカメラが追いかける。

南ア戦から一夜明け、フッカー木津武士(神戸製鋼)は「やってきたこと全部がはまった。日本のベストパフォーマンスじゃないか」と改めて感じているという。特に自信を深めているのは最後の逆転トライにつながった終盤の攻勢と、その原動力となる持久力だ。

「日本の攻撃は守備側がすごく疲れる。練習で守備側に入ってやっていてもそう。案の定、南アは疲れていた」と木津。日和佐も独特の表現で振り返る。「みんな疲れている中で良く動けていた。酸素ボンベを積んだようだった」

快挙の陰には選手主導の細かい準備もたくさんあった。1週間前、リーチ・マイケル主将(東芝)が選手一人ひとりに求めたのが、南アの同ポジションの選手の分析。それぞれが相手の映像を見て特徴を調べた。気づいた長所と短所を食堂のホワイトボードに書き、他の選手が見られるようにした。

肩を組んで結束「みんなで戦う」

木津は自分と同じ控えフッカーのストラウスについて、ボールを持ってからの突進力に注意するよう指摘した。そのストラウスは木津が出場する前の後半21分、日本のタックルを吹き飛ばしてトライを決めている。「案の定です。書いといたやんって思った」。分析の的確さを冗談交じりに強調する。

南ア戦の開始直前、ウオーミングアップを終えていったんロッカールームに引き揚げる日本の選手は、肩を組んで歩いていた。これも選手の発案で始めたという。「みんなで戦うという気持ちを込めるため」とプロップ畠山健介(サントリー)は説明する。

4年前のW杯。日本が戦ったトンガが同じことをしていた。見る者に感じさせたのは、チームの結束の固さ。試合が始まると、トンガは一致団結して密集戦で徹底的に重圧を掛け、日本は後手に回る。直前まで5連勝していた相手に、日本は肝心の舞台で敗戦。今回、その例にならったのかは分からないが、南ア戦の日本にも当時のトンガ同様の連帯感があった。

歴史的な勝利は選手の心境にも大きな変化をもたらした。試合前は「みんな、まさか南アに勝てるとは思ってなかったと思うんですよ」と木津は正直に話す。それが今ではここまで言う。「ほんまにやってきたことを全部出したら、(世界ランキング1位のニュージーランド代表)オールブラックスも食えるんちゃうかなって思う」

まだ何か起こる、期待感と高揚感

この高揚感は今、日本代表だけでなく大会全体を包んでいる。2003年W杯オーストラリア大会でイングランドを初優勝に導いたジョニー・ウィルキンソン氏はツイッターに記した。「日本が素晴らしかった。単純にそれだけだ。まだ胸がドキドキしている。W杯ではもう誰も安全を保証されていない」

日本の練習の取材に訪れた仏レキップ紙の記者も興奮気味にまくし立てた。「もうW杯では何が起こってもおかしくない」。他のカードのテレビ中継でも、格下のチームがいいプレーを見せると、解説者はすぐ日本を引き合いに出す。

まだ何かが起こるのではという期待感が満ちている。過去の大会にはなかった空気だろう。「母国」が24年ぶりに主催するW杯。その盛り上がりに最も貢献しているのは間違いなく日本だ。

(谷口誠)

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