[FT]EU、難民流入で東西分裂の危機(社説)

2015/9/18付
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欧州連合(EU)の28の加盟国が深刻な問題に直面するたびに言い争うのは以前からよく知られている。欧州の近現代史上で最大規模の難民問題に現在直面している欧州各国政府の反応もまた見慣れたものだ。

中東やバルカン半島からおびただしい数の移民が欧州全土に押し寄せる中、EUの行政執行機関である欧州委員会がこの問題への対応策を発表した。移民流入の最前線であるギリシャ、イタリア、ハンガリーの3カ国にいる難民保護希望者12万人を再定住させるための義務的な割り当て制度を提案した。

移民への不安が広がっていることを考慮すると、このような提案に対する合意の形成は容易ではないだろう。同案を検討するために今週招集されたEUの内相会議はやはり、とげとげしい雰囲気で終わった。移民の受け入れ分担制度についてはフランスとドイツが支持する一方、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーは抵抗している。これらの国では難民に対する社会の不安は強い。だが、もし同案を承認しなかった場合、これらの国々のEUでの立場は悪くなるだろう。

欧州が移民危機問題に対する合意形成ができないのを東欧諸国だけのせいにはできない。例えば、英国はシリア難民のキャンプから直接2万人を受け入れることを約束してはいるものの、欧州委員会の案への参加をきっぱりと断っている。だが、難民負担の大部分を引き受けているドイツは、受け入れ分担案に東欧諸国が抵抗していることに激怒し、EU構造基金の一部をカットすべきだと警告した。それはおそらく違法だが、ドイツがこれらの国々の義務を強調したことは正しい。

■価値観の分断がより深刻な危機へ

中・東欧諸国の政府が移民危機に対してとった態度は不寛容に見える。ポーランドは国政選挙直前のため、譲歩するのが難しい。だが、今回フランスやドイツと足並みをそろえていれば、リーダーシップを示せていただろう。スロバキアがキリスト教徒の難民だけを受け入れると主張していることは擁護しかねる。ハンガリーの対応は、欧州委員会の案が実質的には同国から難民5万4000人を移動させることになるのを考えると、特に理解しがたい。同国のオルバン政権はセルビアとの国境で難民に催涙ガスを浴びせるなど残忍な行為を行っており、その攻撃的な姿勢は非難すべきだが、主に国内世論を鎮めることが目的だと思われる。

ポーランドとチェコはここ数日の間に難民を受け入れる可能性を示唆した。だが、もしEU案が暗礁に乗り上げた状態が続けば、欧州の西側と東側とでは価値観に隔たりがあるという認識が強まるだろう。共産主義の崩壊後、東側諸国は「欧州回帰」を声高に叫び、人道的な気質は(西側と)共通していると宣言した。今回の移民危機は、ハンガリーやスロバキアなどの一部の東欧諸国が古くからのEU加盟国よりも狭量で、外国人嫌いだという懸念をもたらしている。失地回復主義のロシアに対抗するための外交支援を西欧に求め続ける中、東欧諸国はそう受け止められることを許容できる立場にない。

EUは移民危機への対応で合意を形成できず、大きな代償を払っている。ドイツは難民の流入を管理するために出入国管理の義務化を始め、パスポートの要らない「シェンゲン協定」が危機にひんしている。だが、この危機がもっと深刻化するのは、欧州が国境だけでなく価値観でも分断されたときだ。これは欧州全体、特に東欧に住む人々が何としても防がなければならないことだ。

(2015年9月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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