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もう一つの「ラグビーの祭典」 W杯に合わせ誕生

「世界三大スポーツイベント」といわれるラグビー・ワールドカップ(W杯)が行われているイングランドで、もう一つの楕円球の祭典が始まった。

ニュージーランド、南アフリカ、アイルランド、カナダ、ロシア……。15日午後、名門オックスフォード大の一角にあるラグビー場に、各国の大学チームが集まった。今回のW杯に合わせて創設された「世界大学ラグビーカップ」の本格的な開幕だ。

レガシー残し、新しい友人をつくる

主催者オックスフォード大の招待を受け、8チームが参加。前後半20~30分ずつの変則試合を各チームが5戦ずつ行い、優勝を決める。日本からは同大との交流が深い早大が参加した。

早大のタックルをはじき飛ばして突進するケープタウン大の選手

「オックスフォード大ラグビー部のレガシーを残そうという計画の一環で始めた。大会を通じて新しい友人との結びつきをつくることができる」と同部のジョージ・メッサム主将は話す。最大の目的は大学生同士が体をぶつけ合い、語り合う場をつくることだ。

ラグビーでは20歳以下や、高校生年代の国際大会はあるが、大学生のものとなると実は世界にもほとんどない。「こういう大会は聞いたことがない。初めてだと思う」と早大の後藤禎和監督は話す。

もちろん、各チームの選手にとっては貴重な経験になる。15日に早大が対戦したのは南アフリカのケープタウン大。身長2メートル級のロックに、黒人系のパワフルなウイングなど、19日にW杯で日本と対戦する南ア代表を連想させるチームだった。

早大は素早いパス回しやFW、バックスが連係した攻撃で前進するも、ケープタウン大の強烈なタックルでボールを奪われ、逆襲から失点する。14-31の敗戦だったが、「日本のトップリーグ(の社会人チーム)か(大学選手権6連覇中の)帝京大くらいの力があるチーム。この時期にこれだけのタフな経験が積めるのは大きい」と後藤監督は歓迎する。

ニュージーランド学生選抜は試合前に伝統の舞「ハカ」を披露した

各国のプレースタイル、より濃厚に

1995年のプロ容認から20年たち、この年代の有望選手はプロのクラブチームで指導を受けるケースが増えた。日本のようにトップレベルの選手が大学に集まる国は減っている。だからからか、この大会にはその国がもともと持っているスタイルがより濃厚に出ているように見える。

例えば、この年代で世界的な強豪として知られるニュージーランド学生選抜(NZU)と、ロシアのシベリア連邦大の対戦。NZUは激しい密集戦でボールを奪うと、片手でのトリッキーなパスを多用して攻撃する。一方のシベリア連邦大はスクラムや密集近辺の勝負を挑む。

シベリア連邦大のあるクラスノヤルスクは冬季、最低気温が氷点下50度まで下がることもある。ラグビーは冬のスポーツとはいえ、さすがに少し寒すぎるのでは。「建物の中で練習したり、別の土地に行って練習したりしているよ」とプロップのブラディミール・ボトフニコフ。広いグラウンドで走る機会が減ることもあって、FWへのこだわりが強くなるのかもしれない。

31歳のボトフニコフはロシア代表として17試合に出場している。大学生とは思えぬ分厚い腰回りと太ももを持ち、体重は117キロ故障明けのせいか、プレーが動き出したら、ボールの来ないタッチライン際に立って"休憩"していることも多いが、スクラムでは相手を押し込み、ボールを持つと2、3人を引きずって突進する。

シベリア連邦大のプロップ、ボトフニコフは現役のロシア代表

ロシアは昨年、W杯予選の大陸間プレーオフでウルグアイに惜敗した。目前で逃したW杯と同じイングランドで行われている別の国際大会に出場する奇縁。「今回は無理だったけど、次のW杯(19年の日本大会)は出られるかもね」と笑う。

ピッチ外での国際交流の場も数多く

会場のグラウンドは芝生が青々としているが、観客席はない。ピッチに足を踏み入れんばかりに近づいて立つ観客は、大学のOBや選手の家族とおぼしき人ばかり。W杯とセットで観戦に来た人も多いのだろう。

オックスフォード大のゼネラルマネジャーが自らゴミ出しやテントの設置までやるなど、低予算で手弁当の大会だが、もてなしは行き届いている。来場者には無料のコーヒーやお菓子を提供。試合の映像は各国の学生らが見られるよう、動画投稿サイトに流している。

選手がピッチ外での国際経験を積める場も多く設けている。大会の最初と最後に、全関係者が参加するパーティーを開催。早大のメンバーは会期中にも大学主催の別の会合に招かれた。

試合後に両チームの選手や審判団らが飲食をしながら親睦を深める「アフターマッチファンクション」はラグビーの重要な文化。海外では「前半後半に続く試合の一部」という意味で「サードハーフ」と呼ばれることもある。しかし、プロ化以降は世界的に簡略化が進む。

「アフターマッチファンクションをしっかりやることが日本では減ってきたけれど、オックスフォードは歴史を大切にし、相手をリスペクトするという気持ちを持っている。今回参加できたことで、部員にもいい経験になるんじゃないか」。チームに同行している早大ラグビー部の大東和美OB会長は話す。

次回W杯の日本に「バトン渡したい」

今ではイングランドでも有望選手は早くからプロに進む例がほとんど。オックスフォード大もかつてほどの競技レベルにはない。しかし、W杯の自国開催という機会を逃さず意義の大きい大会を立ち上げるあたり、さすがは「母国」の名門チームといえる。

「この大会が今後もW杯ごとに開かれてほしい。19年には日本にバトンを渡したい」と同大のメッサム主将。早大ラグビー部は大学とともに開催を検討するという。派手さはなくても競技の歴史や文化、思想を伝える場が、4年後の日本でも生まれるだろうか。

(谷口誠)

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