火山の噴火は地震と同じように予知が難しく、しかも規模が小さいほど前兆現象も捉えにくい。だが、火山ガスを調べれば、将来的には噴火につながる火山活動の活発化を、ある程度予測できるようになる可能性が出てきた。きっかけは箱根山の大涌谷で6月末、小規模な噴火が起きたこと。東海大学の大場武教授らの研究で、このときの噴火のメカニズムを理解する有力な手がかりが得られていた。
■噴火前に火山ガスの成分が変化
大涌谷では至るところから温泉や噴気(水蒸気を主成分とする火山ガス)が出ている。温泉と噴気のおおもとは大涌谷の推定地下数百メートルにある熱水だまり。地下水と高温のマグマ性ガスが混合、熱水と蒸気が共存した状態になっている。マグマ性ガスは熱水だまりの下方、深さ約10キロメートルにあるマグマだまりから上昇してきたものだ。
大場教授らは約2年前からほぼ毎月1回、大涌谷の噴気を採取して成分を調べているが、今年2月と3月、さらに火山活動に関係する群発地震が始まる2日前の4月24日に採取した噴気を分析したところ、噴気中の水蒸気に含まれる重水素の割合の指標である「水素安定同位体比」が、1月までのレベルと比べて明らかに低下していた。
重水素は水素の安定同位体の一つで、重さは普通の水素の倍ある。水を構成する水素の一部は重水素になっており、水素全体に占める重水素の存在比を水素安定同位体比という。マグマ性ガス由来の水と地下水では水素安定同位体比が異なり、マグマ由来の水の方が高い。だから噴気中の水蒸気の水素安定同位体比を調べると、噴気の源となる大涌谷直下の熱水だまりが、どれくらいの割合でマグマ性ガスと地下水が混ざった状態になっているのかを推定できる。
水素安定同位体比が従来レベルより下がったということは、何らかの理由で、熱水だまりへのマグマ性ガスの供給が絞られた可能性が高いことを意味している。マグマだまりからのガスの放出ペースは、よほどのことがない限り変わらない。熱水だまりへのマグマ性ガスの供給が絞られたとすると、マグマだまりから熱水だまりに至るガスの上昇ルートが何らかの理由で詰まった可能性が高い。
すると詰まったところの下方で次第にガスがたまって圧力が高まり、ある一定の圧力を超えると岩盤中に新たな亀裂が生じ、蓄積していたガスが一気に上昇、熱水だまりに注入され始めたと考えられる。4月26日から始まった群発地震は、こうした地下の動きによるとみられる。火山ガスによる火山活動のモニターは今後、さらに重要性を増しそうだ。(詳細は25日発売の日経サイエンス11月号に掲載)