レトロゲームに再評価の機運 関連ビジネスが活況
日経エンタテインメント!
1980年代から2000年代初頭のレトロゲームを再評価する機運が高まっている。かつて大手ゲームメーカーで人気作を制作し、現在は独立しているクリエイターたちが、当時のタイトルの続編や、手がけていた作品をほうふつとさせる新作を続々と発表しているのが1つ目の現象だ。6月に米国ロサンゼルスで開催された、世界最大級のゲーム見本市「E3」で話題となったのは、ゲーム内の世界を自由に行動できるオープンワールドゲームの元祖『シェンムー』の第3作目の制作開始。元セガで、現在はYs NET社長の鈴木裕氏がソニー・コンピュータエンタテインメントのカンファレンスで発表した。前作『2』は2001年にドリームキャスト用として発売。予定通り『3』が2017年末のリリースとなれば、16年ぶりの続編となる。


ゲームクリエイター五十嵐孝司氏は、KONAMI在籍時に手がけていたホラーアクション『悪魔城ドラキュラ』シリーズをほうふつとさせる新作『Bloodstained:Ritul of the Night』の制作を発表。元カプコンで、現在はcomcept代表取締役の稲船敬二氏は、手応えのある難易度で知られるアクション『ロックマン』を連想させる新作『Mighty No.9』を2016年第1四半期にリリースする予定だ。
レトロゲームを取り扱う専門店の活況が2つ目の現象だ。東京・秋葉原のレトロゲーム専門店「スーパーポテト」は平日でも来客が途切れず、円安効果で外国人客の姿も目立つ。店頭での人気タイトルは『マリオ』『ファイナルファンタジー』などの知名度が高いシリーズ。北林洋平店長は「ヒット作だけに入荷も豊富なので低価格」と話す。一方、国内流通がさほど多くなく、外国人客から人気のタイトルは高価格となるケースが多い(表)。「外国人客は日本語が理解できなくても楽しめる『悪魔城ドラキュラ』シリーズに代表されるアクション、『グラディウス』シリーズなどのシューティング、そして任天堂タイトルでは『ゼルダ』シリーズが人気」(北林店長)。


■工夫を凝らしたゲームを支持

なぜ今、レトロゲーム関連市場が活況なのか。北林店長は「来客者の中心である、30代後半から40代の世代は、最新ゲーム機市場での美しいグラフィック競争で生まれたゲームが本当に面白いのか、と疑問を抱く人が増えているから」と語る。粗いグラフィックしか表示できなかった時代こそ、制約のなかで工夫を凝らしたゲームが多かったと感じているというのだ。
レトロゲームを支持する層は、当時のタイトルをショップで買い集めるだけではない。当時から活躍する独立系クリエイター(前述の鈴木氏、五十嵐氏など)が新作の制作費を集める、クラウドファンディング「キックスターター」へ投資するケースも多い。結果、レトロテイストの新作を制作するには十分な7億円規模が世界中から集まるケースが増え、リリースラッシュにつながっているようだ。

大手ゲームメーカーはこうした現象を認識しているが、本腰を入れる可能性は低い。なぜなら「レトロゲームビジネスは、最新ゲーム機向けの大型新作と比べると、規模がはるかに小さいから」とゲーム業界の動向に詳しい、SMBC日興証券のシニアアナリスト前田栄二氏は語る。このシーンはこれからも独立系クリエイターと専門店がけん引していくだろう。
ブームを加速させそうなのが、過去11種のゲーム機用カートリッジが使用可能なゲーム機「レトロフリーク」の発売だ。2015年10月発売予定だが、ネット通販サイトでは注文が殺到し、一時は予約受付を中断したほどの人気ぶりだ。レトロゲームを新たなビジネスチャンスにする動きはより広がっていきそうだ。
(日経エンタテインメント! 伊藤哲郎)
[日経エンタテインメント! 2015年9月号の記事を再構成]
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