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社員も驚く「匠ロボット」の技 人と協働する先進工場

日経情報ストラテジー
ロボットが製造現場の隅々に入り込み始めた。先進工場では、人との共同作業が当たり前になりつつある。 例えばTOTOの滋賀工場は、熟練の技をロボットが再現するという難題をクリアした。釣り銭機のユニットを生産するグローリーの埼玉工場では、人が働く作業環境はそのままに、ロボットを導入して生産性を高めた。人とロボットが共に働く先端の製造現場に招待しよう。

「この作業をロボットがこなしているのを見て、一番驚くのはTOTOの社員だ」。TOTOサニテクノの田原裕之滋賀衛陶製造部主幹兼技術課課長は、工場内の一角に設けたアクリル板で囲まれた成形工程のブースを指さしながら、こう説明する。

同社は23年ぶりとなる大型投資で最新鋭の技術をつぎ込み、国内外全ての工場のモデルとなる先端の製造現場を作り上げた。

工場のブースのなかでは、2台のロボットが黙々と同じ作業を繰り返している。1台は、ラインを流れてくる衛生陶器の「胴」に接着剤を塗り付ける。もう1台は、その接着面に「リム」を貼り合わせる。現場を知らない関係者が見れば、「ロボットでもできる単純な作業」としか映らないかもしれないが、実はそうではない。

センサー駆使し、匠の技を再現

TOTOの社員の目には「どうしてロボットにできるんだ!」という驚きの光景として映るという。この作業では貼り合わせた胴とリムがわずかでもズレると、その時点で不良品になってしまう。そのため、これまでは衛生陶器の位置をしっかりと定められるように、2人掛かりであらゆる角度から貼り合わせの位置を目視で確認し、ゆっくりと慎重に貼り合わせていく必要があった。

ラインを流れる衛生陶器は1個1個、品番が異なる混流生産。貼り合わせる位置も毎回違ってくる。そうした状況でも、ロボットは最新のセンサー技術を使い、寸分の狂いもなく貼り合わせ位置の違いを正確に識別。かつ迅速に位置を合わせられるようにプログラミングされている。

胴がラインを流れてくると、まず1台目のロボットが、棒状になった器具で接着面を一定間隔にタッチする。これにより、流れてきた胴が標準的な位置から前後左右にどれだけズレているのかを検知する。こうして接着面を正確に特定したうえで、接着剤を塗り付ける。

次いで、2台目のロボットがカメラで胴を真上から撮影する。画像を瞬時に分析し、リムの貼り合わせ位置を正確に見極める。こうして重ねるべき箇所をピンポイントで見つけだし、リムを接着面に配置していく。その間、約15秒。1台目のロボットの作業時間を含めても1分ほどで次々と貼り合わせていく。

全工程475項目を一元管理

他にも、釉薬(ゆうやく)を吹き付ける「施釉(せゆう)」と呼ぶ作業工程をロボットに置き換えた。この工程の特徴は、3台のロボットを同時並行に動作させていることだ。ラインも3方向に分岐できるように、新たに組み替えた。3台のロボットのうち1台でも動いていれば、ラインを止めずに済むようにする工夫だ。

3台のロボットは、実際には衛生陶器を作業台に配置するロボットと、釉薬を塗布するロボットがペアになっている。衛生陶器を配置するロボットは、衛生陶器を作業台の正しい位置に配置するため、直前に画像センサーで配置のポイントを特定している。正しく配置しないと、釉薬が均等に塗布できないからだ。

次に、釉薬を塗布するロボットが、配置された衛生陶器の型番に応じたプログラムをそのつど読み込んで施釉作業を実行する。ラインを流れる衛生陶器は外観がバラバラなので、品番に応じて実行するプログラムを変えているのだ。

衛生陶器の品番は、パレットに貼り付けたICタグのパレット番号から判別できる。TOTOの滋賀工場では、ICタグやドットパターンをパレットに組み込んでおり、衛生陶器に貼り付けたバーコードにひも付けて、一元管理している。ICタグやドットパターンを読み取れば、パレット番号が分かり、パレット番号とひも付くバーコードも分かる。バーコードから、品番や工程で発生する各種ログ情報を呼び出せる。

その項目数は475項目に及び、製造ビッグデータとして工程管理や品質管理、出荷後のトレーサビリティーなどに活用している。

人の作業環境で働けるロボット

人が働く作業環境のまま、ロボットにも働いてほしい――。そう考える製造現場の担当者は多い。ソフトウエアやセンサーの技術進歩で、ロボットはより人に近づきつつあり、実現が可能になってきた。

グローリーの埼玉工場では、川田工業製の18台のロボットがラインで作業をこなす。頭と胴体、2本の腕を備え、作業する姿は人と変わりない。

ただし、ラインはロボット専用に開発した。ロボットは手のひらに相当する部品「ハンド」を使い分け、様々な作業工程に対応する。作業台の上には、ねじを回す、部品をつかむなど、様々な作業に対応したハンドが置いてある。これらハンドや部品、場所などをロボットが識別できるように、作業台の至るところに白黒のマーカーが記載してある。部品の配置も、ロボットが取り出しやすいように設計してある。

見た目は人に近づいているロボットだが、現時点では人が働くラインのままでは作業できない。また、トレーから部品を取る、部品を治具に移す、治具に載せる、といった一連の手順は、事細かに難解なプログラムで覚えさせる必要がある。

人の動きや感覚に近づくロボット

最新のロボットは、より人に近い感覚で動かせるように"進化"している。例えば、米リシンク・ロボティクスの「バクスター」は、プログラミングが不要だ。ロボットの腕をつかみ、動かして教え込む。バクスターは教えられた動きを再現する。

人の作業環境をそのままロボットが利用できるようにする試みも始まった。セイコーエプソンが開発中のロボットは、作業環境に応じて作業の進め方を自律的に判断する。例えば、部品トレーの配置が前回作業時と変わっていても、トレーの位置を正しく認識する。トレーに部品が積み重なっていても、つかみ取る位置を正しく認識できる。また、ハンドには高精度な力覚センサーが組み込んであり、1個のハンドで様々な作業をこなす。一般的な電動工具も人と同じように利用可能だ。

視覚も人に近づいている。キヤノンの画像センサー「RV1100」は、部品を立体的に認識する。対象部品の3次元CAD(コンピュータによる設計)データを読み込み、数千通りの方向から見た立体画像の辞書を作成。

カメラで撮影した画像とパターンマッチングし、対象部品を特定する。山積みになった部品から最も取り出しやすい部品を特定する、といった用途に応用できる。

(日経情報ストラテジー 加藤慶信)

[日経情報ストラテジー2015年7月号の記事を再構成]

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