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大阪は東京より蒸し暑い? 絶対湿度が示す快適条件

松尾和也 松尾設計室代表

ケンプラッツ
2015年も本当に蒸し暑い夏になりました。蒸し暑さを測る指標としては湿度が一般的ですが、湿度には「相対湿度」と「絶対湿度」があります。その違いと、加湿や除湿の考え方を、松尾設計室の松尾和也代表に解説してもらいます。(ケンプラッツ編集部)

今の日本の夏はもはや亜熱帯といえるくらい蒸し暑いですが、相対湿度で見てみると、乾燥を強く感じる冬とはさほど違いが無いように思います。そこで東京と、とにかく蒸し暑いとされる関西の代表的な都市の相対湿度を比較してみました。

東京、大阪、神戸、京都の月平均相対湿度。単位は%(資料:理科年表の1981~2010年の平均値を基に松尾和也が作成)
東京、大阪、神戸、京都の月平均相対湿度を比較したグラフ。単位は%(資料:理科年表の1981~2010年の平均値を基に松尾和也が作成)

相対湿度を見ると、どの都市も1月が最も乾燥していて7月が最も湿っているように見えます。ただ、東京の場合はそれぞれ49%(1月)と73%(7月)と、その差はわずか24%。倍率にして1.5倍程度しか変わりません。

実際には、冬は加湿が必要で夏は除湿が必要なのはご存じの通りです。

相対湿度は同じ水分量でも温度が高くなれば低くなりますし、低くなれば高くなります。要するに、温度によってころころ変わる本当にフラフラした指標なのです。

相対湿度と絶対湿度

では、空気中にはどの程度の水分が含まれているのか。

これを的確に表す指標が絶対湿度と呼ばれるものです。空気1m3(立方メートル)中に何g含まれるかを表すものは「g/m3」、空気1kg中に何g含まれるかを表すものは「g/kg」、空気1kg中に何kg含まれるかを表すものは「kg/kg」、というように3つの単位で表示します。g/kg とkg/kgの2つは、「k」がつくかどうかだけの差で実質的には同じものです。

まずここで、空気1m3の重さを知っておく必要があります。これは温度が上がるにつれて軽くなるのですが、常識として「1m3=1.2kg」と覚えておくと良いでしょう。

これは、想像よりはるかに重い数字だと思います。しかし、水1m3が1t(トン)であることを考えると、その1/1000というのは妥当な重さであることも理解しやすいかと思います。ちなみに建築の世界では、重量あたりの指標であるg/kgもしくはkg/kgで表示されることが多いです。

ここで、熱環境を考える上で一番基礎となる「湿り空気線図」を見てみたいと思います。

湿り空気線図は横軸が温度、縦軸が絶対湿度(kg/kg)を表します。これで見ると、絶対湿度は0 kg/kg(0g/kg)から0.038 kg/kg(38g/kg)まで記載されていることがわかります。本当はg/kgの方が分かりやすいのでそちらを使いたいのですが、見やすい表がこれしかなかったのでkg/kgの表を掲載しました。

最も湿っているのは8月

ではここで、先ほどの4都市の絶対湿度を見てみましょう。

東京、大阪、神戸、京都の月平均絶対湿度。単位は%(資料:理科年表の1981~2010年の平均値を基に松尾和也が作成)
東京、大阪、神戸、京都の月平均絶対湿度を比較したグラフ。単位は%(資料:理科年表の1981~2010年の平均値を基に松尾和也が作成)

東京を見ると、最も乾燥しているのは1月で変わりませんが、最も湿っているのは8月に変わったことがわかります。実際、最も蒸し暑く感じるのも8月だと思います。その両者の差はなんと5.6倍にもなるのです。

つまり、人間の乾燥・湿りの感覚に近いのは、相対湿度よりも絶対湿度に比例すると言えるわけです。同時にこのグラフを見ると、大阪の夏がいかに蒸し暑いのかがよくわかります。また、東京が関西に比べて冬の乾燥度が強いことも読み取れます。

湿り空気線図から快適範囲を読む

前述した湿り空気線図の中に、赤い線と青い線が示してあります。これはASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)が規定している夏、冬それぞれの快適範囲です。夏と冬で快適範囲が異なるのは、着衣量の差によるものです。この図から読み取れることが何点かあります。

まず、夏も冬も絶対湿度が0.012kg/kg(12g/kg)のところで明確に線が引かれていることです。これは27℃だとしたら、相対湿度は55%程度になります。

しかし、日本で一般的に使われているルームエアコンでは、温度をこれ以下に下げることも簡単ですが、相対湿度は60%くらいが限界になってきます。また、日本人は欧米人よりも比較的蒸し暑さに強い傾向がみられるので、私は絶対湿度の上限は0.013kg/kg(13g/kg)でも構わないと考えています。それでだいたい相対湿度は60%くらいなので、エアコンでもなんとか実現できそうです。

逆に、湿度が低い乾燥の方を見てみると、なんと相対湿度0%、絶対湿度0.000kg/kg(0g/kg)まで快適範囲に入っています。

これは間違いではありません。もちろん一晩寝るなど、長時間このような乾燥空間にいたら非常に不快なのですが、2~3時間程度までなら、多数の実験において人間は乾燥度合いの差を判別できないことが明らかになっています。

「湿度40~60%で良い」は正確さに欠ける

ここで健康という概念を取り入れてみます。一般に湿度はよく「40~60%を保ちましょう」と言われますが、これでは正確さに欠けます。もう少し正確に言うと、「夏は60%を切りましょう」「冬は40%を切らないようにしましょう」というのが良心的です。

夏に関しては、ダニやカビの繁殖抑制の観点からこのままでもいいと思います。しかし、冬の場合、インフルエンザなどのウイルス抑制の観点から言うと、40%を超えていれば良いというものではありません。

というのも、インフルエンザなどのウイルスは温度や相対湿度よりも絶対湿度に反比例することが明らかになっているからです。医学分野の論文には、絶対湿度ごとにインフルエンザウイルスの6時間後生存率のデータがあります。これによると、1.5g/kgなら63%、3g/kgなら35~42%、5.6g/kgなら17%、8.3g/kgなら3~5%、16.9g/kgならほぼ0%、となっています。

16.9g/kgというのは蒸し暑い領域なので論外として、8.3g/kgというのは20℃なら相対湿度57%という数字です。これは実質的にはほぼ不可能な湿度で、一般的な住宅で1時間に約1リットル近い加湿が必要となるレベルです。そんなことをできる家庭もしている家庭もほぼないので、私は「20℃・絶対湿度7g/kg」を推奨しています。このときの相対湿度は48%なので、「20℃・50%」で良いと思います。

エアコンの冷房運転が安い

ここで注意点があります。除湿するときに光熱費が安い順序は、「エアコンの冷房運転<エアコンのドライ運転<専用の除湿機」という順になります。ほとんどの人は逆に捉えているので、注意が必要です。

要するに、梅雨時期以外は寒さを感じない限り冷房運転をするのが良いということです。

加湿に関してもエネルギーを食います。最も省エネなのは「気化式」と呼ばれるタイプです。ただ、気化式は加湿時のエネルギーは非常に小さいですが、実は気化する際に熱を奪うので加湿するほど室温は微妙に下がっているのです。厳密にはその分の暖房負荷が増えています。

現実問題として、絶対湿度7g/kg を加湿器で実現するにはかなり大型の加湿器でないと、1日1回の給水では賄いきれません。ただ、大型の気化式加湿器で9リットルタンクがついている製品が販売されているようなので、このような製品であればなんとか1日1回の給水で対応できそうです。そういう意味でも、7g/kgは現実的な値であると考えています。

気化式加湿器でタンク容量が大きな製品の例。パナソニック「FE-KXF15」は9リットルのタンク容量を持つ(写真:パナソニック)

最後に、夏と冬の両方ともに効果がある対策を2つ説明します。ひとつは、潜熱の交換率が高い「全熱交換換気システム」です。

もうひとつは、できるだけ広い面積を吸放湿性が高い素材で仕上げることです。どちらもしっかり数字データが明らかになっているものを使えば、相対湿度で10%近い改善効果が見られます。

全熱交換換気システムの例。ローヤル電機「SE200R/RS」(写真:ローヤル電機)

ただし、どちらもそれだけやっておけば完結するというレベルではありません。夏と冬の両方とも理想的な状態まで持って行こうとすると、やはり加湿や除湿は必要となります。あくまでこれらの手段は、緩和策であるということを忘れないでいただきたいです。

松尾和也(まつお・かずや)
松尾設計室代表、パッシブハウスジャパン理事。1975年兵庫県生まれ、1998年九州大学建築学科卒業(熱環境工学専攻)。日本建築家協会(JIA)登録建築家、一級建築士、APECアーキテクト

[ケンプラッツ2015年8月25日付記事を再構成]

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