第63期将棋王座戦五番勝負 9月2日開幕
羽生善治王座―最多23期狙う 「刺激的、面白い勝負に」

佐藤さんは各棋戦で活躍していて、いつタイトル戦に出ても不思議でない中で結果を出した。もともと評価が高かったですが、ここ1~2年さらに充実している。以前は後手番で受けに回っていたが、横歩取りで積極的にいくようになった。棋聖戦・王座戦の決勝とも、豊島さんが2回とも横歩取りを避けた。研究家の豊島さんがそこまでするのかと驚きました。
今年の自分の状態は全般的にはまずまずでしょうか。中には痛い負けもありましたが。若い人との対局が圧倒的に増えているのはひしひしと感じています。
佐藤さんとの対局はこれまで3局と少ないので、まだ棋風がとらえきれていないところもあります。受けが強い将棋といわれることもあるようですが、先手で角換わり、後手で横歩取りはどちらも自分から攻めないといけない作戦ですし、動くことを中心に考えているのではないかと思います。
(今期防衛すれば王座通算23期で同一タイトル最多獲得記録を更新するが)自分では何期とかは意識しません。(期待される)タイトル100期もあと1つ2つとなれば考えるかもしれませんが、まだまだ大変。それを一つの目標としてやっていけたらとは思います。(タイトル初挑戦の佐藤八段から)新たな刺激を受けて、面白い五番勝負にしたいと思います。
■佐藤天彦八段―初タイトルへ 「自分の将棋みせたい」

力がついたかは自分ではわかりにくいが、順位戦でB級1組という厳しいクラスを1期で抜けられたのは自信になった。恵まれた環境とか才能とか、自分の力で得たわけではないもので、それまでは来られた。けれどB1の1期抜けで、自分の頑張りを認めてもいいのかなと思うようになりました。
初めてタイトル戦の挑戦者決定戦に出た4年前は、いつの間にか来た感じで技術的に足りなかった。当時より技術は上がった。ツイッターや雑誌連載を通じて、ファンの方に応援してもらうことも増え、自分の将棋を大舞台で見てほしいという思いも出てきた。
昔、羽生さんを「神」と呼んで渡辺明さん(棋王)に「倒すべき人をあがめるのはよくない」と叱られた、なんていわれていますが、ちょっと違う。当時、主人公が「神」と呼ばれる漫画「デスノート」がはやっていて、羽生さんの手を「神の手だ」なんて冗談で言っていただけです。渡辺さんに怒られた記憶もない。羽生さんに関わる噂は広がるものなんですね。
羽生さんという最強の相手と思い切りぶつかれるのはやりがいがあります。楽しみです。プロの将棋は、自分の我を通すだけでは勝てない。相手の良さを受け入れた上で、自分の良さを出していく必要がある。相手への敬意はあっても問題ないと思っています。
◇展望を聞く
五番勝負の展望を、佐藤八段と親しく羽生王座のこともよく知る渡辺明棋王(31)、村山慈明七段(31)の2人に聞いた。=文中敬称略
――佐藤の勝率がすごい。

渡辺 プロ入りが早くタイトル戦に出るだけの才能はあったが、経験も積んでいい状態になった。最近は大長考して優勢を築くことが多い。意識的にしているのだろう。
村山 作戦・戦い方を確立した。以前は2手目8四歩と相手の得意を受けていたが、後手で横歩取りを指すようになり、今や武器にして高勝率を誇る。勝ち方もうまくなった。1手勝ちより1手半~2手勝ちを目指すつくりで、逆転負けがない。
渡辺 佐藤の活躍は刺激になっている。A級でも後輩が増え、年齢を感じる。今年度のタイトル戦線は、羽生に豊島・広瀬と若手が挑戦し、佐藤が続く。2~3年前の、若手が少し顔を出してきた段階から明らかに進んでいる。
村山 彼とは争う立場なので自分も頑張らないと。刺激を感じるというより、悔しい。
――羽生の状態はどうか。
渡辺 爆発的に勝っているわけではないが、タイトルはきちんと防衛していて悪い感じはしない。
――2人の対戦は2~3年前に羽生が2勝、5月の銀河戦で佐藤が1勝を返した。
渡辺 参考にならない。最新の対局は早指しだし、今の佐藤は2~3年前と完全に人が違っている。A級に上がって相手が厳しい中で8割勝つのは、四段、五段の若手の勝率8割とは訳が違う。
村山 番勝負の前に1勝が入ったのは気分的に大きい。
――戦型予想は。

村山 佐藤は後手で横歩取り、先手で角換わり。普通にいけば横歩取りシリーズだが、銀河戦のように羽生が横歩取りを拒否して相振り飛車もあるか。
――2人の相性はどうか。
渡辺 羽生と指すと「そんなところで手を渡すんだ」と感じることがあり、佐藤にも同じような印象を受けることがある。2人とも相手の攻めを引っ張り込むことを怖がらない。手番を握って攻め続ける、私のような現代的なタイプとは違う。攻め一方、受け一方にはなりにくいだろう。
村山 佐藤は基本は攻めだが、常に自玉をケアしながら探り合う。研究が重要な角換わりや横歩取りでも、研究だけで決着がつく将棋にはならないだろう。手数の長いシリーズになるかもしれない。
――佐藤はかつて、羽生を「神」と呼んでいたそうだが。
渡辺 ここ数年は聞いた記憶がない。今はあこがれという意識ではないだろう。今回、最近の成績だけ見れば勝機十分だが、そう簡単ではない。「羽生と戦えるだけで満足」となるか、自分が羽生に勝つとイメージできるか。
――勝敗予想は。
村山 長年タイトルを保持する王座戦での羽生の信用は大きい。厳しい局面で夕食休憩に入る時や、時間の使い方などで一日の長がある。3-2で羽生防衛とみる。
渡辺 3-2で奪取と予想する。今の佐藤ほどの勝ちっぷりは他の人を含めてもあまり記憶にない。ここまで勝ってタイトルを取れないのは酷なくらいだ。初挑戦で緊張するだろうが、ぽっと出の新人ではないので大丈夫。羽生も今回は力が入るだろう。防衛すれば「こんなに勝っても羽生には勝てないのか」と知らしめることになる。
◇本戦トーナメント回顧 若手躍進目立つ

関東の中村(太)・永瀬の両六段に佐藤(天)八段、関西の豊島・稲葉の両七段。次代の担い手と目される若手が並ぶ、楽しみな本戦となった。
中でも目を引いたのが、今春の棋聖戦でも挑戦権を争った新A級の佐藤(天)八段と前期挑戦者の豊島七段。準決勝ではいずれも上位者との対戦となったが、佐藤(天)八段が渡辺棋王を、豊島七段が久保九段を、それぞれ退けた。
決勝では佐藤(天)八段が棋聖戦の借りを返し、タイトル初挑戦。豊島七段は2年連続の王座戦挑戦をあと一歩で逃した。
対局日・対局場 | 立会人・新聞解説 | |
第1局 | 9月2日(水) | 立会・塚田泰明九段 |
横浜ロイヤルパークホテル(横浜市) | 新聞解説・阿久津主税八段 | |
第2局 | 9月17日(木) | 立会・福崎文吾九段 |
ウェスティンホテル大阪(大阪市) | 新聞解説・山崎隆之八段 | |
第3局 | 9月24日(木) | 立会・大内延介九段 |
龍言(新潟県南魚沼市) | 新聞解説・佐藤紳哉六段 | |
第4局 | 10月6日(火) | 立会・森雞二九段 |
仙台ロイヤルパークホテル(仙台市) | 新聞解説・村山慈明七段 | |
第5局 | 10月26日(月) | 立会・森下卓九段 |
常磐ホテル(甲府市) | 新聞解説・豊川孝弘七段 |
第1局 | 東京・大手町、日経本社2階「SPACE NIO」(03・6256・7682) |
森内俊之九段、加藤桃子女流王座・女王、午後6時開始、無料 | |
第2局 | ウェスティンホテル大阪(06・6440・1111) |
糸谷哲郎竜王、船江恒平五段、星野良生四段、長谷川優貴女流二段、 山口絵美菜女流3級ほか、午後1時、1000円(別料金で指導対局あり、 問い合わせは日本将棋連盟関西本部=06・6451・7272) | |
第3局 | 龍言(025・772・3470) |
先崎学九段、本田小百合女流三段、午後2時、2000円 | |
第4局 | 仙台ロイヤルパークホテル(022・377・1111) |
中村太地六段、中村桃子女流初段、午後3時、1000円 | |
第5局 | 常磐ホテル(055・254・3111) |
藤井猛九段、中村真梨花女流三段、午後3時、1000円 |