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ラグビー日本、指揮官退任にも不動の心を

ラグビー日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)がワールドカップ(W杯)イングランド大会後に退任することが決まった。就任後の4年間、日本の地力を引き上げた最大の功労者がジョーンズHCであることは間違いないから、インパクトは大きい。

監督の求心力は落ちる?

しかし、大きな大会後の監督交代が事前に発表されることは、プロスポーツの世界で珍しくない。職にあぶれることを恐れるコーチも、人材を確保しておきたいチームも、早め早めに次の契約を決めようとしている。今回のW杯でもフランス代表のサンタンドレ監督は大会後に退くことが決まっている。

離任が決まっていると監督の求心力が落ち、チームが勝てないというわけでもない。例えば、昨年のサッカーW杯ブラジル大会でのギリシャ。就任4年目のサントス監督は終了後の退任を公言して総決算の大会として臨んだ。

1次リーグの初戦はコロンビアに0-3の敗戦という厳しい結果。ただ、続く日本戦では前半に退場者を出しながら、耐えきって0-0のドロー。3戦目は終了間際の勝ち越し弾でコートジボワールを下した。監督退任で選手の意欲が落ちるどころか、一体感のある戦いで史上初の決勝トーナメント進出を果たしている。

今回、W杯後までジョーンズHCの去就を秘匿する選択肢はあった。しかし、このタイミングでの発表にこだわったのはHCの方。"移籍"が噂されるストーマーズ(南アフリカ)の現地メディアは、交渉の経過を度々報じている。いずれ情報が漏れるなら正式に発表した方がいいというジョーンズHCの配慮はあっただろう。

サンタンドレ、サントスの両監督の場合、退任発表は大会の3カ月前。今回は25日前とより本番に近いが、それでも選手に大きな動揺はないのではないか。

選手の頭の中、はるかに「プロ化」

現在の日本代表はほぼ全員が企業に所属するとはいえ、多くはプロ契約を結んでいる。南半球最高峰リーグ「スーパーラグビー」(SR)のクラブと契約した経験を持つ選手も8人いる。選手の頭の中は昔よりはるかに「プロ化」されている。

そのことは発言からも感じ取れる。ジョーンズHCが他チームと交渉中であることを選手に説明した19日、リーチ・マイケル主将(東芝)は淡々と話した。「彼も生活をしないといけないから当然。(退任が)決まったからといって、ここ(日本代表の指導)が中途半端になることは絶対にない。正直、僕らには関係ない」

ジョーンズHCは来年発足するSRの日本チームの強化責任者も務めている。W杯後は日本代表とSRの2チームをジョーンズ氏が主導するというのが、協会の構想だった。しかし、SRの方は選手契約などの準備が遅れており、参加ができなくなる瀬戸際に立たされている。

ジョーンズHCは退任を選んだ一因がこの問題であると明かしている。ただ、別の選手はこう話す。「SRの話がダメになったらエディーさんも次の道を考えないといけない。自分が同じ立場だとしても、次の仕事がある方が落ち着いて指導できる。日本代表にとってもその方がプラスになる」。指揮官の心境を気遣う余裕さえ見せる。

もちろん、日本チームの運営法人と協会が一体となって準備を加速させる必要があるのは言うまでもない。ジョーンズHCのロビー活動もあって実現したSRへの参加が、HCとともに去っていくのが日本のラグビーのためになるかどうか。

自身の去就に関する発言とは別に、最近、ジョーンズHCの気になる言葉があった。22日に行われたウルグアイ戦後の記者会見。「アタックで受け身になってしまっている。来週はそこを修正したい」

ウルグアイの力量を考えると十分とは言えないが、日本は30点を奪って勝っている。それなのになぜ?

HCはこう答えた。「(ランナーは)ボールのスピードに合わせて走り込まないといけない。(密集から)速く球が出たら、ハードに仕掛けて守備側を下げないといけない。速い球が出ているのに、攻撃で勢いに乗れていない。相手をどんどん追い込むことができていない」

密集戦で素早くボールを確保できたら、攻めのテンポを上げる好機。しかし、パスを受ける選手がトップスピードで走り込んでいない。僅かに力をセーブしている。HCの目にはそう映っているようだ。

この日は汗でボールが滑り、落球が多発した。HCに言わせると「豪雨の中でプレーするのと同じ」。捕球に神経を使うあまり、選手がスピードを微妙に抑えてしまった面はあるだろう。ただ、ウルグアイはW杯で対戦する南アフリカやサモアのようなハードタックルはない。気後れする要素は少なかったはず。

パスの出し手と受け手の呼吸や、走り込むタイミング、スピードを判断する頭の回路が、まだ完全に整備されていないのかもしれない。

微妙な反応の鈍さ、他にも散見

同様の微妙な反応の鈍さは、他にも散見される。「ボールを取れそうなときは、声を掛け合ってラック(密集)を越えていかないといけないのにできていない。こちらが3人で相手が1人でもボールを取り返せていない」と指摘するのはSH田中史朗(パナソニック)。タックルを受けた相手選手の倒れ方が悪かったり孤立したりしていれば、日本の選手が密集へ働きかけることでボール奪取の可能性は広がる。その動きが鈍いと田中は言う。

今の日本は密集戦でボールを奪いきる回数が少ない。日本代表は3度を目標にしていながら、ウルグアイ戦ではゼロだった。守備に回る時間が短くボール奪取を狙う機会が少なかったのもある。だが、この力量の相手にできないことがW杯でできるのかと少し心配になる。

「そこは課題」とリーチ主将も思案顔。失敗を恐れるあまり、リスクをかけられないケースがあるとリーチは話す。確かに、好タックルが決まり、はた目には「取れるかも」と思わせる場面でも、ボールに絡みに行く選手は少ない。

密集戦でボールに絡むプレーは反則を取られやすいのは事実。密集に人数を3~4人投入したかいなく、相手に素早く球出しをされると最悪。立っている選手が少ないので、ピンチになりやすい。「リスクを負うときと負わないときのバランスが難しい? そうですね」とリーチ主将。

その辺の割り切りは、ウルグアイの方が勝っていた。前半7分、敵陣深くで日本ボールの密集ができた。日本のサポートが遅いとみるや、次から次へと飛び込んだウルグアイの選手は合計5人。ボールを奪って大きくキックし、ピンチを脱した。

W杯では守備の甘い相手はいない。日本が連続攻撃で崩しきってトライという形は量産できないだろう。ボール奪取からカウンターの形も増やしたい。試合終盤、いちかばちかで逆転を狙いにいく場面や、勝ち点のボーナスポイントが得られる4トライ目を狙いにいくケースで、リスクを承知で勝負にいけるか。

必要なときに勝負をかける意思統一や、反応の速さがまだ足りないのは、様々な理由が絡み合っているのだろう。HCは練習の強度を徐々に落とし始めているが、選手の疲れはまだ残っている。今季に入ってベストメンバーで臨んだ試合もほぼゼロで、連係も練れていない。

最近、結果が出ていないことも心理的に影響しているのかもしれない。7月18日にパシフィック・ネーションズカップの初戦でカナダを下した後は米国、フィジー、トンガ、世界選抜に4連敗。ウルグアイ戦も会心の試合とは言えない。

「今回は地に足がついている」

ただ、過去のラグビーやサッカーの日本代表の歴史をみると、この時期は変にきれいなスコアが並ばない方が、W杯での好結果につながる傾向がある気がする。4年前も直前のパシフィック・ネーションズカップで優勝し、W杯では0勝に終わっている。当時と比べて「今回は地に足がついている感じがする」とプロップ畠山健介(サントリー)も前向きに考えている。

今の時期に課題があらわになっているのはむしろプラス材料と捉えたい。3週間後の本番まで悩みに悩み抜いた後、頭と心をすっきり整理し、思い切りのいいプレーができるなら。噂や海外での報道が先走っていたHCの去就がはっきりしたことも、選手にとってはすっきりする部分はあるのではないか。

(谷口誠)

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