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勃興「不動産テック」 査定も審査もネットで完結

ITpro
不動産の売買や仲介などをネット上で完結させる新種のサービスが相次ぎ登場し話題を呼んでいる。マンション物件の売り主や賃貸物件の借り主は、店舗に足を運ぶことなくスマートフォン(スマホ)を使って手軽に使えるのが特徴だ。担い手は「ネット不動産」を名乗るベンチャー。不動産業界の慣行は非効率で不透明だとして、IT(情報技術)の力を借りて大胆に改革しようと試みる。

金融業界では「フィンテック」、広告業界では「アドテック」と呼ぶ革命の嵐が吹き荒れるが、今度は「不動産テック」が注目を集めそうだ。

ネットの力で情報格差を是正

「顧客と事業者の情報格差を利用して成り立っているのが、これまでの不動産業界のビジネスモデル。ネットとITで顧客が情報を手にできるようにしたい」。こう語るのはネット不動産ベンチャー、マンションマーケットの吉田紘祐社長だ。同社はマンション売却に特化したネットサービスを、2015年8月17日に始めた。約11万件の物件情報を掲載している(図1)。

イタンジも8月1日から、賃貸住宅を探せる「お部屋探しサービスNomad.(ノマド)」の提供を開始した。現在の対象地域は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県で、8万5000人の登録会員を持つ。毎月150~200件が成約しているという(図2)。

両社はいずれも自らを「ネット不動産」だと名乗る。これまでの不動産会社のように店舗を構えて顧客と対面する形を取らず、物件の取引や賃貸といった作業を全てネット上で実施できる点にこだわった。ネット専業の不動産会社というわけだ。

無店舗だから低額・定額実現

マンションマーケットの利用者は、マンション物件の売り主。相場情報の確認から物件の査定、売却まで全てネット上で完結できる。ノマドも賃貸住宅の検索や物件見学の予約はもちろん、契約時の審査といった手続きのために借り手が店舗を訪れる必要はない。借り手が同社の担当者と合うのは、物件を見学する際に現地で待ち合わせたときぐらいだ。

特徴はネット専業の強みを生かし、店舗の家賃や人件費といったコストを徹底的に抑える代わりに、利用者が負担する料金を割安に設定していること。

マンションマーケットの場合、売却にかかる仲介手数料は一律49万8000円。マンション取引の仲介手数料は「物件価格の3%+6万円(税別)」が法律で定められた上限で、「法定上限価格が事実上の定価となっていた」(吉田社長)という。

本来はこの範囲内で金額を設定できることに目を付けた。「物件の価格によらず、仲介業務の手間はほとんど変わらない」(吉田社長)ためだ。およそ1460万円以上の物件ならば、マンションマーケットの方が、手数料が安くなるケースが多いと胸を張る(図3)。

仲介手数料の価格破壊

ノマドの売りは仲介手数料を無料にして、必要な期間だけ月額契約する形をとる。料金は月額800円(税別)で、物件を見学すると1回あたり600円がかかる。一般的な不動産賃貸仲介では、物件の家賃の1カ月分を仲介手数料として支払うケースが多い。利用者の平均利用期間は2.8カ月で、大半が2000円前後の出費で済む点が評判を呼んでいる。

ノマドのサービスは元々、同業ベンチャーのアセンシャスが立ち上げたもので、ノマドは事業を譲り受けた。月額制のアイデアの原点は、既存の不動産会社の無駄をそぎ落とすことにあったという。

アセンシャスの創業者で不動産会社出身の鈴木直樹氏は、ノマド事業を立ち上げた当時を次のように振り返る。「情報が不動産会社にしかなかった時代は、仲介手数料というビジネスモデルは理にかなっていたし、不動産会社の車で物件まで案内してもらうことにも価値があった。しかし今はスマホ時代。無駄なコストを削り、利用料金と広告で十分事業をまかなえるはずと考えた」。

人工知能も活用、付加価値を創出

単に低コスト化だけではなく、ITを活用して従来にはなかった付加価値の創出にも両社は余念が無い。マンションマーケットは「マンションスコア」と呼ぶ、独自に算出した相場情報のデータベースを開発。利用者が自宅マンションの階数や広さ、方位などを入力すると、売却価格を試算してくれる。現在は東京23区、1万3000棟のマンションを対象に同スコアを算出できる。今後はほかのエリアも対象に加える方針だ。

ノマドは2015年内にも、人工知能を使って自動的にお薦めの賃貸物件をレコメンドするサービスを始める。利用者の属性や過去の閲覧履歴、成約実績といったデータを基に、不動産業者の判断基準や経験則を自動化するという。

フィンテックやアドテックを支えるのは、実は金融機関や広告会社で働いた経験があり内情をよく知る人物たち。ITにも詳しい若手社員が続々と起業して、それぞれの業界で旋風を巻き起こしている。

マンションマーケットの吉田社長も、実はリクルート(現リクルート住まいカンパニー)の不動産情報サービス「SUUMO(スーモ)」で企画営業を務めた経験がある。先駆者たちの挑戦に刺激を受けた同業者が相次ぐならば、不動産業界の姿が今後激変する可能性がある。

(日経コンピュータ 玉置亮太)

[ITpro 2015年8月19日付の記事を再構成]

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