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世界水泳「金」の渡部、伸ばせるときにタイム伸ばせ

元競泳日本代表 伊藤華英

水泳の世界選手権(ロシア・カザニ)の競泳は9日、日本勢が金メダル3、銀メダル1の計4個のメダルを獲得して閉幕した。金メダルをつかんだ女子200メートルバタフライの星奈津美選手(ミズノ)、女子200メートル平泳ぎの渡部香生子選手(JSS立石)、男子400メートル個人メドレーの瀬戸大也選手(JSS毛呂山)の3選手が来年のリオデジャネイロ五輪の代表に内定した。

精神的強さ見せた瀬戸、自分信じてV

9日の大会最終日に400メートル個人メドレーで金メダルを獲得した瀬戸選手には驚かされた。5日の200メートルバタフライで6位に終わり、さらに200メートル個人メドレーで準決勝敗退。正直、残る400メートル個人メドレーも厳しい結果になると思った。

それでも、瀬戸選手は自分を信じていた。あの泳ぎは自分を信じていなければ絶対にできない。普通は前のレースの結果があれだけ悪いと前半は慎重になるもの。それなのに、前半から積極的に飛ばして、最後は周りの選手を諦めさせていた。あのどん底で、あのレースができたことはすばらしいの一言。瀬戸選手の精神的な強さを改めて感じた。

世界選手権の競泳は8日間の長丁場なので、大会の後半は本当に疲れる。そのなかで最終日にあれだけの力を出せたところもすごいことだ。

渡部選手の200メートル平泳ぎに関しては世界大会の金メダルを狙って取れるスイマーになったと思う。1992年バルセロナ五輪女子200メートル平泳ぎの岩崎恭子さんや、2004年アテネ五輪女子800メートル自由形の柴田亜衣さんのように本命視はされていなかった中での金メダルではなく、アテネ五輪と08年北京五輪の2大会連続で平泳ぎ2冠に輝いた北島康介選手のように来年のリオ五輪は金メダルを狙って取りにいく立場になった感がある。

今大会の活躍で、世界のトップスイマーから名前を覚えてもらったはず。これから世界にたくさん友達をつくって、いろいろなことを吸収してほしい。まだ18歳。20年東京五輪を、スイマーとして脂が乗る23歳で迎える。東京の次も狙える若さだと思う。

一番の収穫は渡部の連続日本記録更新

星選手は全く危なげがなかった。予選、準決勝、決勝と自分が何をすべきかを理解していた。ロンドン五輪で銅メダルを獲得した経験が生きていたと思う。

昨秋にバセドー病による甲状腺摘出手術という試練を乗り越えたことに加え、昨季終了後から平井伯昌コーチに師事したことで、新たな自信を得たようだ。平井コーチを心から信じて練習に取り組んでいることも、大きな力になっているように思う。

五輪ではタイムよりも勝ち負けが大切。たとえタイムが遅くても金メダルが取れればいい。ただ、五輪前年の世界選手権ではタイムも求められる。その点で今大会の日本勢で一番の収穫だったのが、渡部選手の200メートル個人メドレーだろう。

準決勝と決勝で日本記録を更新。決勝では日本女子初の2分8秒台(2分8秒45)をたたき出し、銀メダルを獲得した。昨秋の仁川アジア大会、今年4月の日本選手権、そして今回の世界選手権と、この種目は泳ぐたびに日本記録を更新している。

私も代表に入ったばかりの高校生のころ、00年シドニー五輪女子100メートル背泳ぎ銀メダルの中村真衣さんから「タイムは伸ばせるときに伸ばしておけ」と助言された。最初は何を言っているのかよく分からなかったが、記録が伸び悩むときが来てよく分かった。

スイマーは、タイムが順調に伸びているときでも「いつか、上がらなくなってしまうんじゃないか」と怖くなることがある。でも、そういう心配は実際にタイムが伸びなくなったときにすればいい。渡部選手は今が成長期。不要な心配をせず、どんどんタイムを伸ばし続けてほしい。私が昔、中村さんから受けた助言を、そのまま渡部選手に授けたい。

伸びていく見込みあるバタフライ坂井

個人メドレーでの渡部選手の強みは平泳ぎが強いことだ。バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、自由形の4泳法のうち、平泳ぎだけは水のとらえ方が全く違う。平泳ぎは足の裏、それ以外の3泳法は足の甲で水を蹴る。野球で言えば、投手と打者ぐらいの違いがある。だから、マイケル・フェルプス選手(米国)や日本のエース萩野公介選手(東洋大)、今大会の女子個人メドレー2冠のカティンカ・ホッスー選手(ハンガリー)ら個人メドレーの有力選手はみな、平泳ぎが得意ではない。

一方、渡部選手は平泳ぎが専門だから、ここで巻き返したり、差をさらに広げたりすることができる。しかも、3泳法目は一番、疲れているときだ。ここで踏ん張りがきく選手は有利。個人メドレーでも渡部選手は来年のリオ五輪で好成績が期待できる。

男子背泳ぎの入江陵介選手(イトマン東進)は100メートル6位、200メートル4位と予想外の結果に終わった。入江選手は持っているものは一流。だが、泳ぎには性格が出る。繊細な泳ぎは繊細な性格ゆえなのだろうか。

男子平泳ぎのメダル候補だった小関也朱篤選手(ミキハウス)は50メートルと100メートルで決勝に進めず、200メートルも5位。初めての世界選手権で、世界の壁の高さを痛感したと思う。

最終日の瀬戸選手以外に元気のなかった男子では200メートルバタフライの坂井聖人選手(早大)が頑張った。初めての世界の舞台でメダルまであと一歩の4位と善戦したのに、レース後のインタビューで「悔しい」と満足はしていなかった。ああいう選手はまだ伸びていく見込みがある。

伊藤華英さん

金メダリスト、挑戦者はね返す使命も

男子200メートルバタフライといえば、今大会6位に終わった瀬戸選手は来年のリオ五輪もかなり厳しい戦いになるのではないか。ラースロ・チェー選手(ハンガリー)の優勝タイム(1分53秒48)よりも、同時期に米国の国内大会でフェルプス選手が出した1分52秒94の方が速かった。フェルプス選手が来年の五輪で200メートルバタフライに出てくれば、瀬戸選手のライバルがさらに増える。そこに今大会で自信を付けた坂井選手も絡んでくるのだから激戦は必至だ。

五輪前年の世界選手権の金メダリストに五輪出場権を与える制度は、星選手、渡部選手、瀬戸選手の3選手が適用第1号だ。3選手は前例のない1年間を、これから過ごしていくことになる。

1年前に五輪出場が決まる利点は大きい。ほかの選手は来年4月の代表選考会にピークを持っていかないといけない。一方、3選手は代表選考会でも五輪を見据えていろいろなことを試すことができる。

とはいえ、3選手にはもう一度、4月に勝負する気持ちを持ってほしい。とくに渡部選手の200メートル平泳ぎと瀬戸選手の400メートル個人メドレーはライバルが強力。国内のほかの有力スイマーの挑戦をはね返すのも金メダリストの使命だと思う。

今回の世界選手権をけがで欠場した萩野選手と大会期間中にメールした。「僕は必ず戻ってきます」と返事があった。3選手に注目が集まっている間に、ほかの選手は強化に集中すればいい。3選手も追われるプレッシャーを乗り越えることが、来年のリオ五輪に向けてさらなる成長につながるはずだ。

 伊藤 華英(いとう・はなえ) 1985年1月18日、埼玉県生まれ。高校2年だった2001年に世界選手権(福岡)に初出場し、100メートル背泳ぎで7位。06年パンパシフィック選手権では同種目で金メダル。08年北京五輪は100メートル、200メートル背泳ぎで8位、12位。故障により、09年から自由形に転向。12年ロンドン五輪は400メートル、800メートルリレーに出場した。12年国体(岐阜)を最後に現役を引退し、現在はセントラルスポーツ所属。

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