ストレッチと抗炎症薬で早く治す四十肩・五十肩

「四十肩・五十肩」は、骨や筋肉などにケガや構造上の異常がないにもかかわらず、肩が痛んで、肩関節の可動域、つまり動かせる範囲が狭まった状態だ。
江戸時代から報告があり、「女性の場合、髪を結ったり帯を結んだりすることができなくなる病気として知られた」と日本医科大学千葉北総病院整形外科の橋口宏部長は話す。
原因はいまだ不明だが、「女性の場合、ヒステリーが背景にある人がいる」と橋口部長。ヒステリーというと、怒りを爆発させる場面を思い浮かべるかもしれないが、この場合はむしろ逆。抑え込んだ怒りや不満が体の痛みとして表現されたもの。本人は落ち込んでいて笑顔がないという。また、冷えやほてりなどの更年期不調を併せ持つ女性も少なくないようだ。

放置すると痛みが数年続くことも

基本的には自然に治る良性の病気だが「放置すると数年にわたり症状が続くリスクがある。肩が痛むほかの病気と区別するためにも、まずは整形外科を受診してほしい」と橋口部長は薦める。
症状は通常、肩の痛みから始まる。「後ろの物や高いところの物を取ろうとして肩を大きく動かしたとき、痛みに気づく人が多い。そのうち徐々に痛みが強くなり、じっとしていても痛い、夜、痛みで目が覚めるという状態になる」と東北大学病院リハビリテーション部の理学療法士、村木孝行さんは話す。
痛みは肩関節を包む袋状の組織である関節包の炎症が引き起こすと考えられている。炎症はやがて治まるが、関節包は線維化して厚くなり、柔軟性を失う。その結果、肩関節が硬くなり(拘縮、こうしゅく)、すべての方向への可動域が狭まる。「視界の範囲には、たいてい手が届くので生活はそれほど困らないが、腕は頭の上まで挙げられなくなり、体の外側や背中側にも回せなくなる」と橋口部長。

早く治すコツは、炎症をできるだけ早く鎮める、拘縮をストレッチで改善する――という2つ。「セルフケアをしっかりやれば、数カ月で良くなることが多い」(橋口部長)。治れば、同じ側に再発することはまずないという。セルフケアの手法については次回以降に紹介する。
30代なら「「弛緩肩」の可能性
四十肩・五十肩にはまだ早い30代で肩が痛くなったら「弛緩肩」の可能性がある。「もともと関節に軟らかさ、ゆるさがあるために、物を持った拍子などに肩関節が前後にずれ、肩が抜けたような感じになって痛む」と橋口部長。四十肩・五十肩と思い込み、抗炎症薬をのんでも治らず発見される場合が多いという。
「弛緩肩」には、主に肩甲骨を動かす運動が指導される。「ゆるい肩の人は普段あまり肩甲骨を使っていない。それが動かせるようになると、すぐに肩関節のストレスが減って痛みがなくなる。はずれにくくなる効果も」と村木さん。腕はある程度挙がるのに肩が痛いという人は「弛緩肩」の可能性があるので、整形外科へ。

この人たちに聞きました

日本医科大学千葉北総病院整形外科部長。専門は肩・肘関節外科、スポーツ医学。「重要なのは診断。五十肩が長引く人の中には腱板断裂などの病気が隠れている場合がある。まずは整形外科を受診してほしい」

東北大学病院リハビリテーション部理学療法士。専門は肩関節疾患、肩の運動学。「肩を大きく動かすためには体幹の柔軟性も必要なので、体をねじったり、わきを伸ばすストレッチも薦めている」

愛知医科大学医学部学際的痛みセンター准教授。麻酔科医。専門は慢性疼痛、がん性疼痛、漢方治療。「漢方薬は西洋薬に劣らない効果がある。こじれた五十肩にも効果があるが、早めに使うことをお薦めしたい」
(ライター 小林真美子)
[日経ヘルス2015年9月号の記事を再構成]