2019年1月19日(土)

歴史社会学者・小熊英二氏「戦争は別世界でない」(戦争と私)
戦後70年インタビュー

2015/8/11 2:00
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戦争の記憶が遠ざかるなかで、将来を担う若い世代は過去の戦争とどう向き合い、何を考えていくべきなのか。膨大な文献の分析から戦後ナショナリズムの実像を明らかにした「〈民主〉と〈愛国〉」など、新しいアプローチで戦後思想の研究に取り組む歴史社会学者の小熊英二さん(52)に聞いた。

――最近、父親の戦争体験をまとめた「生きて帰ってきた男」を出版しました。

小熊英二(おぐま・えいじ)氏 東京都生まれ。日本の戦後ナショナリズムについて研究した「〈民主〉と〈愛国〉」など著書多数。慶応大教授。52歳。

小熊英二(おぐま・えいじ)氏 東京都生まれ。日本の戦後ナショナリズムについて研究した「〈民主〉と〈愛国〉」など著書多数。慶応大教授。52歳。

「戦前、電気会社の事務員だった父は中国に出征し、戦後はシベリアの収容所に抑留された。子供の頃、食卓で『次いつ食べられるかわからないので食事はすぐ食べるんだ』『シベリア帰りだから好き嫌いはない』などと冗談めかして話していた。でも自分から積極的に戦時中のことを話すことはありませんでした」

「戦争というと、学徒出陣や特攻隊などインパクトがある出来事がクローズアップされることが多い。しかし中学を卒業して働いた父にとって、戦争は生活の一部でした。父のような人たちは語らないまま過ごすことが案外多いのだと思います。父から戦時中・終戦後の体験を聞いたのは、私が研究者として聞き取るようになってからです」

――体験者は減り、証言の記録が難しくなっていきます。

「過去の出来事を考えるとき、直接の記憶と向き合うことが大切です。一方で、戦争を記憶している人がいずれいなくなるのは避けられません」

――そのとき、記憶を受け継いでいくにはどのようにすればいいでしょうか。

「過去の戦争が社会に大きな影を指していた1950年代、60年代を生きた人たちの話を聞いて記録することです。歴史は連続しています。戦争とつながっていた時代を知ることも戦時下の人や社会を理解する重要な手段です」

「年月が経過し、戦時中の体験が美化され、ロマンチックに語られる傾向があることには懸念を抱かざるを得ません。最近、死んだおじいさんの戦争体験を描いたような作品が人気を呼んでいます。直接の聞き取りをせずに登場人物が過度に美化されている場合があり、これは健全とは言えません」

「戦争体験者と向き合えば、長い間人に言えずにいたような悲惨な戦闘の記憶を語ってくれることもあります。上官から理不尽な命令を受けた経験を聞けば、軍隊が決して英雄の集まりなどではなかったことが分かるはずです」

――戦争体験者から話を聞くときのポイントは。

「聴く側の想像力が大切です。10年前に父の証言を聞き取ったときは私の想像力が足りませんでした。『シベリアでは食料が不足していたか』程度の質問では詳細で具体的な記憶は引き出せない」

「新書をまとめるために改めて聞き取りをしたところ、父は旧ソ連が収容所をどのように運営していたか、実によく覚えていました。食糧の配給の仕方、収容者の待遇など、想像力を働かせながら場面を思い浮かべて聞いていくことが重要だと痛感しました」

――戦争に対する見方は時代とともに変化してきました。

「戦後しばらくは日本の為政者や権力者が、日本国民に被害を与えたという見方をする人も多かった。それが70年代に入り、戦後世代が増えて1億総中流と言われる社会構造が出来上がってくると、『日本は加害者なのか被害者なのか』という二元論が台頭してきます。階級意識が薄まり、為政者、権力者も一般国民も「日本」という枠でひとくくりにして、戦争を捉える考え方です」

「90年代以降、東アジアの国々の経済力が強まると、『日本による侵略の被害』を強調する動きが大きくなりました。一方、これに反論する形で、日本の戦争を一部肯定するような国内の議論も活発になり、二元論の傾向がよりはっきりしてきた」

「私はこうした二元論には否定的です。1人の人間が被害者にも加害者にもなりうる多面性こそが戦争の本質だからです。日本は加害者か、被害者かという単純な考え方は偏ったナショナリズムを生むことにつながっています」

――若い世代は戦争から何をどのように学ぶことができるでしょうか。

「戦争を別世界の出来事だと捉えないようにすることが大切だと思います。戦時中に生きていたら自分はどう行動したか、想像してみるといい」

「軍隊は組織であり、経営や命令系統がありました。その点は現代の企業や役所と変わりません。その組織が将兵を動かして戦争をした。例えば会社員なら所属する企業を軍隊に、自分を兵士に置き換えて考えてみる。そうすることで、軍隊や戦争を理解しやすくなるかも知れません」

(聞き手は社会部 横沢太郎)

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