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「社外取締役がCEOをボコボコに」 孫氏の企業統治

孫正義の焦燥(2)

日経ビジネスオンライン
ソフトバンクグループの孫正義社長は、早くから社外取締役を導入し、活用してきた。現在はファーストリテイリングの柳井正会長兼社長や日本電産の永守重信会長兼社長などが、かつては日本マクドナルドの藤田田元社長やオリックスの宮内義彦シニア・チェアマンなどがソフトバンクの社外取締役を務めた。同社の取締役会や役員会は「動物園」に例えられるほど議論が活発だ。柳井氏は「大体の案件に僕は反対ですよ」と話す。一方、日本の大企業には制度による圧力がかかりつつある。東京証券取引所は上場企業の経営規範を定めた「企業統治指針」の適用を始め、2人以上の社外取締役の選任を求めている。かつてシスコシステムズの社外取締役を務めたこともある孫社長に、取締役会のあり方や経営者育成について聞いた。
ソフトバンクグループの孫正義社長(写真:的野弘路)

――孫さんは経営を将棋に例えて話すことがあります。

将棋の王将の役割とさ、飛車とか角とか歩とかいろいろな駒があるじゃない。僕が思うには結局、バランスなんだよね。やっぱり子供のときは飛車が格好いいとか、角はすごいとか思う。

――王は少ししか動けないとか。

王様、卑怯だと、しょぼいなと、一つしか動けんじゃん、逃げ回ってばっかりやんとか(笑)。何か、常に部下の後ろに隠れている、汚いぞとか、何でもっと男らしく行かないんだと。潔くスパンと行けないんだ、じれったいとか思ったこともあるよね。何でそれなのに王様と偉そうな名前ついているんだと。

でもね、やっぱり少しずつ大人になってきて、なるほどなと、深いなと思ったのは、結局ね、飛車とか角はね、詰め寄られやすいんだよね。もう動く方向がわかっているもんね。

勇ましいんだけど。結局、天下、国家を押さえられる男じゃないだよね。ズバッと鮮やかな動きを見せたりするんだけど、やっぱりトータルバランスとしてちょっと足りないなと。それはね、しょせん飛車、角なのよ。勇ましくていいんだけど。

小さいながらも最初からの王様はしぶとい

――ユーザーの需要が、何か一つの特徴に収れんされる部分もありますよね。

ある種の一世を風靡するのはそれだと思う。でも、本当のナンバーワンになって勝ち続けていくためには、やっぱり最後はトータルバランスだと思うんだよね。

一時的には少なくともその何かとがった部分でバンと抜きん出て、シェア伸ばさなければいけない。でも、最後に本当の王様になろうと思ったら、やっぱりバランスよく保たなきゃいけない。

日本の大企業経営者の特徴として、営業は営業畑ばっかりでずっと来たとか、技術は技術畑だけでずっと来た人が、ある日突然ね、何人かいる役員、専務とか副社長の中から突然社長に任命されるというケースがある。

突然、王様の役割をしなきゃいけなくなる。それこそ営業についてやたら詳しいけど、残りは半人前だと。技術についてはやたら詳しいんだけど、ファイナンスがわかんないとか、そういういわゆるサラリーマン社長が多過ぎるんだよね。

小さいながらも最初から王様の役割を果たしてきた奴はしぶといのよ。創業社長が強いのは、小さいながらも知識の面も苦労して、営業も苦労して、技術も苦労してきたから。柳井さんとか、永守さんとかは、少々好景気不景気いろいろあってもしぶといじゃん。

少々あってもはい上がっていくじゃん。いよいよ今度こそだめだぞとか、もうフリース売れなくなったらだめだとか思っても、やっぱりしぶといじゃん。

それは小さいながらも最初から王様やって、資金繰りも苦労して、営業も苦労して、技術も苦労して、人事も苦労して、社員がやめていくなんていうのも体験している。

だから、結局バランスよくトータルでの王様としての役割をもう10年、20年、30年続けて、そのパワーバランスのままどんどん強くなっている。

ところが、大企業のサラリーマン社長というのは、そうでない場合が多いから。もう営業だけだったり、技術だけだったり、もう技術の面でガンと抜きん出て…。個人名を挙げると差し障りがあるから挙げにくいけど。

――大企業のサラリーマン社長でも、本流から外に出されて戻ってきた人というのはしぶといですよね。

(写真:的野弘路)

それはしぶといよね、鍛えられているからね。だけど案外、将来の社長とか目されてずっと大事にされてエリート路線できた奴はポキッともろかったりするんだよ。

かなり若いときから将来社長だって言われ、実際に社長になった人もいる。ある製品をバンとたたき上げてさ、もう華々しく成功させて、技術中心に自分のポジションつくり上げていったわけよね。ダーンと若くして社長まで上り詰めたけど、じゃあ、営業ということについてどうなんだと、資金繰りということについてどうなんだと、市場が劇変したときにどうなんだというと、別問題だよ。だから、折れるときはもうカクンと折れちゃうんだ。

それはもちろん本人一人のせいじゃないと思うよ。本当はその人の才覚にもっと若い段階で残りの才覚の部分を合わせて鍛えられていたら、もっと進歩があったと思うな。

だから子会社の社長をね、グループ会社の社長をやって、社長業を身につけていればよかったと思うけどね。

――孫さんはかつて、米シスコシステムズの社外取締役を務めていました。米国は若い頃から経営者になる人が多いですね。

そう、アメリカの場合は、もう30歳そこそこぐらいの若い時から社外取締役をするんだよね。一握りのエリートがいろいろな会社で経営を体験する。

だから、シリコンバレーなんかでもみんな社外取締役をお互い兼務しているんだ。セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ(CEO)がシスコシステムズの社外取締役していた。

この間、彼に会ったときも、「孫さん、あんたが抜けた後、俺がやったんだよ」とか言ってた。本当は少し間はあったけどね。僕が抜ける前後には、英ボーダフォンのアルン・サリン(元CEO)がシスコの社外取締役を務めていた。

オートデスク(のCEO)から米ヤフーのCEOになったキャロル・バーツもシスコの社外取締役をやっていた。だから、あの辺の連中と僕はシスコの社外取締役を務めた時からみんな顔見知りなんだ。ほんと狭い世界だよ。

そうやってお互いに若い段階から他流試合を重ねているんだよ。その限られたさ、いわゆる将来を嘱望されるような奴らは、こうやってぐるぐるお互いの社外取締役を兼務しているんだよね。

だから、本当は日本の大企業の社長も30歳そこそこでほかの会社の社外役員をいっぱい体験しなきゃいけない。アメリカの社外役員というのはさ、日本と違って訴えられるから。

――そうですね、株主から。

株主にしょっちゅう訴えられるから。そうするとね、10億(円、以下同)、20億は軽く吹っ飛ぶからね。

社外取締役といえども本当に経営者として、経営の意思決定に真剣に関わっているんだよ、めちゃくちゃ真剣に。むしろ社内からの取締役は2人か3人しか入っていない。社外取締役が8人、9人なんだよ。

CEOが一生懸命に説明して、CFO(最高財務責任者)も説明して、担当役員がテーマごとに出てきて説明をして、そこで社外取締役から、「ああだここだ」とボコボコに叩かれる。

もうね、ジョン・チェンバーズ(シスコCEO)なんかこうやって汗ぬぐいながら、一生懸命に説明、力説する。それで社外取締役の奴らは偉そうに、「うーん、納得いかん」とか言う(笑)。平気で「やり直し」とか言って、3分の1ぐらいの案件は突き返していた。

――日本では、そこまで厳しい取締役会は限られているかもしれません。

日本と全然違うよ。日本は社外取締役なんていうのは形式だけで、それはもう社長というか、社内から上がってきた起案で、まともに反対して潰そうなんていう話はほとんどないじゃない。

もうお家騒動ぐらいの感じで、しかも事前根回しでね。根回し、根回し、もうそれでそんなのほとんどしゃんしゃんという感じじゃない。

例えばシスコでは丸一日やるからね。前の日の夜に大体、役員と一緒のディナーがあって、この過去数カ月の状況をお互いにインフォーマルに食事しながら、雑談の中でいろいろやりとりをする。

翌日朝9時から大体5時まで丸一日かけて、ことごとくテーマごとにガンガン議論して、大体3分の1は流れる。もう否決か納得いかんということでもう一回突き返す。通るのは3分の2ぐらいだよ。

そのぐらい真剣勝負のガバナンスが働いているんだよ。社外取締役がもう真剣勝負で参加しているから、お互いがプロの経営者として鍛えられているんだよね。

取締役だけでなく執行役員も同じような形で鍛えられて、ベンチャースピリッツあふれる経営陣になっていくんだ。

(聞き手は、大西孝弘=日経エコロジー)

[日経ビジネスオンライン2015年6月30日の記事を再構成]

孫正義の焦燥 俺はまだ100分の1も成し遂げていない

著者:大西 孝弘
出版:日経BP社
価格:1,620円(税込み)

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