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「後継者には100億円を」 孫氏が語る世界の常識

孫正義の焦燥(1)

日経ビジネスオンライン
まるでプロスポーツのスター選手のようだ。165億5600万円――。ソフトバンクグループが6月19日に提出した有価証券報告書で、2014年度にニケシュ・アローラ氏に支払った報酬総額が明らかになった。同氏は孫正義社長から「最も重要な後継者候補」に指名され、同日の株主総会での承認を経て、代表取締役副社長に就任。孫社長は株主総会で「私の期待の星」と紹介した。この報酬総額は、世界的に見てもトップレベル。アローラ氏を迎える前、孫社長は筆者のインタビューで後継者と報酬について語っていた。このほど上梓した書籍『孫正義の焦燥』では触れていないインタビューを紹介する。
ソフトバンクグループの孫正義社長。米誌フォーブスによると2014年の資産は139億ドル(1兆6680億円)に達する(写真:的野弘路)

――経営者の高額報酬に対しては反発もあります。孫さんは経営者の報酬についてどのように考えていますか。

アメリカのゴールドラッシュの時に西海岸に命懸けでカーボーイがどんどん行ったというのは、結局のところ一攫千金だから。銭金のためにというのは浅ましいと思うかもしれないけれども、やっぱり何がしかの夢がないとさ、本当に命懸けで勝負するかよと。

インセンティブが大事なんだよね。ましてや、ちょっとしたインセンティブじゃね、これはあかんて。

それはね、日本がもう一回復活するのに、自分で創業して100億(円、以下同)、1000億の企業を仕切るだけの才覚を万人が持っているなら、それほどいいことはないんだけど。

これはもう本当にね、1万人に1人、10万人に1人、それこそ100万人に1人だよ。1億2000万人いてさ、100人もいないじゃないかな。

――創業して一代で売上高1000億円以上の会社をつくり上げている経営者は、100人もいないかもしれません。

ゼロから創業して1兆円に仕切った創業経営者ってさ、何人いるよ。100万人に1人もいないよ。

それを求めるのはね、なかなか難しいよ。でもね、そういう創業経営者に一緒に付いていって、付いていった10人のうちの1人になるのは、それは不可能じゃないんだよ。

――それでもリスクがありますからね。

おお、そこに懸けて付いていくだけでリスクなんだよ。

はっきりいって宮内(謙ソフトバンク社長)が1000万人に1人の才覚があるかというと、うーんまあまあね、と思うよ。

――日本能率協会を退職して孫さんに付いていきました。

そう。安泰だった仕事を辞めて、何か訳の分からない大風呂敷ばっかり広げている男にさ、まして年下のところにね、『はい』と言って付いていくというのは、大変なリスクだよ。

だから、僕は宮内には少なくとも彼が引退するころまでには100億ぐらいはやらなきゃいかんと思っているんだよ。うん。本当に。僕の後継者になる男にも、100億ぐらいはやらないといかんと思っているんだよ。

やっぱり一握りの奴にはそのくらいのメリハリがないといかんと。そのかわり寝食忘れて、言い訳抜きで、それはもう突撃せないかんと。

日本の社会は、ばばーと復活する

何か訳の分からない何人かが経営者の周りで100億円もらっていたとする。そしたら、『おお、俺は1000万人に1人の男ではないけど、一緒に命張って付いていく』という気概の奴がぽこぽこ、ぽこぽこと幾つかの会社で生まれるよ。そしたら、日本の社会はばーっと復活する。

それぞれの業界で命懸けの奴らが生まれてくる。それが本当の活力なんだよ。

国から何か補助金もらったってぜんぜん成果が出ないやんか。あんなの税金の無駄遣いだよ。

それより民間が勝手に自力で野生の本能を取り戻す仕組みが大事だよ。そういうカルチャーが大事なんだよ。

小学校のゆとり教育とか言われるけど、サラリーマン社会もゆとり社会になっちゃったんだよ。横並びに横並びでみんな手をつないで落ちぶれると。

俺はもう金の対価という次元は終わっている

――やっぱり米アップル、韓国サムスン電子の社員たちは、すさまじく働くと聞きます。

すさまじく働くよ。日本を羊の集団から狼(おおかみ)の集団にしないといかんよ。

インタビューに答える孫氏(写真:的野弘路)

だから、そこで成功事例をつくれば、ロールモデルとして他も続いていく。「一握りの成功事例はいけない」と言っちゃいけないんだよ。

宝くじですら5億円とか8億円とかもらえるんだから、何の努力もしてないんだから(笑)

だけどさ、それより高い確率で努力の見合いがあると思ったらさ、やる気が出るぜ。

だから、まさに我々がそうやって攻めていって、いろいろなリスクを冒してでも攻めていくと。それはやっぱりそういうオーナー経営者、創業者としてのファイティングスピリッツだよね。それに一緒に付いていこうかというその山賊どもがさ、後ろにいるわけですよ。

俺はもう金の対価という次元ははっきり言って終わっているんだよ。どうせ使い切れないから。だけど、創業者としての事業意欲やスピリッツは別次元のものがあるんだよ。

――なぜその意欲が変わらないんですか。

それはやっぱり志がでかいからだよ。まだまだ到達にほど遠いと。99%は空の向こうだと思っているんだよ。

――それは10代の頃に作った人生50カ年計画から逆算していくと、まだ足りないということですか。

やっぱり足らない。世界で一番にならなきゃいけないと。しかもそのドメインがだんだん大きくなっている。しかも情報革命で人々を幸せにという理念があるから、それはもう果てしなく遠い志なんだよ。

鬼退治行くのにきび団子がないと

だけど、後ろについてくる奴にはさ、その果てしなく遠い立派な志もいいけど、でも、命懸けで鬼退治行くのに、きび団子の1つや2つ後ろにないとさ、行こうちゅう意欲も出ないやん(笑)

――そうですね。

付いてくるだけで100億だよと(笑)

――でっかいきび団子ですね。

自分で発明しなくてもいいと、一緒についてこいと。そのかわり命はないかもしらんと。付いてくるならあげましょう100億円と(笑)

そしたら、自分でつくり上げるだけの才覚なくたって、それじゃもう行こうかと。この際、突撃だと。城一つ、俺も欲しいと。それはうちは日本では珍しいかもしれない、シリコンバレーでは当たり前なんだよ。

日本の社会の物差しでいうと飛びはねた危険思想のおかしな奴と。日本の村社会の常識でいえばね。だけど、シリコンバレーでは常識の発想で、何で日本ではそれがないのと。どうやってそういう仕組みの中で命懸けで戦うのかと思う。

(聞き手は、大西孝弘=日経エコロジー)

[日経ビジネスオンライン2015年6月23日の記事を再構成]

孫正義の焦燥 俺はまだ100分の1も成し遂げていない

著者:大西 孝弘
出版:日経BP社
価格:1,620円(税込み)

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