2019年1月24日(木)

女優・堀絢子氏、被爆死の父思い「反戦」芝居(戦争と私)
戦後70年インタビュー

2015/8/7付
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被爆の惨禍を伝える一人芝居「朝ちゃん」を全国で演じ続けている女優の堀絢子さんに思いを聞いた。

――戦争や被爆の惨禍を伝える一人芝居「朝ちゃん」を演じ続けていますね。

「1989年夏の初演以来、これまでに『朝ちゃん』を240回以上演じてきた。物語は原爆投下翌日の広島が舞台。被爆した中学生の朝子が『母ちゃん、待っとうた。死にとうない』と息絶え絶えに話し、『あさこー』と泣き叫ぶ母の胸の中で亡くなる。劇中では道端で倒れている朝子を見つけた同級生の秋子と、朝子の兄、語りを含めて一人で5役を演じている」

堀絢子(ほり・じゅんこ)氏 満州(現中国東北部)の奉天(現瀋陽)生まれ。青山学院大卒。「新オバケのQ太郎」のオバQ、「忍者ハットリくん」のハットリくんなどの声を担当。一人芝居「朝ちゃん」の上演は26年を超える。73歳。

堀絢子(ほり・じゅんこ)氏 満州(現中国東北部)の奉天(現瀋陽)生まれ。青山学院大卒。「新オバケのQ太郎」のオバQ、「忍者ハットリくん」のハットリくんなどの声を担当。一人芝居「朝ちゃん」の上演は26年を超える。73歳。

「この芝居は山本真理子さんが被爆体験を基に書いた『広島の母たち』を基にしたものだ。この本を手にしたとき、命ぎりぎりの状態での親子の愛の話に『これしかない』と感じ、山本さんに許可をいただき、3カ月で一気に台本を書き上げた」

――「朝ちゃん」の制作にはどのような思いがあるのですか。

「芝居作りの背景には終戦の2カ月前に徴用され、40歳で広島で被爆して亡くなった父への思いがある。当時3歳の私には父の記憶はあまりなく、あっという間にいなくなってしまったという感じだった」

「父の最期については、母が泣きながらよく話をしてくれた。母の話を聞き、悲しむ姿を見るのはつらく、『生き残された私が何かしなければ』と強く思って育った」

――1945年8月6日に広島に原爆が投下されました。ご家族はどのような体験をされたのですか。

「父は山口県で開業医をしており、軍医として徴用され、爆心地から約1キロの旧陸軍第5師団で被爆した。原爆下の2週間後にようやく、父が広島県三次市の中学校の講堂にいるとわかり、母が駆けつけた。父は全身やけどで重傷だったが、母に傷を見せようとしなかったという。消毒や包帯で治るような状態ではないと医者の父にはわかっていたのかもしれない」

「父は母に会えた安心からか、翌日の明け方に亡くなった。最後の力を振り絞り、母に、私たち子への教育方針を語ったそうだ。大好物だからと母が持って行ったゆで卵を食べることすらできずに亡くなった。母は父を思い出しては泣き、おいしいものを食べれば『あの人に食べさせてやりたい』とよく言っていたものだ」

――「朝ちゃん」を通して何を訴えたいですか。

演技を通して「人間をモノのように扱う」戦争の悲惨さを訴える

演技を通して「人間をモノのように扱う」戦争の悲惨さを訴える

「戦争はまるで人間をモノのように扱う。私もセリフを覚えながら何度も泣いた。戦争の悲惨さ、命が簡単に消される恐ろしさを生の演技を通して想像を膨らませてほしい」

「戦争がもたらす悲惨さを伝える方法は教科書の説明や資料館の展示だけではない。もっといろんな角度から戦争を見てほしい。芝居は生の演技を通して、私も、見ている人も『朝ちゃん』の世界を共有できる。戦争を実体験できなくても演技や表情から、戦争では一体何が起こったのかというイメージを持つことができると思う」

「ただ芝居を見て考えるだけでなく、友人や家族と、戦争とは何か、命とは何か、私たちはどう生きるべきなのかを、面倒臭くても頭が痛くなるほど考え、話し合ってほしい。それが芝居を通しての私なりの提案だ」

――実際に「朝ちゃん」を見た方からはどのような反応がありましたか。

「小学生の男の子が最初は気だるそうにしていたが、芝居が始まると、知らない間に正座をして前のめりになって見ていた。その子は『授業などで戦争についてはたくさん学んだつもりだった。でも、悲惨さ、人が死ぬという悲しさを改めて知らされた』と言ってくれた。芝居だからこそ伝わる主人公のはらはらした表情や必死さがあり、想像の膨らませ方があると思う」

「芝居の後に『朝ちゃん』と泣きながら私を抱きしめてくれる母親世代の女性もいた。見ている人の心に届いているとわかるとやりがいもあり、私の芝居をきっかけに多くの人が戦争や命について考えてくれたらうれしい」

――被爆者や戦争体験者の高齢化が進み、風化が懸念されています。

「今の子供の親や祖父母の世代でも戦争を知らない人は増えてきている。戦争を『昔こんなことがあった』というような、まるで他人事のように思ってはいけないし、そう考える人が増えるのは恐ろしいことだ」

「今年は戦後70年の節目の年と言われているが、何年たとうと、いつも節目のときだ。もっと日常的に、戦争の悲惨さや、命や愛の大切さを考えてほしい」

――「朝ちゃん」を演じ続ける意気込みを教えてください。

「この作品は私の演者としての仕上げの作品。並々ならぬ熱い思いで演じている。反戦の思いを込めて、『千』の『半』分の500回公演が目標だ。いつどこからお声がかかってもいいように、500回の腹筋を毎朝欠かさず、髪形は、役に合わせたおかっぱのままだ。体力の続く限り迫力を持って演じたい。そして芝居を通して戦争の悲惨さ、命の尊さ、愛の大切さを繰り返し伝えていきたい」

(聞き手は大阪社会部、岡田江美)

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