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政治学者・姜尚中氏「日韓2つの『8月15日』に寄り添う」(戦争と私)

戦後70年インタビュー

在日韓国人2世で、平和問題などについて積極的に発言している政治学者、姜尚中氏(64)。両親が日本で体験した戦争と、戦後の日韓関係について聞いた。

――戦後生まれですが、父母から戦争の話は聞きましたか。

「東京に住んでいた両親は疎開先の愛知県一宮市で空襲により長男を亡くしています。焼夷(しょうい)弾が雨あられのようにふってくる恐怖感だけでなく、長男を亡くしたことが、親にとって戦争の最大のトラウマでした」

「母は一番上の長男の命日に欠かさず供養していました。幼い頃、長男の死を聞かされていなかった自分は、母が何をしているか分からず聞いたと記憶しています。我が家が本当は3人兄弟だったと聞かされたのは高校生の時。非常に驚いた。母も、もう高校生だからと思って打ち明けたのではないでしょうか」

「戦争の爪痕は、何十年たっても人のどこかに残る。戦争を始めるときは、そういうことを考えずに始めるのでしょう。だから戦争というのはすべきじゃない」

――日本はなぜ戦争を始めたとみていますか。

「日本が明治維新後、想像以上に近代化に成功したがゆえに、内側からかかるべきブレーキがかからなくなった。よく私はこれを『成功が蹉跌(さてつ)の原因になった』と言っています。歴史的に言えば、日清戦争で巨大な賠償金が出たということは非常に大きかった。だから、東アジアの中で、目覚ましいほどの近代化の成功をなし遂げ、戦争を避けるブレーキがかからなくなった」

「日本と戦争を考えた時に1905年が重要な年です。日露戦争に勝ったと言われているけれど、実質的にはこれ以上の戦争継続能力はなかった。にもかかわらず韓国を併合してしまった。(韓国を日本の保護国にした)同年の第2次日韓協約、韓国ではウルサ条約と呼ぶが、ここに踏み込むべきではなかった」

「韓国では伊藤博文のことが悪く言われていますが、韓国の併合に関しては必ずしも積極的ではなかった。あの時点では、日本の中も一枚岩ではなかったのでしょう。方向転換なり、少なくとも違う対応ができる可能性はあったわけだが、そうはなりませんでした」

――戦後をどう評価していますか。

「日本は沖縄を別にすれば、平和が戦後ずっと続いた。多くの日本国民は平和と繁栄、成長はほぼイコールで結びつくという非常に誇らしい歴史だったと思います。それはアジアの国々が正当に評価しなければならないことです。一方で、日本の周辺のアジアの国々では戦争が続いた。ある人はベトナム戦争が終わるまでを戦後30年戦争というが、硝煙のにおいが絶えませんでした」

「私は1950年に生まれました。その年に朝鮮戦争が起き、それは新しい戦争の始まりでした。日本にとどまっていた韓国人の私の父や母、そこから生まれてきた私のような存在にとって、父や母の国で起きた戦争は暗い影を落としました。日本にいる在日の人は直接的に戦争との関係を持たなかったけれども、父母の国は甚大な被害が出る戦争となりました」

「沖縄と在日の人々は、戦争の絶えないアジアと、どこかでつながっていました。戦後という歩みを実感する場合でも、普通の日本人とはおのずからニュアンスの違いがあります」

――1970年代初頭に初めて韓国に行ったそうですが、その時に感じたことは。

「強いカルチャーショックを受けました。実はそこで初めて、日本の平和は例外ではないかと気づきました。たぶん沖縄に、その時代に渡航すれば同じ考えを持ったのではないかと思います。自分の身は韓国との関係を持ちながら、非常に例外的な日本の平和の中で生まれて育ったことを考えるときに、心の中に、ある種の落差、あつれきがずっとありました」

「韓国は1997年に通貨危機を経験し、その後、急速に近代化していく中で、日本と同じような問題を抱えるようになりました。過当競争や高齢者の孤独など、かつてあった日本との経済的な格差とは違う問題が見えてきました」

「日本にとっては戦後、韓国にとっては解放の70年を迎えています。日韓で異なる2つの8月15日が寄り添うことは可能だとみています」

――平和を維持するために必要なことは何ですか。

「空気のようにすっている平和が、誰かによってつくられ、キープしていくために誰かの犠牲を伴っていることに気づかないといけない。日本の場合は米軍基地の負担がある沖縄、韓国の場合は徴兵制です。かつての戦争体験者の声を聴くことは重要ですが、今起きている出来事にも目を向けなければなりません」

(聞き手は社会部、辻征弥)

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