2019年5月21日(火)

流れるプールで魚と海中散歩、ハワイアンズが施設改修

2015/7/24付
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日経アーキテクチュア

2015年7月18日、常磐興産(福島県いわき市)が運営する温泉施設スパリゾートハワイアンズは、同施設内の流れるプールを改修し、アクアリウムと融合した流れるプール「フィッシュゴーランド」をオープンした。魚を眺めながら泳げるのが特徴で、海中散歩のような体験ができる。総工費は3億4000万円。前例の無い施設をつくることで、東日本大震災後に落ち込んだ来場者数の回復を狙う。

スパリゾートハワイアンズでは震災復興後も津波や原子力発電所の事故などに対する風評により、これまで主要な顧客層だった家族連れが震災前の8割程度まで落ち込んでいた。そこで2015年、施設の50周年を機に、子供達に一番人気だった流れるプールを改修。集客の目玉とした。

コンセプトは「南国の魚たちの海中散歩」。植栽が配置されていた中央の幅1mという細長いスペースを中心に、5つのアクアリウムを設置した。海中に見立てたプールを回遊しながら、どこに居ても熱帯魚やサメの泳ぐ水槽を眺めることができる。水族館のタッチプールなどとは異なる体験ができるのがうりだ。

フィッシュゴーランド全体を海底エリアから見る。水槽を覆う擬岩には様々なアートを施した(写真:日経アーキテクチュア)

フィッシュゴーランド全体を海底エリアから見る。水槽を覆う擬岩には様々なアートを施した(写真:日経アーキテクチュア)

流れるプールの中央に設置された水槽。水槽は5つあり、水量は計30.8トン。海水魚・淡水魚を合わせて35種類、1300匹の魚が泳ぐ(写真:日経アーキテクチュア)

流れるプールの中央に設置された水槽。水槽は5つあり、水量は計30.8トン。海水魚・淡水魚を合わせて35種類、1300匹の魚が泳ぐ(写真:日経アーキテクチュア)

■水槽デザインを何度も検討

プールにアクアリウムを設置するだけでなく、1周130mの中には起承転結のストーリー性を取り入れ、緩急をつけたのがユニークなポイントだ。

平面図。1周130mの中で、魚の種類や装飾により起承転結のストーリー性を演出した(資料:丹青社)

平面図。1周130mの中で、魚の種類や装飾により起承転結のストーリー性を演出した(資料:丹青社)

始まり(起)は水深60cmの浅瀬を表現したエリア。そこから少し進んで上部デッキ下の滝をくぐると水深は1mとなり、熱帯魚やサメが泳ぐ海中の世界となっている(承)。海中エリアには、魚が泳ぐ水槽の下をくぐる海中洞窟などの見どころも設けた。さらに海底火山をイメージした洞窟でクライマックスを迎え(転)、ウミガメの産卵シーンを再現した地上の楽園に帰ってくる(結)、という構成だ。

泳ぐ魚の種類から壁面アート、水槽を装飾する擬岩、天井照明に至るまで総合的につくり上げた。設計を担当した丹青社CS事業部デザイン統括部デザイン6部の那須野純一部長は、「プールと魚のいる水槽を明確に区切るのではなく、空間全体が海の世界だと感じられるよう、一体的にデザインした」と語る。

アクアリウムと流れるプールの融合には様々な苦心があった。例えば、水槽のデザインだ。魚そのものを引き立たせるため、水槽内はカラフルな装飾を避ける必要があった。だがこの施設の場合、水族館や博物館とは異なり、より強いエンターテインメント性が求められることから、空間にはある程度の派手さも必要だった。

そこで水槽内外でデザインの印象が乖離(かいり)しないよう、水槽を覆う擬岩のデザインや色合いについては何度も検討を重ねた。塗装は水槽内とのバランスを見ながら、ほぼ現地合わせで行ったという。

訪れた人が思わず知人などに話したくなるようなアートも随所に取り入れた。例えば擬岩の岩肌に刻まれたハワイ古代の象形文字、花火に見えるイソギンチャク、ウミガメの卵の中に交じったピンポン玉など、様々なモチーフが散りばめられている。

浅瀬エリア。地上の楽園をイメージしている。歩行者デッキの先(写真奥)が海中エリアとなり、プールの深さも変化する(写真:日経アーキテクチュア)

浅瀬エリア。地上の楽園をイメージしている。歩行者デッキの先(写真奥)が海中エリアとなり、プールの深さも変化する(写真:日経アーキテクチュア)

海中エリアの水槽には、サメが泳いでいる。天井材には特注色の強度が高い波板(バンポーライト波板)を使い、ハワイ洋上の空を表現した。写真は取材時のもの(写真:日経アーキテクチュア)

海中エリアの水槽には、サメが泳いでいる。天井材には特注色の強度が高い波板(バンポーライト波板)を使い、ハワイ洋上の空を表現した。写真は取材時のもの(写真:日経アーキテクチュア)

海底エリアに設置された洞窟状の水槽。魚が泳ぐ水槽を下から見上げる。クラゲのペイントや青いライトで幻想的な雰囲気を出した(写真:日経アーキテクチュア)

海底エリアに設置された洞窟状の水槽。魚が泳ぐ水槽を下から見上げる。クラゲのペイントや青いライトで幻想的な雰囲気を出した(写真:日経アーキテクチュア)

飼育水槽を上から見る。アクリル板の蓋は臭気対策になるほか、塩素を含むプールの水が水槽に入ることも防いでいる(写真:日経アーキテクチュア)

飼育水槽を上から見る。アクリル板の蓋は臭気対策になるほか、塩素を含むプールの水が水槽に入ることも防いでいる(写真:日経アーキテクチュア)

■既存プールの隙間を活用

施工の面では、既存のプールの中にいかに水槽を配置するかが難題だった。通常、水族館などの大規模なアクアリウムでは、魚を飼育する水槽と同等以上の広さのバックヤードが必要となる。フィッシュゴーランドでは、水槽の下に循環ろ過水槽などの必要最低限の設備を置き、その他の必要な設備はプールの外に設置する形をとった。

具体的にはこうだ。まず飼育水槽は振れ止め付きの鉄骨フレーム台に設置した。地震の際に水槽が倒れるのを防ぐほか、内側が空いているため、人がかがんで通るメンテナンススペースとして活用できる。さらに、プールのオーバーフローを受け止める溝の下にあった空間には、飼育水槽ごとに循環ろ過装置を設置。水槽の間には、スペースを無駄にすることなく給排水管をまとめた。飼育水槽の無い空間には、魚を環境に慣らすための準備水槽も納めている。

プール施設内外で水を受け渡す給排水ダクトの配管にも、工夫が必要だった。既存プールは成形プレストレストコンクリート構造であり、配管のために穴を開けることで内部のケーブルが切れ、プールが崩壊してしまう恐れがあった。そこでダクトはプール上部を横断するデッキの下を通して回避。さらに、擬岩で覆うことで露出を避けた。

水槽の短手断面。水槽は厚さ約10cmのガラス製。水槽の土台となる鉄骨フレームには振れ止めをつけ、地震の際に水槽が倒れないようにしている(資料:丹青社)

水槽の短手断面。水槽は厚さ約10cmのガラス製。水槽の土台となる鉄骨フレームには振れ止めをつけ、地震の際に水槽が倒れないようにしている(資料:丹青社)

■二重ろ過システムを備える

バックヤードの設備スペースは様々な事態に対応したつくりとなっている。その1つが二重ろ過システムだ。

プール施設内のろ過水槽は開放式だ。そのため、プールのメンテナンスや塗装工事などの際、塗装の臭いが水にうつることで魚の健康に悪影響を与える可能性がある。そこで、プール外に密閉式のろ過装置を設置した。

普段はプール施設内外のろ過装置を両方使って効率的にろ過を行っているが、工事の際は、プール施設内のろ過装置を停止させ、施設外のろ過装置のみで対応する。魚を飼育し始めた際も、2つのろ過装置を活用した。まず施設外のろ過装置のみを動かして試験魚を入れ、健康状態に問題が無いことを確認してから少しずつ魚を増やしていった。

プール施設外にはろ過装置のほか、人工海水製造用水槽や水温調節設備も設置した。特に、高温多湿なプール環境の中で、魚が死なないよう水温を保つシステムは非常に重要だ。施設のホテルから引いた非常電源により、停電時も水温調節が可能とした。那須野部長は、「プールと一体化した環境で魚を育てる試み自体が初めて。様々なリスクを考慮した」と語る。

(日経アーキテクチュア 橋本かをり )

[ケンプラッツ 2015年7月24日掲載]

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