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冥王星を間近で観察 自宅のパソコンで「宇宙旅行」

ジャーナリスト 新 清士

 国立天文台(東京都三鷹市)が開発・公開中の天体シミュレーターソフト「Mitaka(ミタカ)」をご存じだろうか。最新バージョンをパソコンにインストールすれば、米探査機ニュー・ホライズンズが7月14日に冥王星に接近した軌跡も、実際のデータに基づいて見ることができる。市販の周辺機器を組み合わせれば宇宙の変化を3D立体視できるなど、無料とは思えないクオリティーの高さだ。開発担当者に最新版の特徴と楽しみ方を聞いた。

ミタカは、実際に観測したデータに基づく映像を簡単な操作で閲覧できるパソコン向け天体シミュレーターソフト。2003年に最初のバージョンを公開してから、10年以上にわたって継続的にアップデートしてきた。国の予算で開発しているため、無償で利用できる。これまでに80万回もダウンロードされ、天文ファンや教育関係者などが利用してきた。

太陽系の大きさを実感

ミタカを使えば、地球や月、太陽系全体、太陽系の周辺の恒星、そして全銀河の成り立ちまで、現在観測されている137億年におよぶ宇宙の歴史をパソコンのモニター上で自由に見てまわれる。

特筆すべきが「宇宙空間」モードだ。地球上から天体を眺める「プラネタリウム」モードとは別に、あたかも宇宙船に乗って惑星や恒星に近づいて星々の様子を眺められる。各国の探査機が詳しく調べている月や火星などの場所については、地表の凹凸をまで再現可能だ。例えば、NASAのデータが使われている火星に近づいてみると、エベレストの3倍の標高2万7000メートルにおよぶ太陽系で最大の火山、オリンポス山の巨大さを実感できる。

最新バージョンでは、米探査機ニュー・ホライズンズが7月14日に冥王星に接近通過する様子も体験可能だ。表示される軌道を見ると、06年に打ち上げられた後、07年に木星に最接近して、その重力を利用して加速し、一直線に冥王星を目指しているのがわかる。

ミタカの開発を続けている天文シミュレーションプロジェクトの専門研究職員である加藤恒彦氏によると、現在のミタカは想像図で冥王星を描写しているが、NASAがニュー・ホライズンズの観測データを公開したあかつきには、実測データで描写した冥王星を閲覧できるようになるという。

冥王星は、06年に、惑星から準惑星に定義し直された。その要因となったのが、03年以降に見つかったエリスや、マケマケ、ハウメアといった冥王星とあまりサイズが変わらない太陽系の外縁に存在する天体群の存在だ。ミタカでは、こうした太陽系外の星々の軌道も閲覧できる。

VR対応でリアルに観察

太陽系を離れて、何光年も先にある天体をミタカでみても興味は尽きない。地球から444光年の距離にある「プレアデス星団」は、できてから6000万年から1億年という比較的若い数十個からなる星の集団と考えられている。地球からは密集して見えるため、「昴(すばる)」と呼ばれたりして様々な伝説を産み出してきた。

ところが、ミタカで、プレアデス星団に近づいて観測すると、それぞれの星々は、とても密集とは言いがたい数光年も離れていることがわかる。ミタカは、バーチャルリアリティ(VR)ゴーグルの「オキュラスリフトDK2」に対応しており、VRデバイスでを眺めると、その違いが顕著に感じられた。実際の星々の座標データを元に表示しているため、宇宙船でプレアデス星団の近くまで行っているかのように「観察」できるのだ。

「天文学は、写真のような2次元の図鑑で全体像を把握することは非常に難しい」。ミタカの開発に長く関わり、現在はチリにあるアルマ天文台の広報を担当している額谷宙彦氏は、そう指摘する。ミタカを使い、宇宙船に乗り現地までいって観測する疑似体験をすることで、理解の度合が大幅に変わってくる。「かつて、地球儀を見ることで地球の全体像を想像していた時代があったように、ミタカを使えば行くことができない宇宙への想像力を広げることができる」(額谷氏)。ミタカは、「21世紀の天球儀」というわけだ。

最先端の天文学研究に生かせるか

ミタカは、01年に「4次元デジタル宇宙プロジェクト」としてスタートした。137億年におよぶ宇宙の歴史を可視化することで、天文学の最新の成果をわかりやすく科学的に正しい映像表現で一般の人に伝えることと、天文学者に3次元の視点を提供し研究に役立ててもうらうことの2つを目的として開発が始まった。前者の目的は実現できたが、後者の研究活用はほとんど進んでいないのが実情だ。「最新の研究と、ミタカで実現できることの差があまりにも大きすぎる」(加藤氏)ためだ。

加藤氏が研究している宇宙物理学では、世界トップクラスの計算能力を備えるスーパーコンピュータ「京」を利用している。しかし、より精度の高いシミュレーションを行うには、京の計算能力の数万倍を必要とするという。一方、ミタカのような一般向けに公開するソフトは、正確な天文データに基づいているとはいえ、市販のパソコンで動作することを念頭に開発しているため、かなり単純化している。このギャップは縮まっていない。

ただ、前述の額谷氏は、やがて加藤氏が行っているような最先端分野の研究でも、ミタカのような天文シミュレーターが活躍する時期が来るとみている。特に、「VRゴーグルの登場は、今後の天文学を大きく変える」と予測する。今後、VRゴーグルの解像度が上がり、映像がより滑らかに表現できるようになれば、「シミュレーションの計算結果を観察するためのデバイスとして積極的に使われることになるだろう」(額谷氏)。

ミタカは、今後もバージョンアップが続く。15年10月をめどに、要望の多い外国語対応や気軽に宇宙旅行気分を味わえるガイドツアー機能を盛り込む予定という。ミタカを通じて、宇宙に想像力を馳せる機会は、ますます増えていくだろう。

新 清士(しん・きよし) 1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師、立命館大学映像学部非常勤講師も務める。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」、「『侍』はこうして作られた」がある。

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