自動運転ロボや顔認証キー…「変なホテル」はIT見本市
"ロボットホテル"探訪記(下)

「変なホテル」のフロントの付近には、館内を案内するコンシェルジュロボットが座っている(写真1)。近づいて「こんにちは」と話しかけてみると、「僕が館内を案内するよ。何が知りたいの?チェックイン?チェックアウト?朝食?それ以外?」と友達のような口調で語りかけてくる。フロントロボットが敬語を使うのとは対照的だが、ロボットが相手だからなのだろうか、それも憎めない。
「朝食はどこで食べるの?」と聞いてみると、食堂の場所と営業時間を教えてくれた。その後は、「他に知りたいことはある?ない?」と尋ねられる。「ない」と言うと、ロボットは「それじゃあ、またねー」でおしまい。
安全を重視したポーターロボット
コンシェルジュロボットの奥手には、荷物を客室まで運ぶ機能を備えたポーターロボットが待機している。ポーターロボットの形状は、タイヤの付いた荷台だ。そこに、自分の荷物を載せる(写真2)。その後、背面のタッチパネルに部屋番号を入力すると、動き出す。


その後をついて行く。退屈しないように、との配慮なのだろう。ロボットが動き出すと、タッチパネルにハウステンボスの見どころなどを紹介するCM動画が映し出された。
無意識に歩いていると、いきなりロボットが停止した。その理由は、ロボットとの距離にあった。ポーターロボットと離れすぎると止まる仕組みになっている。ロボットの前や横を歩いたりするのもNGである。ポーターロボットの使用上の注意書きがあったのを見逃していた。
少々早歩きの記者にとって、ポーターロボットの進む速度は遅く感じた。ただし安全性を考えてのことなのだろう。ロボットに案内されることは初めてのことなので、特にいらつくことはなく、宿泊する部屋へと向かった(写真3)。
ポーターロボットの案内で、宿泊する部屋に到着した(写真4)。ポーターロボットから荷物を取り出し、ボタンを押す。任務を終えたポーターロボットはそのまま廊下を直進し、比較的広いスペースに出たところでUターンし、ロビーへと戻っていった。
ポーターロボットを見送り、客室のドアの前に立つ。ドアの横には、カメラと非接触式ICカードキーの読み取り装置が設置してある(写真5)。顔認証システム用の装置である。チェックイン時に顔画像を登録済みなので、早速、顔認証で解錠してみようと試みる。


ところが、カメラの下にある表示部分には「REJECT」が点灯。うまくいかない。カードキーを読み取り部分にかざすと解錠できた。
それにしても、なぜ顔認証システムが正常に動作しなかったのだろうか。疑問に思い、もう一度、説明書を読み返した。「顔画像データの登録時は、カメラから50センチメートル以上離れてください」という内容が書かれている。フロントで自分の顔画像を登録する際、カメラを覗きこんだことを思い出した。顔写真が撮影される、ということを意識しすぎて、カメラに近づきすぎていたようだ。
「再びフロントに戻って顔画像データを登録し直さなければならないのだろうか」と面倒に思っていると、対処策があった。カードキーを持っていれば、まさに目の前(客室のドアの横にある)のカメラで顔画像データを再登録できるようになっていた。
カードキーを読み取り部分にかざしながら、今度は50センチメートル以上離れて撮影。すると、顔画像データの再登録が完了した。今度こそ大丈夫だろう。改めて顔をカメラに向けると、「ACCEPT」が表示され、解錠された(写真6)。部屋に入る。

室内には案内ロボ「ちゅーりー」
「こんにちは」。声の主は、ベッドのサイドテーブルの上に置かれた小型の案内ロボットだ。ハウステンボスのマスコットキャラクター「ちゅーりー」である(写真7)。
ちゅーりーに話しかけると、現在の時刻や室内の温度、今日の天気、明日の天気を聞くことができる。指示すると、部屋の明かりを点灯したり消灯したりすることができる。目覚まし時計の時刻設定も可能だ。

「ちゅーりーちゃん、今何時?」。ちゅーりーから2メートルほど離れた場所から、人に話すのと同じように自然体で質問してみる。すると反応がない。
マニュアルに目を通してみると、ちゅーりーとの会話にはちょっとしたコツがあることが分かった。最初に「ちゅーりーちゃん!」と呼びかけ、ちゅーりーが「何でしょうか?」と返事をしない限り、時間を聞いたり、照明を操作したりすることはできないようになっている。
もう一度トライ。「ちゅーりーちゃん」と話しかける。「何でしょうか?」との答えがあったので、「今、何時?」とたずねた。すると「今の時刻は16時36分です」と答えた。続けて、「明日の天気は?」と聞いた。
すると数秒間、回答がない。もう一度「明日の天気は?」と聞くと、ちゅーりーが「明日の長崎の天気をお知らせします。明日16日、長崎県北部の天気は曇のち時々雨らしいですよ」と答えた。
室内の照明の操作や目覚まし時計の設定もしてみたところ、正常に動作した。十分、実用的だと感じた。せっかちな人なら、そのやり取りに少々いらつくかもしれないが、ちゅーりーの見た目や声色はかわいらしく、何だか憎めない。最後に「ありがとう」と話しかけると、「お安いご用ですよ」との返事。ここはビジネスホテルではないのだから、その点はご愛嬌ということだろうか。
ちゅーりーの横には、タブレット端末も装備されている。タブレット端末によるペーパーレス化で、ホテルの施設や設備、サービスの内容を閲覧できる(写真8)。さらにタブレット端末を使って、館内電話をかけたり、照明を調整したりすることも可能だ。

ドローンを活用する予定も
変なホテルのコンセプトは「変わり続けることを約束するホテル」だ。既に配備されているロボットのほか、これからも新たな技術を次々に取り入れ、快適性と生産性を高めていく。
将来的にはルームサービスなどでドローン(小型無人飛行機)を活用する計画である(写真9)。ドローンに、小型の自動走行車が取り付けられており、ドローンが着陸したときに自動走行車部分が切り離され、小型の荷物を届ける仕組みである(写真10)。


ハウステンボスは、変なホテルの第二弾の建設も進めている。7月17日に開業した第1期棟に加え、2016年前半には第2期棟(72室)もオープン予定だ。さらに、グループのリゾート施設「ラグーナテンボス」でも、変なホテルを改良・進化させたホテルを建設する計画だという。
ハウステンボスの澤田秀雄社長は「ローコストエアラインの次はローコストホテルの時代が来る」と言い切る。変なホテルでの体験は、そうした近未来を予想させるものだった。
(日経コンピュータ兼日経ITイノベーターズ 矢口竜太郎)
[ITpro 2015年7月22日と同23日付の記事を再構成]