2019年1月17日(木)

ジョホールバル 空白の大地はフロンティアの匂い
シンガポール=編集委員 太田泰彦

(3/3ページ)
2015/7/26付
保存
共有
印刷
その他

日本人だけをみても、ジョホールバルに集まってくる人々は多彩だ。三井物産のような大企業の人材も来ているが、自分の夢を求めてこの土地にたどり着いたという若者も少なくない。

取材で出会ったある青年は自称「海外ノマド(遊牧民)」。「英語もまったくできず、一文無し同然の状態でやって来て、ここで仕事を立ち上げた」という。IT企業に勤めていたが、リーマン・ショックの影響で職を失い、やがて日本を飛び出した。日本への情報発信や視察者の案内、地元企業との交渉代行、旅行や配車の手配など、いわゆる「何でも屋」のようなサービス業である。

■放浪者も暮らす懐の深い街

マレーシア経済は大きく発展する可能性を秘めている(クアラルンプールのペトロナスツインタワー=後方)

マレーシア経済は大きく発展する可能性を秘めている(クアラルンプールのペトロナスツインタワー=後方)

ひょろっと背が高く、シャイで人見知りしそうなおとなしい人柄で、冒険家や開拓者にはとても見えない。ところが「僕は青という色が大好きなんです」と、青色について語り始めると目を輝かせて話が止まらない。青い財布と出会ったことがきっかけで、自分らしく生きる道に目覚めたのだという。服も小物もパソコンも、すべてブルーでそろえている。日本では組織から押し出されてしまいそうな、こんな個性的な若者が、生きいきと暮らせる町。それがマレーシア、とりわけジョホールバルの魅力かもしれない。

生活コストが低いことは、フロンティアの条件だろう。懐がさみしくても、なんとか暮らしが成り立つからこそ、「自分探し」や放浪の旅の目的地になりうる。お隣のシンガポールは清潔で治安もよく町並みは整然としているが、住んでいる日本人といえば企業派遣のサラリーマンの姿ばかりが目立つ。「ノマド」はシンガポールでは暮らせないのだ。

シンガポール人は、お隣の新興都市ジョホールバルをどう見ているか。職場の同僚や知人に尋ねると、治安が悪くて怖い場所だと思っている人が多いことがわかった。車で30分ほどの距離で、そのまま国境を越えて走れるのだが、「安心できない」と、なかなか行きたがらない人も多い。路上に駐車すると車内が荒らされ、路地裏などでスリやかっぱらいに遭遇することを恐れているのだ。「無法地帯」のイメージが根強く残っている。

イスカンダル計画は成功するだろうか――。政府主導の国家プロジェクトであるだけに、開発企業の腕前だけでなく、混迷が続くマレーシアの政治情勢にも依存する。一貫して計画を支援してきたシンガポール政府の方針も、計画の行方を大きく左右するだろう。

だが一つだけ言えるのは、これまでの東南アジア諸国にはなかった新しい何かの誕生を予感させる、ザワザワした空気が、ここジョホールバルに流れているということだ。秩序とはほど遠く、多様で、乱暴で、得体の知れないエネルギーに満ちた開拓地。不敵な笑みを浮かべた日本人に、何人もここで出会えたのは、政府による秩序を誇る管理国家シンガポールから訪ねた私にとって、うれしい誤算だった。

  • 前へ
  • 1
  • 2
  • 3

日経電子版が2月末まで無料!いつでもキャンセルOK!
お申し込みは1/31まで

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報