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漫画家・かわぐちかいじ氏 「敗戦の目線」リアルに(戦争と私)

戦後70年インタビュー

戦争に対して抱く、恐怖と興味――。漫画「ジパング」や「沈黙の艦隊」で太平洋戦争や近未来の核戦争の危機を描き、大きな反響を呼んできた人気漫画家、かわぐちかいじ氏(67)に作品に込めた思いを聞いた。

――戦後に生まれ、戦争にどんな思いを抱いてきたましたか。

「怖さと興味という二律背反の複雑な感覚を子供の頃から持っていました。海軍で掃海艇に乗っていた父親から戦前の話をよく伝え聞きました。軍部が政治を牛耳る過程や、熱狂的に戦争に突入していく感覚はすごく怖かったです。当時の話を聞けば聞くほど、『僕らの世代は、こんなバカな戦争を絶対してはならない』との思いを強くしてきました」

 広島県尾道市生まれ。明治大在学中にデビューし、「沈黙の艦隊」で90年に講談社漫画賞を受賞した。現在は週刊モーニングで「ジパング 深蒼海流」を連載中。67歳。

「一方で、中学校に入る頃にはプラモデルに夢中になり、兵器や戦争にも興味を持っていました。戦闘機、爆撃機、軍艦を自分で組み立てながら妄想をかき立てる作業は、後の漫画にもつながりました」

「戦争にひた走る感覚を怖がりつつ、戦争や兵器にすごく興味がある。僕らの世代にはそういう男の子が多かったような気がします」

――2000年から9年余りにわたって連載した「ジパング」は、海上自衛隊の最新鋭のイージス艦が太平洋戦争中にタイムスリップする設定。どんな狙いだったのですか。

「明確なメッセージを伝えるとか、戦争を批判しようというより、近代兵器のイージス艦が戦時中に現れたらどうなるか、現代の自衛官が海軍の軍人らと出会ったらどうなるのかを描いてみたかった。命懸けで生きる人のたたずまいに対する憧れもありましたね」

「兵器の発達などによって、日本の自衛隊は専守防衛を守り抜くことが難しくなっている。戦後生まれの自衛官の感覚と、戦争に直面している軍人の感覚をぶつけ合うことで、現代の自衛隊のあり方を問いかけました。海自の隊員らが山本五十六らと出会う場面などは、自分が彼らと直接会話を交わしているようで楽しかったです」

――作品は戦局が悪化していく時期を取り上げています。

「なぜ日本が戦争に負けたのか検証してみようという気持ちもありました。連載を通じて感じたのは、自国の兵隊の命に対する日米の考え方、メンタリティーの違いでした」

「米軍戦闘機グラマンF6Fヘルキャットはパイロットを守る装備に優れていたが、日本の零戦は機動力を重視して防御が整っていませんでした。総力戦になれば、人命を尊重する方が勝つ。科学技術を総動員し、人を育てるための効率を考えた米国に対し、日本の精神主義は通用しませんでした」

「命をおろそかにした日本は多くの優秀な人材を犠牲にし、戦後大きな財産になるはずの人たちを失ったと思います」

「実際は敗戦なのに、日本人が軍部から解放されて自由になった『終戦』と言い換えることで見えなくなるものがある」と指摘する

――「沈黙の艦隊」は日本の原子力潜水艦が独立を宣言し、核廃絶を目指して米国などと対峙するストーリーで大きな反響を呼びました。

「1988年に連載をスタートしたので、ちょうど東西冷戦が崩壊する時期と重なりました。米国一極支配となり、『そのまま米国の傘の下にいていいのか』『自立する道はないのか』と日本人が考え始めた時期で、日本全体に敗戦のストレスがたまっていました。『もう一回米国と戦争をしたら、どうなるの?』という思いを疑似的に作品に重ねた人が多かったかもしれません」

――戦後70年を迎えて思うことは。

「『戦後70年』ではなく、『敗戦後70年』と言った方が良い。実際は敗戦なのに、日本人が軍部から解放されて自由になった『終戦』と言い換えることで見えなくなるものがある。いまも敗戦を引きずっている日本社会や日米関係をリアルに捉え直すため、敗戦後70年という目線を持ち続けるべきだと思います」

――若い世代に対しては。

「僕ら団塊の世代も今の20~30代も、実際に戦争を経験していない点では同じです。ただ、僕らは戦争を経験した親世代が発した戦争の空気を体感しており、それを恐れる感覚がある。戦争を止められなかった全体主義への怖さもある。若い世代には、その感覚がないと思います」

「いざ戦争が始まると止められなかったように、今の若者のメンタリティーの中にも、政府にNOと言えない感覚はあると思います。その感覚を見つめる意味でも、若い世代には『敗戦』を繰り返し自分のなかで捉え直してほしいです」

(聞き手は社会部 茂木祐輔)

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