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形状もユニーク、世界初「3Dプリンター橋」実現へ

建設ITジャーナリスト 家入龍太

ケンプラッツ
オランダで3Dプリンターによる鋼橋(主要部材に鋼鉄を用いた橋)架設プロジェクトが進行中だ。産業用ロボットに溶接機を取り付けたような3Dプリンターを開発し、鋼材を使って大きな部材を造形できるようにする。橋の形も、鋼板やH形鋼などを使った従来のものとは違い、生物をイメージさせるものになるかもしれない。

オランダの首都・アムステルダムで、3Dプリンターを使って実物の鋼橋を架設しようというプロジェクトが進んでいる。使用する3Dプリンターは、産業用ロボットのアームに溶接機を取り付けたようなタイプになる模様だ。2015年9月にはプロジェクトの経緯が公開され、その後、具体的な建設地点も明らかになる予定だ。

3Dプリンターで鋼橋を架ける現場のイメージ(資料:Joris Laarman for MX3D)

このプロジェクトを進めているのは、オランダのMX3Dという企業である。同社のほか、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の大手ソフトベンダーである米オートデスクや、オランダの建設会社・ハイジマンズ(Heijimans)、重電メーカーのドイツABB、オランダのデルフト工科大学など十数の企業や学校、自治体が協賛している。

建設業界で建築模型などの作成に使われている3Dプリンターは、大きな冷蔵庫のような外観をしているタイプが一般的だ。その中で、縦、横、高さがそれぞれ数十センチメートルの物体を合成樹脂や石こうなどによって造形する。

このタイプの3Dプリンターは、機械本体内部の造形スペースより大きなものはつくれない。これに対して、鋼橋を架設するのに使われる3Dプリンターは、X、Y、Z方向に移動と回転ができる6軸のアームを持った産業用ロボットに、溶接機を取り付けたような形をしている。つまり、アームの届く範囲が造形スペースとなる。3Dプリンター自体が移動できるようにすれば、造形スペースに限りはない。

MX3Dが開発中の3Dプリンターはまるで産業用ロボットのような形をしている(写真:MX3D/Adriaan de Groot)

空中に3次元の線を描く3Dプリンター

同社がYouTubeで公開している動画によると、開発はまず、空中にスチール材料を使って曲線状の部材を造形することから始まったようだ。最初のうちは造形物が途中で折れてしまったり、溶接機が爆発してしまったりというトラブルもあったという。

しかし、試行錯誤を繰り返すうちに、少しずつ複雑なオブジェなどもつくれるようになった。

金属で空中に曲線を造形する3Dプリンター(写真:MX3D)
かなり複雑なオブジェもつくれるようになってきた(写真:MX3D)

人がミニ鋼橋をわたる動画に注目

この3Dプリンターによる鋼橋架設プロジェクトが注目を集めたのは、2015年6月11日にMX3DがYouTube上に「MX3Dがアムステルダムで鋼橋を3Dプリントへ(MX3D to 3D print a steel bridge in Amsterdam)」という動画を公開したことがきっかけだった。

MX3Dのウェブサイト。YouTubeで公開された動画にもリンク(https://www.youtube.com/watch?v=pZNTzkAR1Ho)が張ってある(写真:MX3D)

そしてFacebook(フェイスブック)などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でも、この動画をシェアするユーザーが増え、プロジェクトの認知度は数日間で急激に高まった。

この動画には、MX3Dが失敗を繰り返しながら、少しずつ技術の改善に取り組んできた過程がコンパクトにまとめられている。そして、圧巻はこの3Dプリンターで作成したミニチュアの鋼橋を実際に人がわたってみせるシーンだ。

子どもや動物など"柔らかい"内容の動画が人気を集めるYouTubeの中で、「科学と技術」がテーマの"お堅い"内容にもかかわらず、公開後3日間ほどで50万件以上のアクセスを記録した。

3Dプリンターで作成したミニ鋼橋を実際に人がわたってみせるシーン(写真:MX3D)

「アイアンブリッジ」を思わせる鋼橋の構造

橋の設計には、オートデスクが開発中の「ドリームキャッチャー(Dreamcatcher)」のような設計ツールが、3Dプリンターの制御には「ダイナモ(Dynamo)」といったシステムも使われているようだ。

オートデスクのCTO(最高技術責任者)であるジェフ・コワスルキー(Jeff Kowalski)氏は以前、講演の中でドリームキャッチャーをこのように説明していた。

オートバイの後輪を支える「スイングアーム」という部品を設計する際、作用する外力に基づいて最適化していくと動物の骨のような形になるという話があった。ドリームキャッチャーは、まさにこの最適化を行うための設計ツールなのだという。

ドリームキャッチャーで最適化されたスイングアームを3Dプリンターで作成した模型(写真:家入龍太)

橋の設計はオランダのデザイナー、ジョリス・ラーマン(Joris Laarman)氏が担当する。

一般の鋼橋は鋼板やH形鋼などの材料で作られるため、平面や直線を多用し、断面形状も均一なものが多く使われる。しかし、橋全体を3Dプリンターで作ると、作用する荷重に対して橋の各部分を最適に設計し、造形することができる。ドリームキャッチャーのようなシステムを使うと、橋の形も「生物化」してくるようだ。

その形は、かつて鉄が高価な材料で最小限しか使えなかった時代に英国で建設された世界初の鋳鉄製アーチ橋「アイアンブリッジ」をほうふつとさせるものになりそうだ。

橋の設計を最適化するイメージ。世界初の鋳鉄製アーチ橋「アイアンブリッジ」を思わせる(写真:MX3D)
MX3Dのウェブサイトで公開されている設計案(資料:Joris Laarman for MX3D)

9月以降に建設現場も発表に

プロジェクトの進捗状況は、アムステルダム市内にあるMX3Dのビジターセンターで2015年9月に公開される見込みだ。その後、同社とアムステルダム市は、具体的な建設現場を発表するとみられている。

建設業界ではBIMやCIMの普及とともに、3Dプリンターの活用が進みつつある。それも建築模型やサッシのモックアップといった小さなものだけでなく、最近はコンクリートを造形材料として実物大の建物を作ってしまう"巨大3Dプリンター"の開発も、世界各国で進んでいる。

MX3Dのプロジェクトは、3Dプリンターを建築・土木の分野での主要材料である「鋼材」を作り出す建設機械へと進化させようというものだ。建設産業の歴史の中で、偉大な一歩となるかもしれない。

建設産業の歴史を変えることになるかもしれないMX3Dの作業場(写真:MX3D /Adriaan de Groot)
家入龍太(いえいり・りょうた)
 1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/。ツイッターやFacebookでも発言している。

[ケンプラッツ2015年7月1日付の記事を再構成]

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