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野茂から20年、日本選手のメジャー挑戦を振り返る

米大リーグに本格的に日本人選手が挑戦するきっかけとなった野茂英雄さんのドジャース入団から20年。この間、多くの日本人が夢や野望を胸に海を渡って本場のファンをうならせ、時に辛酸をなめてきた。プロ野球担当記者が日本人メジャーリーガーの歴史を振り返った。

イチローは走攻守でトップクラス

――20年間で、最も活躍した選手を挙げるとすれば。

記者G 野手はマーリンズのイチローをおいてないだろう。故障離脱もほとんどなく、走攻守すべてでトップクラスの活躍をしている数少ない選手。メジャー3000安打も近く、今後この成績に迫れる日本選手が出てくることは想像しづらい。

D 自身が塗り替えた安打記録の保持者だったジョージ・シスラーのような伝説の選手を掘り起こし、大リーグの歴史や奥深さを日米のファンに認識させた。日本人の枠を超えた偉大な存在だ。

E 挑戦しなければ次に続く選手がいたかどうかという点で、野茂も唯一無二の存在。斬新なトルネード投法からのフォークで三振の山を築き、ストライキで低迷した米野球人気にブームを巻き起こした。

H 広島に復帰した黒田博樹はベテランの域に差し掛かっての挑戦にもかかわらず、7年間先発の座を守り続けたのは立派。2010年からは5年連続2桁勝利をマーク、安定感のある投球は「6回以上投げて自責点3以下」のクオリティースタートを重視する米国でも受け入れられた。

D レッドソックスの上原浩治は日本でも力が落ちてきていると思われた「たそがれ時」に渡米し、抑えという役割でもう一花咲かせた。140キロ程度の直球とフォークを使った抜群の制球力で投球の醍醐味、核心を教えてくれた。

松井秀、中距離打者で活躍も物足りず

――期待以上に活躍した選手は。

F 元阪神の新庄剛志は打撃の意外性もあってメッツでの1年目から100試合以上に出場。底抜けの明るさと物おじしない性格で溶け込み、奥ゆかしい日本人にはない「強さ」を感じた。

B そのメッツで1990年代後半、中継ぎをこなした柏田貴史も忘れがたい。メジャー挑戦前は巨人での3年間で1勝だった変則左腕が、97年には35試合に登板して3勝。パワーがなくても強みや特徴を持っていれば生き残っていく道があることを示した。

――一方で、鳴り物入りでメジャーに行きながら辛酸をなめた選手も少なくない。

G 今季オリックスに入団した中島裕之は長打も魅力の内野手がどこまでメジャーの猛者たちに食い込めるかと思ったが、早々にけがでつまずいてメジャー昇格の機会を失った。本職の遊撃ではなく二塁や三塁と慣れないポジションを慣れない環境でやる難しさもあったのだろう。

B あえて物足りなかったといえば元ヤンキースの松井秀喜。勝負強い打撃こそ光ったが、速球を微妙に動かしてくる大リーグの投手と対峙すると、中距離打者として生きていかざるを得ない現実を突きつけられた。今後、日本人がスラッガーとして活躍するのはあり得ないとまで思わせられた。

A 海を渡る以上、プロ野球史上最高の長距離砲として勝負し、本塁打王を狙うところまでいってほしかった。残念ながら本人にその志向がなく、ヤンキースというチームに殉じたもので仕方ないが、もっと自由に打てば年30本塁打止まりということはなかったはずだ。

H ただ、09年のワールドシリーズで最優秀選手(MVP)に輝いたことは忘れられない。ヤンキースで主力をはり、日本野球の実力が引けをとらないことを最も示してくれた一人だ。

退路断ち、骨うずめる覚悟必要

――20年たって、活躍できるタイプ、できないタイプの傾向も見えてきた。

H 投手は絶対的な勝負球を持っているタイプ。レンジャーズのダルビッシュを例に挙げると、パワーピッチだけでなく、変化球も多く、どの球種も勝負球になる。

F 150キロの直球に加え、切れのあるフォークやスプリット、チェンジアップなどを持つ選手だが、何より退路を断って米国に骨をうずめる覚悟のある人だ。

E 一時は所属球団がなく、浪人しながらメジャー昇格を果たした元アスレチックスの藪恵壹ら成功した選手は、プライドを捨ててでもやってやるという意地を持っていることが多い。エンゼルスなどで活躍した長谷川滋利も先発で渡米しながら中継ぎに転向して成功したし、2度のワールドチャンピオンに輝いた田口壮も何度もマイナーに落ちながらポジションを確保した。

C 「修正力」や「対応力」も欠かせない。ヤンキースの田中将大は楽天時代から、失点後や試合中にリズムを変えるなど、ピッチングにメリハリを付けていた。日本復帰後の黒田も「打者を見ていろいろ考えている」と、その時々の出来や打者の動向を見て投げている。変化を恐れる人はメジャーでは大成できないのでは。

D 黒田は日本で通用していた直球があっさり打たれたのを機に、打たせて取るスタイルに変えた割り切りは見事だった。対応力は野手でも必要な能力で、現ロッテの井口資仁は「打率3割・30本塁打・30盗塁」のトリプルスリーも狙えるスター選手だった日本時代から一転、渋いチーム打撃や堅守で欠かせない選手になった。05年にホワイトソックスでワールドシリーズを制覇した時には監督が「影のMVP」とたたえたほどだ。

松坂、硬いマウンド合わなかった?

E 投手でいえばマウンドの違いなどに適応できるかどうかも大きい。ドジャースなどで抑えとして活躍した斎藤隆(現楽天)は多くの日本選手が苦しむ硬いマウンドが逆に合っていたという。股関節が硬く、日本の軟らかいマウンドでは投球の際の歩幅を一定に保つのに苦労していたが、硬いマウンドでのおかげでフォームが固まったとか。

A 逆にソフトバンクに復帰した松坂大輔はもうちょっと長く活躍できると思っていたが、硬いマウンドが合わなかったのだろう。2桁勝利を10年ぐらい続けるものと思ってファンも送り出したと思うのだが。

B 守備では天然芝で球足の遅い三遊間のゴロを下手からスナップだけを使って送球する芸当は日本人にはなかなかまねできない。内野手なら日本で突出した打力を持つ選手が二塁手で活躍する道ぐらいしか残っていないのでは。

A 打者でいえば、日本で30本塁打ぐらいの長距離砲が向こうでは普通の打者になって、打率を稼ぐでもなく、長打が出るわけでもない中途半端な存在に埋没する傾向がある。日本で使われていた飛ぶボールの弊害で、打者が勘違いしてしまう。松井秀ほどのパワーか、マーリンズのイチロー、ジャイアンツの青木宣親ほどのコンタクトのうまさがないと、どっちつかずの選手になってしまう。

C 最近は米国が気軽な"就職先"の一つになってしまったようで、覚悟がいまひとつ伝わってこない選手もいるのが残念だ。結果を残せなくても日本で高額のオファーが待っている環境も要因になっている。

片言の英語でも…適応力が成功の条件

――日米の野球の違いに適応できることも成功の条件のようだ。

D 何かにつけて思うようにならないのが海外生活。周囲に壁をつくって自分の世界に閉じこもり、溶け込めなかった人もいる。メジャーとマイナーの待遇格差や非情なトレードもあって落ち着かない異国の球界で、体格の劣る日本人が年間を通じてこうした環境に置かれれば、かなり大きな負荷がかかるのは間違いない。

A やはり片言でも英語を使って監督の胸に飛び込み、またチームに溶け込めるかどうかだろう。

F 元阪神の金本知憲は引退後、現役時代にメジャーから誘いがあったことを明かし、「ご飯が合わない。移動が厳しく環境も違う」との理由から断ったと言っていた。あの鉄人が二の足を踏んだくらいだから、よほどの技術、体力、環境や待遇の差にも動じない精神力と覚悟がないと成功は望めない。

――最後に、海の向こうでの活躍を見たい選手は。

B イチローや田口のように俊敏で守備範囲が広く、強い送球を正確にできる外野手は魅力的だろう。例えばソフトバンクの柳田悠岐あたりかな。

F ソフトバンクの中村晃は捕手のミットに収まる寸前まで球を見極める目と速いスイングでメジャーの動く球にも対処できそう。渋いところでは巨人の井端弘和は攻守で戦況に応じたプレーをする「野球脳」でメジャーに新風を吹かせてくれるのでは。

A もう少し伸びればヤクルト・山田哲人も楽しみ。日本人はやはりスピードというプラスアルファを備えていないと、なかなか野手では使ってもらえない。

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