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本田道(上) 日本流サッカー、世界で示したい

 2018年のワールドカップ(W杯)ロシア大会に向けて、サッカー日本代表は6月にアジア2次予選にこぎ出したばかり。そのチームの中心にいる本田圭佑(29、ACミラン)に先日、話を聞く機会があった。オーストリア3部リーグのSVホルンの買収など意表を突く話題を振りまきながら、その視線は常に日本サッカーの行く末を凝視している。そんな本田の哲学、思考法、日本代表への思いなどを2回にわたって紹介する。

育成の関心芽生え、12年にスクール開設

選手育成に本田が関心を持つようになったのはオランダのフェンロ時代にドイツなどで行ったサッカー教室にまで遡る。

「その時の経験が育成に対する意識を芽生えさせた。今になって、子供の頃こうしておけば良かったと思うことがあるじゃないですか。それと最近の子供の傾向として技術は高いけれど、体と精神的な部分は物足りなかったりする。そこをどう高めていくかとか」

インタビューに答える本田圭佑=写真 浅原敬一郎

問題意識を形に変えるのは本田の流儀。12年5月にサッカースクール「ソルティーロ」を大阪に開校、今その数は関東、関西、九州に49校と膨らんだ。さらに数を増やして、いずれアジアに進出する構想もある。

スクールを立ち上げた時から「ピラミッド型の育成図は頭にあった」という。小学生までが対象のスクールの上にジュニアユースを東京と大阪に構築。6月に経営参入を発表したSVホルンとジュニアユースをつなぐユースチームも念願の専用グラウンドとともに16年をめどに発足予定だ。

組み上がるピラミッドの中でユースとSVホルンはプロ、欧州、ビッグクラブの登竜門として機能させるよう目指す。高校の部活からイタリアのACミランまで成り上がった本田のノウハウが当然、指導の肝になる。

「この育成モデルの成功像としてあるのは今、教えている子たちが代表や海外でプレーするようになること。そういう選手を自分らで生み出し、質を高めることができれば、やっている活動の意味や意義が誇れるものになってくると思う」

オーストリアのリーグ、「水準高い」

SVホルンには強化や営業部門などの長に腹心を送り込む。年間で数億円単位の運転資金はかかりそうだし、人口6500人ほどのホルンの町に溶け込むだけでも大変な作業だろう。

「まず、日本の全国の皆さんにお伝えしたいのはオーストリアのリーグの水準の高さ。近年は育成にも力を入れ、個で見れば体は大きく瞬発力やパワーもある選手がそろっている。鍛えた選手をビッグクラブに送り込むポテンシャルを1部リーグは備えています」

3部所属のSVホルンといえども、「日本の選手がプレーするとなったら簡単ではない」。

一方、外国人枠の規制は緩く、日本から選手をまとめて送り込めることが有形無形の恩恵をもたらす可能性がある。

「自分のように、周りは全員外国人で日本語も通じない中で力を証明していくのは鍛えられますし、非常にタフでいい人生経験になります」

「でも、それではサッカーで結果を出す上で無駄な障壁が本当に多いデメリットもある。キャリアアップのスピードだけ考えたら日本人選手が他のポジションでいたり、経営陣やコーチ陣に日本人がいたら、その選手のポテンシャルをより理解した上で力を引き出すサポートができます」

新シーズンからSVホルンでのプレーを希望する選手のトライアウトを6月30日に東京都内で実施した。100人ほどの応募者から1人が7月にホルンで行う最終審査に生き残った。最後の見極めは本田が自ら行う。

「甘く選ぶつもりはない。採用ゼロという可能性もある」

選考基準は「どれくらい苦労したか」

では、"人事部長"本田の琴線に触れるのはどんな選手なのか。

「幾つか大事にする項目がある中で、長く成長していける選手について僕自身の哲学がありまして。その人が今までどれくらい苦労してきたかを見ます」

「苦労といえば抽象的になりますが、どれだけ失敗を重ねてきたかということ。失敗の数イコール、チャレンジの数だと僕は思うので。すなわち失敗の多い選手はちょっとしたことでへこたれない、今後予想される苦難を乗り越えられる証明になると思います」

本田自身、G大阪のジュニアユースからユースに昇格できず、その挫折をバネに石川県の星稜高校からJリーガーになった経緯がある。未来を担う子供や選手たちに伝えたいことも「失敗の効用」はかなりのウエートを占めているようだ。

「幼少の時から失敗を恐れるなというアドバイスはしっかりしたい。失敗の繰り返しは子供の間にやるべきこと。大人になってからではどうしても打たれ弱さが出る」

「僕自身、29歳でできないほどの失敗をしてきた自信はあります。その失敗を自慢にできる精神も大事で、それがないと次の失敗を恐れて行動が縮こまり、自分でリミッターを外せなくなる。枠の中でしか生きることができなくなる」

漫然と失敗を繰り返していいわけではない。

「課題を見つけ出す能力というか、明確にシミュレーションできることも大事。どういう壁が立ちはだかるのか、その壁をどう越えていくかを想像する力というか」

日本選手の能力信じる

本田が育成に多大な関心を寄せるのは、ある種の歯がゆさを伴いつつ、日本人選手の能力を強く信じるからでもある。

「結果が出ていないから仕方ないが、日本のサッカーは世界で過小評価されている。もっと高いところ、それこそW杯優勝を目指せるはずだし、ビッグクラブの中心選手がもっと出ていい」

現役中は競技に専念せよ、という意見がある。経営や育成に関わるのは大変そうだが、自身の試行錯誤から得た生なアイデアを現場に直送できる相乗効果もある。

「互いが互いを支えているというのはありますね。後はまあ、文句を言う人は何をやっても言いますから。黙らせるには選手として結果を出すしかないとも思います」

「まずは自分がやりたいことを毎日熱中してやるという僕のフィロソフィーがある。サッカーもそこから始めて、いつの間にかカネをもらえる立場になった。(育成や経営も)やりたいことをやるということから始まった。そこは自分のこだわりでもある。子供たちが育っていけば成功のスキームは間違いなく手に入ると思ってますし」

実は、本田の頭の中のピラミッドの頂点はSVホルンではない。

「イメージとしてはまったく違うものが乗っかる。もっと大きなクラブ? 今は種明かしできないですね。形になっていないから。大きなビジョンは持っています」

「そのためにも今、言っていることをしっかり実行したいと思います。まずはSVホルンで。5年後には欧州チャンピオンズリーグに出ると言ってしまっているんで」

「日本人が世界に誇れる勤勉、忍耐強さ、協調性をクラブの中心に置いてマネジメントの分野でも日本のすごさを証明したい。SVホルンの経営に参入したのはそういうのもあるんです」

「わくわくしませんか、遠い方が」

3部のチームを5年でリーグ優勝を争えるチームにする。それだけでも十分に大言壮語である。目標との距離の遠さに愕然(がくぜん)とすることはないのだろうか。

「逆にわくわくしませんか、遠い方が。誰も行きたがらないと思うと自分だけはたどり着きたいと思えるんで。皆が、たどり着けそうな近いところは誰でも行けるから面白くない。それなら違うターゲットを探そうと思うんです」

(敬称略)

(武智幸徳)

欧州最古リーグ、オーストリア
 オーストリアリーグは1部は1911年、2部は24年に創設され、ヨーロッパ大陸で最も古い歴史を有するとされる。現在1部、2部とも10クラブで構成され、今季の1部王者はC大阪から移籍した南野拓実が所属するレッドブル・ザルツブルク。ザルツブルクは来季の欧州チャンピオンズリーグの予選3回戦への出場権を手にした。
 ザルツブルクにはかつて日本代表の宮本恒靖氏も在籍。シュトルム・グラーツをオシム元日本代表監督、ペトロビッチ現浦和監督が率いるなど何かと日本と縁がある。
 同国代表は98年大会を最後に4大会連続でW杯出場を逃している。最高成績は54年スイス大会の3位。来年フランスで開かれるユーロ(欧州選手権)予選はスウェーデンやロシアを抑えてG組首位を快走中。古豪復活の兆しがある。
 本田圭佑(ほんだ・けいすけ) 1986年6月13日、大阪府摂津市に生まれる。摂津FCでサッカーを始め、中学生でG大阪のジュニアユースに所属。石川県の星稜高校に進学し3年時には全国高校選手権のベスト4入りを果たす。高校卒業の2005年にJリーグの名古屋に入団。08年1月にオランダ1部リーグのVVVフェンロに移籍。翌シーズン、2部に落ちたチームで16得点を挙げリーグ優勝に貢献、年間最優秀選手に選ばれた。10年1月にロシアのCSKAモスクワに移籍。13年12月に退団するまでの間にリーグ優勝や欧州チャンピオンズリーグ8強などの原動力になった。14年1月からはイタリアの名門ACミランで背番号10をつけてプレーしている。
 日本代表では05年U-20(20歳以下)W杯オランダ大会、08年北京五輪に出場。10年W杯南アフリカ大会では2得点1アシストをマークしてベスト16の立役者に。14年ブラジル大会も1得点1アシスト。08年6月のデビューから代表のキャップ数は73、ゴール数は29。

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