「9月リスク」に身構える市場 - 日本経済新聞
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「9月リスク」に身構える市場

米利上げ、ギリシャのユーロ離脱、上海株乱高下に発する中国経済迷走。9月に、この3つのリスクが共振現象を引き起こす可能性が浮上してきた。

「セプテンバーリスク」。最近、米ニューヨーク(NY)のヘッジファンドと話していると、時折、話題になる単語だ。

まず、米利上げだが、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で決まっても、先送りされても、どちらも「サプライズ」要因になる。それほど、市場内の見方が分かれているということだ。FOMCメンバーの政策金利予測分布を示す「ドットチャート」を見ても、年内利上げ1回・2回・3回予測それぞれ5名ずつと割れている。6月の米雇用統計ひとつとっても、総じて改善傾向にあるが、賃金や前月分の伸びの下方修正など不透明要因も目立ち、総合的判定が悩ましい。

各国の中央銀行関係者が集まる8月の恒例行事「ジャクソンホール会議」に今年はイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が欠席することも、市場にとっては気がかりだ。通年であれば、その会議での発言が、9月FOMCに向けての「予告編」とされ、市場のコンセンサスが醸成されてきた。ところが、今年は「ぶっつけ本番」となりそうな雲行きだ。

次に、ギリシャ危機。

ECB(欧州中央銀行)保有のギリシャ国債償還日が7月20日(約35億ユーロ)と8月20日(約32億ユーロ)に控えている。国民投票後、これから債権団とギリシャの間で、ふりだしに戻り、交渉が開始されても、この償還日に間に合うように合意できるか。かなり困難、というより、ほぼ不可能に近いのではないか。ギリシャ財務相が変わっても、債権団の不信感は容易に払拭できないほど、感情的な溝が深まってしまった。

交渉が平行線をたどりつつ、ECBからの緊急流動性支援(ELA)も増額されず、ギリシャ国内のユーロは枯渇してゆく。7月20日にも国債デフォルト(債務不履行)に陥る確率は高い。しかし、デフォルトがただちにユーロ離脱となるわけではない。そもそも、現行の取り決めではユーロ参加国が脱退する事態が想定されていないので、手続きそのものが手さぐりの状態となる。9月には、その行く末が見えてくるかもしれない。

なお、ギリシャ危機が、原油急落を誘発したことも不気味ではある。

そして、中国リスク。

一連の株価下支え策は、はからずも、中国株式市場の脆弱性をあらわにしてしまった。さすがの習主席も、ネズミの大群と化した中国人個人投資家集団のランダム(予測不可能)な動きを持て余している。

しかも、株急落のタイミングが悪い。

ときあたかも、地方政府や国営企業がかかえる膨大な借金にメスを入れ、病巣を除去するという痛みを伴う手術が始まっている。できれば、株価上昇という鎮痛剤が欲しいところだ。それが、上海株バブル崩壊ともなれば、手術は益々困難になる。

国内消費主導型経済への移行を目指す戦略の中でも、株価下落にともなう負の資産効果はなんとしても避けたいところだ。

しかも、9月末の国際通貨基金(IMF)総会では、SDR(特別引き出し権)というIMF内の決済に使われる「合成通貨」の中に、人民元を第5の通貨として組み込む事案が議論されることを目論んでいる。米ドル・ユーロ・円・ポンドと同様な国際通貨としての認定を受けるには、資本取引の自由化が欠かせない。しかし、株式市場に欧米ヘッジファンドが空売りを含め本格参入すれば、ボラティリティー(変動率)のさらなる激化は必至だ。

9月には人民元自由化、中国経済構造改革の真価が問われる状況が考えられる。市場では、中国経済軟着陸への期待とハードランディング懸念が交錯しよう。

日本株と円も、このセプテンバーリスクから無縁というわけにはゆかぬ。3つの変数からなる連立方程式の解を求めることは至難の業だ。ドラギECB総裁は「市場はボラティリティーに慣れるべし」と説いた。投資家のリスク耐性が試される9月になりそうだ。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。11年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
 1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://gold.mmc.co.jp/toshima_t/index.html
ツイッター(http://twitter.com/#!/jefftoshima)ではリアルタイムのマーケット情報に加えスキー、食べ物など趣味の呟きも。日経マネーでは「現場発国際経済の見方」を連載中。日本経済新聞出版社や日経BP社から著書出版。業務窓口は jefftoshima@hyper.ocn.ne.jp

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