/

スタジアム、世界の主流は「スポーツ以外でも稼げ」

新国立競技場の建設をめぐり、スポーツ施設の整備、運営の手法に注目が集まっている。世界のスタジアム、アリーナはスポーツ・文化イベントを開催する多機能複合施設へと変容しつつある。新国立はどうあるべきか。スポーツ施設を中核にした街づくり「スマート・ベニュー」を提言する早大スポーツ科学学術院の間野義之教授の意見を聞いた。(聞き手は編集委員 北川和徳)

宿泊施設など多機能複合化がポイント

――6月にはスペイン・バルセロナで世界スタジアムビジネスサミットが開催された。

「参加者はスポーツ施設の運営者のほか、音響や照明など設備業者が目立った。スタジアムなどスポーツ施設に関するビジネス情報の交換やネットワーク作りの場だった。現在のスタジアムやアリーナの運営では、スポーツ以外でどうやって稼ぐのかが大きなテーマ。ショッピング、エンターテインメント、宿泊施設などを併せ持った多機能複合化が大きなポイントになっている」

――最先端のスタジアムやアリーナとは具体的にどういうものなのか?

「昨年、錦織選手が出場したテニスのATPツアーファイナルの会場となるロンドンのO2アリーナが面白い。もともとは公共施設だが、民間が再開発して運営する。2万人以上収容するアリーナで、周囲を大きなドームで覆って、映画館や飲食施設、ボウリング場などもあり、隣にはホテルも建つようだ。スポーツやコンサート会場として年間220日程度稼働するが、スタンドが3方向にしかなく、1方向からは大型トラックが入って舞台の設営、撤去などが短時間でできるようになっている」

「運営は米国のスポーツエンターテインメント会社AEG(アンシュッツ・エンターテイメント・グループ)。同社は世界中でスタジアムやアリーナの運営に関与している。O2アリーナはホスピタリティールームなど舞台裏が充実しているのも特長。出演者が終了後に家族や友人を招きパーティーを開いたりする。それがやりたくて公演会場に選ぶ人もいると聞いた。世界的なアーティストに来てもらうため、そこまで考えて競争している」

早大スポーツ科学学術院の間野義之教授

どんなイベントを誘致できるかが重要

――そういう視点から、今回の国立競技場の建設をめぐる混乱をどう考える。

「スタジアムビジネスサミットでは、昨年完成したサンフランシスコのリーバイススタジアムが表彰されていた。アメリカンフットボールのフォーティナイナーズ(49ers)の本拠地になり、来年はスーパーボウルの会場にもなる。その建設にあたって考慮したこととして、ソフトドリブンという言葉を聞いた。どんなイベント・催しの舞台になるかというソフトこそが、施設などのハードをドライブするという意味だ。そう考えると新国立はどうだろう。どんな使い方をするかを考える前に、デザインとか屋根のあるなしとか、観客席を減らすとか、ハードのことばかり検討している。少なくとも五輪が終わってから10年後くらいまでは、どんなイベントを具体的に誘致できるのか、他にどんな活用をすべきかなどを議論したうえで、施設の機能や規模を考えるのが本来のやり方だ」

「2000年シドニー五輪のメーンスタジアムは、現在、(整備されていた)陸上のトラックは撤去して、人気のあるラグビーやサッカー、クリケットなどの試合会場となっている。当初からそう考えて建設された。全体を覆う屋根はないが、最初からコンサート会場を前提に音響まで考えているから、世界的なアーティストの公演でも使用される。年間100億円を超える売り上げがある。同じ英連邦ということもあって、シドニーの手法を12年ロンドン五輪のメーン会場も参考にした。こうした情報をきちんと収集して検討していれば、新国立の計画も違う展開になったと思う」

新国立競技場、「屋根は絶対に必要」

――それにしても、総工費2500億円を超える五輪のメーン会場というのは高すぎる。

「確かに世界的にも、日本国内の事例と比較しても、スタジアム建設費としては突出している。普通の建築工事なら柱を造って、壁を造って、屋根をかければいいのだけど、新国立は長い緩やかな橋をかける土木工事となるから、時間とお金がかかると聞いた。コストを考えれば、デザインにそこまでこだわることはなかったと思う」

――五輪後の先送りが決まった、フィールドの上を覆う開閉式屋根の設置は必要なのか?

「建設が間に合わなければ、五輪後に先送りするのは仕方がないが、最終的に屋根は絶対に必要だ。コンサートなどを誘致して稼働率を上げることを考えたら、音漏れの問題は避けて通れない。屋根がある全天候対応かどうかで、サッカーなどスポーツで使用する場合でも活用の幅はまったく変わる」

「東京の一等地にできる屋根付きの最大8万人収容のスタジアムとなれば、コンサート会場や見本市、パーティーなどさまざまなニーズがある。五輪後には神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替えとともに神宮外苑地区の再開発も計画されている。スポーツ施設を軸にショッピングやエンターテインメント、宿泊施設などを併せ持った多機能複合化を進めれば、世界中の人々があこがれるエリアとなる可能性もある」

「民間のノウハウもっと使うべき」

「そのためにも民間の活力やノウハウをもっと使うべきだ。先進国で国家的スタジアムを持つという発想はもう古いのではないか。新国立も完成後は民間に使い方を考えさせて、独立採算でできるなら運営と改修整備は任せてしまった方がいい。国立は公共性を優先すべきだとかいうけれど、そのために税金がさらに投入されるなら、そんな公共性は望まれないのではないだろうか」

――スポーツ施設を中心とした街づくりで「スマート・ベニュー」という発想を提案している。

「スタジアムやアリーナなどのスポーツ施設を街中に造り、それに役所や医療機関などさまざまな機能を併設して街づくりの中核にしようという考え方。国体開催などをきっかけに整備される日本各地の大型スポーツ施設は、これまでは用地コストや近隣への迷惑を考慮して、スポーツ会場としての機能だけを満たすように郊外の利便性のよくない地域に造られてきた。こんな無駄になるやり方は見直さなければならない」

「大型施設は災害時の避難場所にも」

「大型スポーツ施設はエンターテインメントやアミューズメント機能と相性がよく、人々を集める中核になることができるが、災害時の避難場所としても重要な機能を持つ。体育館があるから避難場所となるし、グラウンドがあるから仮設住宅を建てることもできる。客席の下のスペースなどは、いざというときの防災グッズや非常食の備蓄場所にもなる。スポーツ施設が街中にあることで、たくさんの相乗効果が生まれる。地方都市ではコンパクトシティによる中心市街地の活性化にもつながる」

――来年秋に開幕する男子バスケットボールの新リーグは、ホームタウンに5000人収容のアリーナの整備を求めている。

「スマート・ベニューの発想で全国でアリーナの整備が進めばと思っている。もちろん、市街地だとコストがかかるから、行政と民間のパートナーシップが重要になる。行政が用地と一定の資金を用意して、あとは民間の資金、ノウハウをどう生かすか。PFI(民間資金を活用した社会資本整備)やPPP(官民パートナーシップ)の活用を重視するアベノミクスの戦略にも合致すると思う」

 間野義之(まの・よしゆき) 1963年生まれ。専門はスポーツ政策とスポーツビジネス。東大大学院修了後、91年から三菱総合研究所でスポーツ政策に関する調査研究を担当。同社を退職して2002年から早大で学生を指導。スポーツ団体・政府・自治体などの役職を多数務め、施設の整備や組織運営などについて次代の日本のスポーツのあり方を研究、提言している。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン