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復権願うピート・ローズ氏 再び迷走、厳しい前途

スポーツライター 杉浦大介

メジャー通算最多安打記録を持つピート・ローズ氏(74)が、選手時代にも出場試合で賭けをしていたと報道され、米国内で大きな話題を呼んでいる。1989年に受けた永久追放処分の解除を求め、野球殿堂入りを熱望するローズ氏。この件が本当であれば、復権を決めるコミッショナーの判断への影響は避けられそうにない。華やかな現役生活を送りながら、引退後は迷走を続ける通称「チャーリー・ハッスル」はどこへ向かうのか。

「選手としても賭け」裏付ける文書

6月22日、球界に新たな衝撃が走った。ローズ氏がレッズの監督兼任選手を務めていた86年に、選手としてプレーした試合でも賭けをしていたことを裏付ける文書を、米スポーツ専門局ESPNが入手したと報道したのだ。

この書類は、もともとは89年10月にローズ氏に近い人物から押収され、行方が確認されてなかった手書きメモのコピー。その文書には現役最後のシーズンとなった86年3~7月の賭博内容が詳細に羅列されており、1回の賭け金は2000ドル前後だった。

「ピート」とのみ名前が記された資料が本物かどうかを疑う声も出てはいるものの、状況から考えて、信ぴょう性は高そうだといわざるを得ない。

63~86年までメジャーでプレーしたローズは氏、球聖タイ・カッブの持つ記録を破り、大リーグ歴代1位の通算4256安打を放った超がつくほどのスーパースター。「ビッグレッド・マシン」と呼ばれた70年代のレッズ打線の中核を担い、200安打以上のシーズンは10度を数える。2010年、イチローがこの偉大な記録に並び、日米通算安打数でもローズ氏の安打数に迫っていることなどから、最近は日本でも再びその名が注目された感がある。

しかし、特に米国内では、近年はスキャンダラスな存在としてのみ名前が知られるようになっている。野球賭博への関与で89年に永久追放処分を受けた。その件を約15年間にわたって否定し続けていたが、04年に発売した自伝で監督を務めた試合で賭けをしていたことをついに認めた。

「みそぎは済んだ」と同情的な声も

それでも選手時代の関与は一切否定し、処分を受けてから約25年たった今年3月、大リーグ機構(MLB)に正式に永久追放処分の撤回を要請した。そんなローズ氏に対し、近年は同情的な声が徐々に増えていた印象もあった。

「ローズは過ちを犯した。私たちの国では、リチャード・ニクソン大統領があれだけの事件(70年代前半のウオーターゲート事件)を起こしても、人々は許した。だから25~26年も追放されていたのであれば、ローズも許されるべきだとは思う。ずっとウソをつき続けたのは彼の過ちで、早くそれを認めていれば今ごろはもう復帰できていただろう。選手としては問題なく殿堂入りに値する。フィールド外での振る舞いでは罰せられてしかるべきだが、その過ちまで含めて彼の軌跡は殿堂に刻まれるべきだと思う」

ローズ氏と約40年間にわたって関わり、現在はローズ氏の古巣レッズの試合でテレビ実況を務めるジョージ・グランド氏はそう語る。そして、そんな声はローズ氏擁護派の代表的な意見だった。

ホワイトソックスが19年のワールドシリーズで八百長を働いた「ブラックソックス事件」以降、MLBは野球賭博に関わった者は球界に残る余地はなし、という厳格な規定を打ち出してきた。しかし、ローズ氏の処分決定から25年以上の長い時間が経過し、「みそぎは済んだ」と考える人は増えている。それに加え、ローズ氏は所属チームの勝利にしか賭けていなかったらしいことも、同情的な声が出ている理由だろう。

常に勝つ方に賭けていた限りは…

「彼のギャンブル癖が常軌を逸していることは誰もが気付いていた。野球に限らず、何に関しても賭けをしたがる男だった。ただ、常にハードにプレーする彼のスタイルを考えれば、負ける方に賭けたとは誰も思っていない。断固たる姿勢を取ってきたMLBの姿勢は正しかったとは思うが、一方で、勝つ方に賭けていた限り、同情の余地はあると考えている人も存在する」

WFANラジオのベテランコメンテーター、エド・コールマン氏はそう述べ、ローズ氏の殿堂入り自体は賛成だと語っている。

「日本ではサダハル・オー(王貞治氏)は偉大な打者というだけでなく、正しい方法でプレーしたがゆえに、多くの人から尊敬されたのだろう。オーはホームラン打者、ローズはアベレージヒッターという違いはあるが、似ていると思う。ローズほど常にハードにプレーする選手は他にいなかった。残念ながらフィールド以外の部分で名誉を失ってしまったが、だからといって彼が選手としてどれだけ努力したか、どれだけ成功したかが、消えてなくなるわけじゃない。すべての後で、素晴らしい選手だったという事実が無視されるべきではないと思う」

グランド氏もそう述べる。そして、最近はローズ氏の復権の可能性の高まりを指摘する声が出始めていたのも事実だった。

タイミング悪く痛恨のスキャンダル

今年1月に新たにコミッショナーに就任したロブ・マンフレッド氏は「ローズの代理人とどう対処するか話し合うつもり」と語るなど、前向きに応じる姿勢を示していた。また、レッズの本拠地シンシナティで開催される7月のオールスターゲームに、ローズ氏の参加を認める発言もしていた。

だが……。そんなさなかに飛び出した今回の新たな話は、タイミング的にもローズ氏にとって痛恨のスキャンダルといわざるを得ない。

「今年初めに復権申請して以降、その件に関するコメントはしないとMLBに確約している」「良い部分も悪い部分も含めて、私の経歴と野球人生についてマンフレッド氏と腰を据えて話し合いたいと考えているのは確かだ。その会合はオールスターブレーク後に実現する可能性がある。それゆえに、現時点では具体的なコメントをすることは適切ではない」

ESPNの報道後、ローズ氏は弁護士を通じてそんな声明を発表した。その言葉のトーンはまだ希望を抱いていることを感じさせるが、現実は厳しい。明るみに出た文書の正当性を疑う主張をしても、これまでの経緯を考えれば、世論の支持を得るのは極めて難しそうだ。

「これが最後のピースで、パズルは完成。(ローズ氏復権の)ドアは閉じられる」。「ローズ問題」の捜査を担当した元連邦検事のジョン・ダウド氏がそう語っているのをはじめ、米メディアの論調もおおむね否定的である。

かつてのヒーローに改めてむなしさ

「"選手としては賭けていない"という言葉も、彼をよく知る人はもともと誰も信じていなかった。野球賭博の件に関して、何が出てきてももう驚かない。また新たなウソという疑惑が出てきてしまった時点で、復権は厳しくなったし、名誉の殿堂入りはこれから先もまず不可能だろう」

ロイター通信のラリー・ファイン記者のそんな言葉通り、早期の復権、殿堂入りの道は限りなく狭まったと考えるのが妥当なのかもしれない。

すでに参加が認められた7月のオールスターに関しては、ここから決定が覆されるとは考えがたく、ローズ氏は何らかの形でイベントに参加することになるはず。しかし、せっかくの舞台で好奇の視線ばかり浴びることになりそうだ。

そして球宴後、予定通りにコミッショナーとのミーティングが実現すれば、そこでもセンセーショナルな形での注目を集めるに違いない。現役時代にローズ氏のハッスルプレーに魅了されたファンや関係者は、かつてのヒーローのそんな姿を見て、改めて寂しさ、むなしさを感じることになるのだろう。

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